5、私、魔界の食べ物を食べる
先に言っておきますが、レズものではありません!女の子同士のきゃっきゃうふふはありますが。
「魔王様~!」
「ひ、ひぃ~!!」
私は何故か、薄暗い一本道でルシフェルに追いかけられていた。逃げても逃げても距離は開かず、むしろ縮む一方であった。
怖い怖い怖い!本当に来ないでっ!!
魔王の脚力で逃げているはずなのにルシフェルは本気で走っている様子もなく、爽やかな、私からすると気持ち悪い笑顔で追いかけていた。
逃げるために闇の女神の権能を発動させて存在を隠蔽してみたが、やはりルシフェルには通用しないようで逃げることはできなかった。
何度も言うけど、今の私は魔王なのに逃げ切ることができない。私はついに体力が尽きて転けてしまった。
「ま~お~う~さ~ま~!」
もうダメだ。このままルシフェルの手によってエロ同人みたいな目にあってしまうのだ。
ごめんねシャルロッテちゃん。体を傷物にしてしまうかも。
自分を守るように体を抱き締めながら私は最後の抵抗として、大声で助けを求めた。
「誰か助けて!」
私の声が届いたのか空から人が落ちてくる。シュタっと着地して私とルシフェルの間に入る。
「これ以上魔王様に近づかせません!」
その人はアスモデウスだった。アスモデウスは私が逃げるのに苦戦したルシフェルを意図も容易く倒して私の側に駆け寄る。
「魔王様、大丈夫ですか?」
私に手を伸ばして優しく微笑み、アスモデウスは言った。吊り橋効果と、もともと綺麗な顔ということもあり、心臓が動悸が激しくなり、顔が赤くなるのがわかる。
「ありがとう。も、もう大丈夫です」
手を借りて立ち上がる。すぐ側にはアスモデウスの顔があった。顔がどんどん熱くなっていく。相手は女の子、と自分に言い聞かせて心を落ち着かせる。
「魔王様に何かあったと思うと私……」
「っ!」
私は気付いたら抱き締められていた。勿論相手はアスモデウスだ。状況を理解するのに少々の時間がかかったが、私は理解すると同時に心臓が飛び出そうなくらいドキドキしていた。
もうどうにでもなれ!
私は完全に身を預ける。
「魔王様……」
「アスモデウス……」
私たちは顔を見合わせる。そして顔の距離がどんどん縮まっていき……
目が覚めた。
「ゆ、夢?」
私はルシフェルに会った後、それを忘れるために寝ることにしたのを思い出した。我ながら皮肉なものだ。忘れるために寝たのに夢の中にまで出てくるとは。それに最後………
私は首を振って夢で起きたことは綺麗さっぱり忘れることにする。
私は汗が気持ち悪かったのでシャワーを浴びた後、しばらくの間ぼーっとしていた。殆どあの夢について考えていた。頭を振った程度で忘れることができる内容ではなかったのだった。
ある程度時間が経った頃、コンコンとドアがノックされる。
「魔王様、ご飯の準備が整いましたがいかがなさいますか?」
アスモデウスの声が聞こえてきて私は一瞬ビクッとしてしまうが、どうにか平静さを保った。
「今すぐ行きますわ!」
話し方が変になったのは緊張してしまったからだ。
私の返事を聞いたアスモデウスは部屋の中に入ってきた。どうやら料理を運んで来てくれたようだ。どこかに行く必要などないみたい。
アスモデウスの顔を見るだけで私の動悸は早くなっていく。顔はトマトのように真っ赤になっていることだろう。水をかけたら湯気になると思う。
そんな状態の私を見て心配してくれたらしい。
「魔王様、顔が真っ赤ですが熱でもあるのではございませんか?」
熱を測るために、私のおでこに自分のおでこをくっつけた。
近い近い近い!顔が近いよ!
当然のことながら私の思考はオーバーヒートする。許容量オーバーだ。私は正常でない頭を必死に働かせてアスモデウスから離れる選択をした。
「だ、大丈夫だから!」
私は動悸を抑えながら言った。
黙れ心臓!
「ですが、」
「それよりも早くご飯が食べたいな。私お腹が空いちゃって」
食い下がろうとするアスモデウスが言葉を言い切る前に食い気味に私は言葉を被せた。食事だけに。すいません調子乗りました。
アスモデウスは納得していないながらも私のお願いを聞いてくれて、机の上に料理を並べてくれた。
………おおう。
私はそれを見て浮かれた気分が一気に冷めた。豪華な見た目の皿に乗って出てきた机の上にある料理は、一言で言えば魔界チックだった。
魔界なのだから魔界チックなのは当たり前だろうが、なんだろう、この残念な感じ。
晩餐と聞いていたので豪華な食事をイメージしていたけど、さすがにこれは。いや、豪華だよ!だけどちょっと違うというか。
「お食べにならないのですか?今日の料理は全部魔王様の好物なはずですが」
「い、いや今から食べるよ!あまりにも美味しそうだったから言葉が出なかっただけで!」
うん、こうなればヤケだ。見た目がダークマターだったり、某妹の作る虹色カレーみたいだったりするが食べるしかないのだ。
今の私にアスモデウスちゃんの作った料理を食べない選択肢などない!
燃えよ!私の魂!女は度胸だ!
私は目の前にある料理?を口の中に入れた。
…………うっ!
ネチョっとしていて、酷い食感だ。味も色んなものが混ざっていて何が何の味かわからない。
私は自分の顔が今度は真っ青になっていくのがわかる。控えめに言って吐きそうだ。
「魔王様、お口に合いませんでしたか?」
アスモデウスは涙目の上目遣いで私のことを見つめた。くぅ~!!そんな顔されたら不味いとか言えないじゃないですか。
「凄く美味しいですわ!オホホ」
私は気合いと根性で料理を食べる。いや、味と食感を感じないように噛んでいないため、飲むという表現が正しいかもしれない。
端から見れば料理にがっついているはしたない女の子に見えるだろう。アスモデウスも驚きで目を丸くしている。自分の料理をこんな感じで食べてもらえてるので凄く嬉しそうだが。
「ごちそうさま……」
私は吐きそうで気持ち悪いのを抑えて言った。完食できてよかったよ~。
ついでに夢から目覚めた。アスモデウスを見ても顔が赤くならなくなった。キリッとしたカッコいい御姉様とか呼ばれそうなキャラではなく、どちらかと言えば少しダメなところがある子だとわかったのが理由だ。
今の私の中でのアスモデウスの位置は心の天使ということになってる。つまり私の癒し!
実際は悪魔なんだけどね。
私は魔界にきてやっと心の平穏を手に入れたのだった。
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「も、もしもし……」
シャルロッテは興味本位で誰からかかってきたかを口確認しないまま電話に出てしまった。
『やっと出たでござるか~!』
電話から聞こえてくる声は変な話し方をしていてシャルロッテは不思議に感じた。話し方が特徴的だったので思い出すことは用意だった。
「ごめん桃花、ゲームをしていたんだ」
この電話の声の主の名前は橘桃花。この体、つまり星野星座の数少ない友人でありゲーム友達だ。
話し方が「ござる」だったり、一人称が「拙者」だったりとおかしいせいで、学校で変な目で見られているところ、同じ境遇の星座と話すようになり、趣味が一緒ということで友達になったのだ。
星座は話し方は普通だが見た目が地味で片目が髪で隠れているので、簡単に言えば苛められやすいタイプと言えばいいのだろうか?勿論友達はいなかった。家と外ではキャラが違うタイプの女の子だったのだ。
二人が親友と呼べる仲になるのにそう時間はかからなかった。
『約束の時間になっても来ないから拙者心配になったでござるよ!』
どうやら今日も遊ぶ約束をしていたらしいが、シャルロッテと精神が入れ替わったことにより忘れていたのだった。
シャルロッテは約束のことを思い出し、今から行くかどうかを考えた。そしてこの女なら私のことを話したら信じてくれるのではないか。味方になってくれるのではないか。そう思った。
シャルロッテは未だにパジャマだったので着替えながら返事をする。
「寝坊しただけ、今から行くから少し待ってて!」
筋肉痛で痛む足を酷使しながらシャルロッテは家を出た。




