八雲悟壱の怪奇
「ねえ、聞いた?」
1人の女子がいかにも面白い話を聞いた様な感じで隣の席に声をかけた。
「何を?」
と、ユイはそっけない返事を返しす。
「八雲先輩また幽霊やっつけたんだって」
「あー知ってる。襖から出てくる女の霊を待ち伏せして塩をかけたんだって?」
放課後、教室がオレンジ色に染まる頃であった。
女子生徒2人はかの有名な八雲先輩なる人物の噂話をしていたのである。
「一度さー。ユイの家の事も相談してみればー?」
「そうだね」
少女は度重なる心霊現象に日々悩まされていたのだった。
つい数ヶ月前に、現在の家に引っ越してきたのだが、丁度そのくらいから数々の心霊的な現象に悩まされてきたのである。
「考えてみるよ」
そしてユイは学校を後にし、あの家に向かって足を進めた。
家に家族がいることを願ったが、鍵が閉まっているところを見ると恐怖と落胆がこみ上げる。
そしてユイが部屋に向かう途中、押入れの上の天袋が目に入った。
次の瞬間、呼吸が困難になった。
同時に背中に冷水を浴びせられる感覚にとらわれ、足を一歩、後ろに下げる事もできなくなってしまったのである。
とてもグロテスクな、男の霊を見てしまったのだ。
特に、顔は無残で目には殺意が込められた非常に性質の悪い悪霊だった。
奴は、だんだんとユイに近づいた。
そのどす黒い何かは、手に剃刀と思われる刃物をにぎり、ユイの首筋に近づけてきた。
本当に、霊に殺される事があるのだと悟った。
恐怖のあまり、吐き気がする。こんな家からは、一刻も早く逃げたい。でも足が動かないのである。
その時だった。
玄関のチャイムが鳴った。
「おじゃましまーす」
聞きなれない。男子生徒の声だ。
先ほどのクラスメイトがユイを心配して、八雲先輩を呼んできてくれたのだった。
「失礼します!3年の八雲と申します。悪霊をぶっ飛ばしに来ましたぁー」
間髪いれづに、八雲先輩は悪霊の前に、立ちふさがる。
「今から質問する事に答えろ、お前はこの子に何をしようとしていたんだ?良心があるなら、今すぐ、引け。悪意があるなら俺を殺せ」
悪霊は、八雲先輩に刃物を向けた。
が、しかし、次の瞬間、悪霊の腕が宙を舞った。
八雲先輩に刃を向け無事だった悪霊はいない。
「ユイちゃん。ちょっと暴れさせてもらうけれど、良い?」
ユイは真っ白な頭のまま、うなずいた。
悪霊は、異様な形のまま、グチャグチャと変な音をさせて襲ってきた。
八雲先輩は鞄から経本を取り出した。
「慈悲寂滅流、三毒、破壊!!」
呪文を唱え、経本を一振りすると、悪霊の体が真っ二つになった。
八雲先輩は、悪霊が再起不能になった事を確かめてからこう言い放つ。
「おじゃましました。じゃあまた明日学校で」