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リアの英雄物語-RiaOnline-  作者: 青我
Episode.01 The world of "Ria"
5/42

Chapter.4 はじまりの街 / 後編

「・・・!」

「セイレン様ぁ・・・どうしましょう! ミリヤちゃんが・・・ミリヤちゃんが・・・」

「ク・・・クエス・・・その・・・」


 そう、俺が来る前、クエスは風呂に入っていた。のぼせて先に出ていったミリヤの悲鳴を聞いて、出てきていたようである。風呂に入っていたままの格好で。俺がこれまで見たことも触れたこともなかった蓬莱の山が二つ、体に当たっている。


「こ、これは・・・最高だ・・・! い、いやいや、落ち着け俺! しまった、エモーションまで勝手に・・・!」

「・・・セイレン様?」

「と、とにかく服を着ろ!」


 現場は大浴場。目撃者は誰もいない。ミリヤの荷物らしき物は散乱しているから、何かを持ち去られた可能性もある。ここで無理やり連れて行かれた可能性も・・・。悠長に構える時間はない。


「クエス、一つ聞きたいんだが。」

「はい、なんでしょう?」

「この世界は、俺が以前プレイしていたころとシステムは同じなんだよな?」

「もっちろん!基本システム、職業構成、装備、スキル、魔法、マップはほぼ以前と同じままです。」

「その、ほぼ同じ、というのは?」

「シナリオの変更があった際に、一部改変が見られるんですが・・・残念ながらゲームマスター様しかわからないんですよねぇ。」


 なるほど。一部改変というのはちょっと気になるが、今はミリヤを助けるのが先だ。システムが以前と変わらないというのは好都合だ。


「なにか、私にできることはありませんかぁ・・・?」

「そうだなぁ・・・ちなみにクエスは戦えるのか?」

「無理です。」

「即答かよ・・・なら、ちょっと試したいことがあるんだが。」




 ――はじまりの街ビギナ、郊外。


「ここで大人しくしていろ。」


 物置みたいな所だろうか。口も手足も縛られた状態でミリヤは監禁されていた。扉の向こうで男たちが何やら話をしている。タオル一枚の半分裸のような格好で放置され、身動きすら取れない。


「(どうして・・・私、これからどうなっちゃうんだろう・・・)」


 涙が流れた。怖さと悔しさと、飲み込めない現実が心を包んでいる。数時間前、凄腕そうな冒険者さんと出会って、アイテム集めを手伝ってもらって、優しくしてもらった。なんて素敵な世界なんだろう、って、思ったばかりだったのに。


「(・・・セイレンさん、クエスさん・・・)」


 扉の向こうの声が近づいてくる。何か良くない予感が心臓の鼓動を強くした。

 下衆な笑い声と共に、男が二人入ってきた。


「ゲヘヘ・・・嬢ちゃん、今夜はお兄さんたちがたっぷり可愛がってやるからよぉ。大人しくされろよなぁ!」

「兄貴、終わったらすぐに回してくださいよ! 連れてきたの俺なんッスから!」

「わかってるっつの! てめぇの汚ったねぇ赤っ鼻見てたら萎えるだろうが! ちょっと外出てろ!」

「へいへい・・・。」


 赤鼻の男が出て行くと、大柄な男がミリヤの元へ歩み寄ってきた。・・・服を脱ぎながら。


「(・・・!)」

「せっかくの女だ・・・ちょっとくらい使ってからでも問題ないよなァ!」

「(ひっ・・・)」


 体を包んでいたタオルに手がかかった。


「(助けて・・・! 誰か・・・!)」


 その時、扉の外で男たちの叫び声が聞こえた。ミリヤのタオルにかけた手が止まり、大柄の男が不審がって外の様子を気にしだした。


「なんだ騒々しい・・・。」


 すると、突然扉を突き破って、先ほどの赤鼻の男が吹っ飛ばされてきた。

 ほぼ瀕死の状態だ。


「おい、何事だ! 返事をしろ!」

「う・・・兄貴・・・ば、化物・・・」

「化物・・・だと?」


 入口の闇に包まれて、カンテラの薄明かりの及ぶ範囲は非常に狭く、その姿を視認することは容易ではなかった。おまけに、扉を突き破った時の砂埃が更に視界を悪くしていた。


「誰だ、そこにいるのは!?」

「(た・・・助かったの・・・?)」


 大柄の男はダガーナイフを取り出し、身構えた。砂埃が落ち着いた。入口にいたはずの姿が消えていた。


「誰も・・・いない・・・?」


 大柄の男の背後に忍び寄る影。一瞬にしてその大男をばらばらに分解すると、影はその場に転がった無表情な顔を踏み潰していた。

 ミリヤは恐るべき光景に何が起こったのか理解できなかった。闇に紛れたソレがミリヤに視線を落とすと、ミリヤはその瞳に吸い込まれるように、意識が遠のいていった。

 遠のく意識の中で、ミリヤは自分の名を呼ぶ声が聞こえた。

 これは走馬灯なのだろうか。自分の名を呼ぶ声に応えると、完全に意識を失った。



 ――30分ほど前。

「ちょっと試したいことがあるんだ。Riaでは通常、行動を共にする場合パーティーというものに加入するんだが、クエスはパーティーを組むことは可能なのか?」

「えーっとぉ、一応、特殊なコマンドを用いることでパーティーは組めますですよ。」


 RiaOnlineでは、パーティーを組むことにより、パーティー情報からメンバーがどこにいるのかがわかる。マップにも簡易的に位置表示がされるため、ある程度の追跡が可能だ。俺にも使えるのだろうが、イマイチ勝手がわからなすぎて試している時間はない。クエスにパーティーを組んでもらうことで、一時的に行動を共にしたミリヤのログから辿ってパーティーに加えることができるはずだ。


「クエス、頼む。」

「仰せのままに♪ コマンド――“オーガニゼーション”発動。パーティー構成開始――!」



 ――はじまりの街ビギナ、郊外。


「・・・これは酷いな。」


 街外れの街道沿いに森がある。初心者がアイテムを集める課題を出された時に、よく立ち寄る森だ。こんなところに小屋なんてあっただろうか・・・これも改変の一部なのだろうか。

 小屋の前には無残にもズタズタにされた盗賊(シーフ)らしき男たちの死骸が散らばっていた。現実なら吐き気を催すのだろうが、不思議と冷静でいられた。


「シーフたちに連れ去られ、ここに来た。それは間違いないだろう。しかし、何故こいつらが殺されているんだ・・・?」

「セイレン様・・・ミリヤちゃんは・・・」

「今はまだ何とも言えない。すぐに後を追おう。」


 パーティー情報によれば、ビギナの森を抜けたところにミリヤはいるらしい。パーティー表示がある以上、ミリヤは生きているに違いない。

 俺とクエスはビギナの森に入っていった。森の中は、画面の前で見ていたときとは全く比べ物にならないほど不気味で薄暗かった。


「ミリヤちゃんの動きはこの先を抜けたところで止まっているみたいです!」

「・・・了解。」


 森にはモンスターも潜んでいた。初心者用マップなので、状態異常を起こさせる敵がいないのは幸いだ。アクティブモンスターの数こそ少ないが・・・巨大昆虫型モンスターの姿を見るたびに卒倒してしまうクエスと一緒ではなかなか先に進めなかった。


「(完全に足でまといだ・・・置いてくればよかった)」

「セーイーレーンーさーまーー? 聞こえてますよー!」

「(うっ・・・汗)」

「私がいないと、正確な位置がわからないって言うからついて来てるんじゃないですかぁ! もう!」

「わ、悪かったって!」

「その頭装備のロウソク外してくださいよ! モンスターが集まってくるじゃないですか! キャーーーー!」


 しかし、この“ウシミツドッキリ”って頭装備があったおかげで、森の中も進むことができたわけだが・・・明かりに昆虫型モンスターがわんさか集まってきてしまったのは本当に予想外だった。ガモス(蛾型のモンスター)が来た時には、さすがの俺も気持ち悪かったが・・・。

 森を抜けたところは、転職アイテムである月光花が咲く“月見の草原”と呼ばれるマップがある。巨大な満月の青白い光に照らされた草原は、とにかく幻想的で、吹き抜ける風の香りも、作られた世界とは思えない、現実そのものだった。

 幻想的な雰囲気を妨げるものがあるとすれば――俺は草原に佇む人影に目が行った。人影・・・ではないな。あれは、確か・・・。


死の幻影種(ドッペルゲンガー)・・・?」


 死霊系のボス属性モンスターである。


「なぜこんな草原に・・・しかも、あいつはダンジョン固定で出現するモンスターのはず。」


 ダンジョンのボスの実力は折り紙付きだ。並大抵の上級冒険者では、ボス属性モンスターにはまず勝てない。小屋に転がっていたシーフたちのレベルでは当然太刀打ちできる相手ではない。こんな奴が、初心者マップ近郊に出現するはずがない。


【我ハ死霊ニアリテ生者ニアラズ・・・カツテコノ身ヲ滅ボセシ神ノ末裔ヨ・・・我ガ呪イヲ受ケヨ・・・我ハ闇ノ招キ手・・・我ガ姿ヲソノ目ニ写シタ時・・・我ハ汝ト為リ・・・汝ハ我ト為ルダロウ・・・】


 死の幻影種が戦闘モードに切り替わるとき、その言葉を口にする。プレイヤーと対峙し、その禍々しいオーラを漂わせて。青白い、それでいて闇を深くしたような靄のかかった姿で、瞳だけが炯々とこちらを見つめている。一切の慈悲を感じさせない無表情さが月明かりに照らされた瞬間、戦いは始まった。

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