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第3話 ブラック・インペリアムの世界進出。

 異空戦騎 TS戦記が上手く進まないのでこちらに逃げております。

 こっちが躓いたら向こうが進むのだろうか。

 近頃、VRMMOの世界で異変が起こっていた。

 異世界の魔王を名乗る存在が魔獣モンスターの軍団による侵略である。

 最初は運営による大規模クエストだと思われていたのだが、西アフリカサーバーの一つが自称・魔王軍によって攻略された時にトラブルが発生した。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 西アフリカは西洋諸国の植民地として社会構造が破壊され、政治的独立を果たした後も経済的に依存体質が構築されていた為に苦しい時代が続き、更に21世紀前半に起こった致死率の高い感染症が蔓延したこともあり極貧地域として国際連合から指定されていることもある。

 かてて加えて異なる民族や宗教対立、麻薬組織の暗躍が渦巻き、民間の軍事力による民族浄化や武装テロが横行する危険地帯でもあった。

 一方で、貧乏人の子沢山と云う言葉もあるように、非衛生的な環境で生み育てられる彼らの平均寿命は短い。

 特に乳幼児の致死率は致命的であり、それがより一層の子作りの要因とも成っている。

 その負のサイクルを断ち切るべく、国連の諮問機関は対応政策として従来通りの医療活動の他にも活動を始めた。

 それが娯楽充実施策であり、貧困層の住民が無料で利用できる大規模なVR施設を作り、勉強・頭脳労働・娯楽に思考を向けることで子作りが一番の娯楽と云う環境を改善する施策である。

 なので出生数の減少により子供の数がある程度減り、一人当たりの食料事情が豊かになり、医療を受けられる割合が増えてくると健康的に育てられる若者の数は増えて万々歳、かと云うとそうとも言えない。

 反政府武装組織の中にはVR施設自体を西洋文明による洗脳施設だとして襲撃を掛ける者もいたし、麻薬組織は麻薬の栽培に関わる人員の確保や麻薬の販売に支障が出るからと云って破壊活動を行う者もいた。

 必然的にVR施設の警戒レベルは上昇し、武装警察や民間軍事会社による警備は紛争レベルの備えである。

 さて、そんな警戒レベルの高い施設であるので、施設内での破壊活動に備えて監視システムの構築も充実しているのだが、ある日、娯楽システムのひとつであるVRMMO『スーパーFT大戦』で情報障害が発生した夜に不審な影が施設内を徘徊している事が検知された。

 ソレは緑色の迷彩服を着た子供の様に小柄な背丈の筋肉質をした人物で、柱の影を使って人目を避けているようだったが、監視カメラの映像や赤外線警報装置の事は全く認識している様子はなかった。

 直ぐ様警備室から完全武装の警備員が四人向かい、防火扉や廊下の扉をロックして相手の進路に立ち塞がった。

 うっほうっほと独り言を漏らして歩いている緑色の小人を遮った警備員たちは小銃を向けたまま英語とフランス語、現地語で警告を発する。


「待てぃ! ここより先は立ち入り禁止だっ! 身分の確認が取れるまでそこを動くな」

「聞こえたら動きを止めて、武器を離し、地面に伏せろ」


 一応施設に被害を与えない為に非殺傷スタン武器を携帯しているが、その威力は打ち所が悪ければ頭蓋骨でも骨折する、あからさまに人命よりも施設を優先している事が伺える。

 もっともこの2060年代、様々な要因でテロリストが蔓延している為に『テロリストに人権はない』と云う認識が世界標準であるので当然と云えば当然だった。

 警備員による警告が聞こえた緑色の小人は警戒して斧、しかも石斧を構えて原始時代の原人の様に人語とは思えない雄叫びをあげた。


「ゴォァアアアア!」

「こいつ?! チンパンジーかボノボを知能強化した生物兵士か?!」


 とても人には見えないが、武器を構えて敵対行動をとる敵を見てそんな事を口走る警備員のひとりであるが、この時代にその様な技術はない。

 無いのだが、フィクションの世界では定番であるが故に頭に浮かんでしまったのだろう。

 ここで『ファンタジー世界から亜人デミ・ヒューマンがやって来た』と考えなかったのは常識的な性格であるが故の物である。

 敵が人間以外であろうと、彼らの任務は情報処理装置がある演算室に敵対人物の侵入を防ぐことである。

 なので躊躇いもなく警備員たちは大口径の銃口を不審人物へと向けて引き金を引いた。

 タンタン! と気の抜けた音を発して軟質材で出来た牛乳瓶並の大きさがある低初速弾が銃から放たれた。

 目で追える程の低速ではないが、ヘビー級ボクサーのストレートの数倍の威力の軟質弾が不審人物の腹に命中した。

 筋肉質であろうが体重が軽量なので不審人物は数メートル吹っ飛ばされて壁に叩きつけられる。

 ズルズルと床に転がった不審人物の親指と足を拘束バンドで固定した警備員たちは注意しながら相手の観察を始める。

 その内の一人は警備室と無線で連絡を取りながら報告をしていたが、警備室から悲鳴のような連絡を聞いて、非殺傷銃を通路の奥に向ける。


「警備室から連絡。不審人物の反応多数発生。その数は・・・・・・数百名以上!? これより防護隔壁を降ろして籠城体制へ移行する。直ちに引くぞ」

「りょ、了解」


 彼らが後ろを気にしながら警備室へと駆け戻って行くと、戦車砲の直撃にも耐える厚さ50センチ以上もある特殊装甲材の隔壁が通路を塞ぐ。

 通路の電灯は監視カメラ用にも照度が保たれているが、集中力を削ぐ目的でペカペカと点滅を繰り返している。

 これがまた、やけに気に障る点滅の感覚で、1メートル毎に通路の左右に設置されているLEDランプの右が点いたと思えば消えて、左が点いた様な気がしたがやっぱり右が点いていたり、明暗の差で死角と視界のバランスを狂わせる仕掛けが成されている。

 一部の壁紙には電子ペーパーによる風景画が表示されていて、光学迷彩の効果を上げる試みも成されている。

 更に一定の間隔でスピーカーが設置されていて、耳で聞こえるギリギリの極低音がアンバランスに変化を続けて、モスキート音が常に周囲を回り、ヒソヒソ声が聞こえ続けると云う相手をイライラさせる余興まで仕込まれているのだが、主目的は強烈な閃光と轟音で相手を無力化するスタン兵器である。

 その様な環境にある廊下をぞろぞろと並んで進む一団があった。

 その大半は緑の小人と同じ種族なのだが、ひとりだけ黒い全身鎧に漆黒のマントを羽織ったザ・黒騎士ブラックナイトと呼びたくなる人間の姿が見て取れる。

 緑の小人たちが照明や音響に影響されて足がフラついていると云うのに、黒騎士は平然とした歩調で歩いている。

 彼は斥候として派遣していた緑の小人が床に縛られているのを見ると鼻を鳴らした。

 敵を殺さずに無力化しているだけと云うのは彼らの流儀には有り得ないものであった。

 敵は殺す、殺して魂を奪う。

 それこそが魔族の繁栄を支えてきた人間の正しい使い方なのだ。

 彼が剣を一閃すると緑の小人を拘束していたバンドが切り裂かれ、自由を取り戻した緑の小人は相手の事を罵りながらジタンダを踏んで悔しがっている。

 ふむ、と一言呟くと味方であるが知能が低いゴブリンの事を気にしていても仕方がないので、黒騎士は先を急ぐ。

 すると通路は行き止まりになり先に進めない。


『ここが敵の中枢か。しかし、行き止まりのようだが。ふむ、無いのなら、扉を作れば済むこと』


 そう言うと彼は鞘から黒い両手剣を構えて正眼に構えMPまりょくを込める。

 すると黒い刃から赤黒いオーラが漂い怪しい雰囲気が周囲を包む。

 この時、武装テロリストの様子を観察していた警備員は時代錯誤の格好にも驚いていたが、いきなりソードが光るという現象にも驚きを隠せないでいた。

 さて、光は徐々に強くなりつつあり、その禍々しい様子に警備員は焦りを隠せなかった。

 特殊装甲の分厚い扉が壊せる筈がないと信じてはいたが、激しい悪寒に彼はコンソールのボタンを押す。

 途端に通路の照明が落ちて真っ暗になり、次の瞬間、照明の輝きは最大になりスピーカーから音圧を感じられるほどの轟音が飛び出し、相手を打ちのめした。

 ゴブリン達は神経が受け止められる最大限を超える刺激に意識を失う者が多数出たが、黒騎士は微動だにせず、気にも止めずに力を込め続けていた。

 そして目をカッと開くと大声を上げて剣を振りかぶる。


『|私が知る限り最も威力が大きくて格好良い斬撃エル・カルバリ・エメルシタス・セーゼ!!』


 ゆっくりと振り下ろされた刃は分厚い特殊装甲をまるでバターの様に切り裂いて行く。

 四角く切り取った扉を蹴り飛ばすと、50センチの装甲の積層された装甲材の断面が見えている。

 黒騎士は『ふぅ』と息を吐き、後ろを振り返る。

 彼の配下たるゴブリン達は大半が昏倒しており、無事な者はほとんどいない。

 黒騎士の実力は相当高く、彼一人でもこの施設を制圧できるのは確かであったが、配下を上手く使うのが指揮官と云う階級の目的であり、それが出来ない者に指揮官の資格はない。

 彼は腰のポーチから護符を取り出すと眼前にかざす。


『我が敬愛する魔神よ。その名を広く世に示すその為に、我に力を貸し与え賜え。魔力顕現・イーブル健康法ヘルスケアー


 オドロオドロシい黒い霧が発生したかと思うと、それらはゴブリン達を覆う様に広がって行き、静寂に包み込んだ。

 しばらくするとゴブリン達のうめき声や絶叫と共にゴキリゴキリと間接が軋み腱が限界まで引き延ばされるような不気味な音が響き渡る。

 しばらくすると霧は晴れ、微妙に肌の黒くなったゴブリンどもが目を覚ます。


『敵の人間達はこの扉の先にいる。汝等は死を恐れるべからず、我を恐れよ。積極果敢に闘わぬ者は、この我が自らの手で滅ぼしてくれようぞ』


 その言葉を聞いたゴブリンどもは恐れの光を浮かべるどころか、爛々とした好戦的な眼差しで扉を見る。


『では、掛かれぃっ!』


 黒騎士がグレートソードで命令を下すと、ゴブリンどもはまるで川の流れの様な奔流となって扉に殺到した。

 扉の向こうでは敵の突入を待ちかまえていた警備員達が通路の反対側にバリケードを築き、そこへ機関銃を構えて撃ち放っていた。

 十に近い機関砲が連続して弾丸を吐き出し続け、幅4メートルの通路を完全に死の通路と変えていた。

 前列のゴブリンが射殺され、床に転がり後続の足が取られてしまったが、ゴブリンの勢いが止まる事はなく20メートル先に築いたバリケードに取り付いた。

 専用の陣地ではなく事務机やパイプ椅子、その他諸々の事務用品で構築されたバリケードはあっという間に解体され、ゴブリンはバリケードの内側へと侵入を果たした。

 極めて原始的な摩性石器の石斧が乱れ飛び、或いは叩き下ろされて高度に文明的な警備員の装備を叩き潰して行く。

 密着戦闘に移行したことで小銃から電磁警棒に装備が持ち替えられて、電撃がゴブリンを打ち据える。

 警備員の制服は耐電性に優れているので味方の電磁警棒が接触しても効果はないが、フンドシの様な下着姿に装飾具をつけただけのゴブリンには効果的だ。

 しかし、戦いの勢いが違った。

 過去、北アメリカ大陸にてアーリーアメリカン達が、アメリカ大陸を侵略していた白人達に逆撃を喰らわせた時に銃器に対する恐怖を知らずに致命傷を受けても攻撃を続けた事例があるように、ゴブリン達は多数が殺されても確実に警備員を殺傷していった。

 元々、魔王軍に於いて繁殖率の高いゴブリン達は数の暴力で敵を押しつぶす人海戦術に用いられる事が多く、ある意味良くある事なのだ。

 死屍累々の惨状となった通路を黒騎士が悠々と歩いて行く。

 切れ味が悪く打撃力による攻撃を受けた警備員達は致命傷を負いながらも死に切れず、激しい苦痛に呻いているが、黒騎士はまるで死に神が魂を刈り取るかの様に通りすがりの死にかけた警備員達に止めを刺して回った。

 別に慈悲があるわけではなく、戦場の作法としての行動である。

 彼が中央制御室に入ると、事務員達の死体は一カ所に纏められて積み上げられていた。

 近代以降、国家が交戦する際は敵兵及び敵の軍属の生き残りは捕虜として手厚く取り扱うべく交戦規定が定められているが、これは敵との交戦が政治的解決の延長線上にある物であり、敵に対する怨恨ではなく、正義に基づく正当なものである事を立証する目的があるからだ。

 その証拠にテロリストは政治的意図を有するが交戦規定を有しない為、投降してきた敵兵に対し政治的意図や味方を殺された怨恨を晴らすべく虐殺する事が多い事が分かる。

 これは現在、イラクで活動している過激派組織・自称『イラクとシリアのイスラム国』が投降してきた兵士を虐殺した事からも、名称の如く国家とはほど遠い宗教的過激派組織に過ぎない事を自ら立証している。

 だが、これらの常識は地球文明でしか成り立たない理屈であり、魔王に率いられた彼ら魔族は相手が兵卒であろうが士官であろうが民間人であろうが、皆並べて殺戮する慣習を持っている。

 そう云う常識を持つ国家で成長した知性体は知的生命体の息の根を止める事に対する罪悪感や嫌悪感を持たずに、嬉々としてそれを行う。

 さて、黒騎士は完全クリーンルームとなっている扉を開き、中へと侵入する、と途端にエアシャワーが作動して全身に強力な風を浴びる羽目になってしまったのだが、彼は慌てることなく風が吹き出してくるノズルをグレートソードで切りつけて、全開になった破孔から噴出した猛風と金属片を浴びて渋い顔をしたが、反対側の扉を押し破って室内に侵入した。

 センサーによってパーティクルを含んだ汚染された空気が入った事が検知され、空気洗浄対応を行うように勧告が成されたが、地球の言語を理解しない、更に生体が発するオーラ的な物に反応する翻訳魔法の効果外であったので勧告に反応することなく目的の物に歩み寄った。


『これが「考える石」か。この中にひとつの精霊世界が入っているとは信じられんが。私には理解の及ばぬ物よな。さて』


 彼は大規模分子回路の前に歩み寄ると呪詛カース呪符タリスマンを置いてその前に踞く。


『我が世界、讃えられんかな我が祖国、魔王様により導かれし暗黒の国とこの球形フィグリド世界を繋げよ。栄えあれ魔国よ』


 彼が呪言を唱えると呪符タリスマンは光り輝いて大規模分子回路を包み込んだ。

 その内部で走っていた世界のプログラムは歪められ、内部世界、仮想現実の中に魔王の国と繋がるゲートを形成する。

 ワラワラと沸き出した魔物が仮想現実に溢れ出し、浸食して行く。

 浸食率が100%に達した時、現実世界の大規模分子回路にも変化が現れた。

 世界の理が、魔力が物理力を凌駕し最大の支配率を持つ理へと相転移していった。

 そう、魔力のないこの世界に、魔力による干渉が可能となる領域が広まっていった。

 それは西アフリカサーバーが支配する領域と重なっている事が見て取れるだろう。

 世界中のコンピューターはネットで繋がり、コンピューターウィルスの様に蔓延しようとしていた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 現在、世界中のコンピューターはネットワークによって緊密に結ばれており、大人数がアクセスするVRMMOを主催するコンピューターは特に地域に対する支配率が高かった。

 サーバー攻略の直後から地域内のコンピューターの動作が不明瞭になり、謎のプログラムが走っていることが確認されていた。

 その影響で地域内の社会インフラの制御が破綻し、治安の維持すらままならない状況に陥った。

 新種のウィルスと断定されたそれは、各種防疫プログラム会社やハッカーなどによって対応が急がれたが、独自のプログラム言語による物であり解析に手間取っている内に地域内のコンピューター群は完黙した。

 サイバー的には手を出せないと云う事で、物理的に修理するためにメーカーが修理に向かったのだが、謎の武装集団に襲われる羽目になった。

 謎の武装集団の戦力は強く、普通警察の後に投入された武装警察の介入を退けるほどであり、マスコミに報道されたことからその存在は世界中に情報は発信された。

 カウンターテロ用の特殊装備をした警察部隊を退けられて威信を傷つけられた西アフリカ現地政府は、地域の情報を処理するメインフレームが武装勢力によって占拠状況にある事は社会的に影響が大きい事として、軍隊に動員を掛けてコンピューターが置かれているビルディングの制圧に入ったのだが、ビルの周辺100メートルには不可解な力が働いている事が判明した。

 軍が謎の武装集団に対して銃器で攻撃するも、青竜刀みたいな武器を手に持ち金属鎧で覆った背の低い緑色をした人型の兵士に対して効果が薄かったのだ。

 そして、敵の武装集団の中にいたフードを被って髑髏のお面を着けた怪人物が杖を振るうと炎の塊が飛んできて兵士達を焼いた。

 まるでファンタジーRPGみたいだとネット掲示板で話題になったのだが、それが正解だとは発言者本人でさえも信じてはいなかった。

 事態が変化したのは軍隊が投入されたにも関わらず籠城状態が一ヶ月も続いたある日の事であった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 日本国東京都某市のベッドタウンにて。

 VR技術による自宅勤務が一般化してより、自宅警備員と頭脳勤労者との区別が付きにくくなったこの時代。

 彼のように昼間から自室の介護装置が完備された自動ベッドに横たわりVRギアを頭部に装着している人間の数は多い。

 それで彼が自宅警備員か頭脳勤務者かと云う問題はどちらにより足を踏み込んでいるかが問題であるのだが、ぶっちゃけ、自宅警備員であった彼がVRを介して行っているバイト、つまりVRを介して遠隔ロボットを操縦して介護事業の作業に従事しているので、頭脳勤務者と呼ぶのは如何なものかと思われる。

 まあ、介護のバイトは匿名性が全くなく自己責任に於いて対人介護を判断し行動する必要があるので、社会貢献プログラムで高いポイントを得られる事が利点だ。

 さて、彼の最近の活躍の場は仕事ではなく、趣味のファンタジーVRMMOにある。

 彼の所属するギルドには、一言で云って変人とか呼称されるカテゴリーの人間が多い。

 だがその分、自分に素直に行動できるので他人よりも成果を上げることが出来るのだ。

 本日、夕刻より行われたギルド会議ではファンタジーVRMMOでの今後の活動方針が話し合われた。

 彼、VRMMO内での呼び名に従ってザッシュと呼ぶ、ザッシュは戦闘では中堅として活躍しているがギルド内で複数あるチーム内の戦闘行動を組み立て程ではない。

 やれば出来る子だと周りは言うが。

 さて、チームリーダーの魔法使いガウオークが今度はチロリ地方のダンジョンにでも潜ろうか、と提案しているのを聞いてザッシュも用意するアイテムを頭に浮かべたのだが、そこへギルドマスターが現れてビープ音を鳴らす。


「やあやあ皆の衆、聞いて貰いたい。実はね、我がギルドが誇る天才ハッカーのバッシュ君が凄いことをしでかしてくれたんだ!」


 ギルドマスターを務めている暗黒司祭のバド・ロイドが褒めているのか貶しているのか分からない言葉で隣に立つ小柄な錬金術師の肩をバンバン叩いていた。

 バッシュと呼ばれた錬金術師は肩の痛みに顔をしかめながら自慢げな顔をしている。

 因みに彼はハッカー協会に所属していて、理念に沿った活動をしているのだがハッカーの常識が世間の常識とは異なるが故にサイバー警察にサイバー補導される事が数回ほどあった。

 とは云え、迷惑行為をすることが目的のクラッカーとは違う、と念頭に置いて活動していることからハッカー自体の存在は否定されていない。


「実はボク、西アフリカのサーバーを占拠したウィルスの防壁のね、バックドアを発見したんだ。

 他のメインフレームには出来なかったんだけど、VRMMOのサーバーになら偽装プログラムを入れたVRMMOのキャラクター識別信号で接触が出来るみたいなんだ。

 でも、普通の通信やワクチンプログラムみたいな人工無能や人工知能は受け付けなくて、でも、人間が直接VRで操作するキャラクターなら防壁の内部に入ってウィルスプログラムを破壊出来るのだ。だ、だから、みんなにこのVRMMOのキャラクターでワクチンプログラムをサーバーの中で動いているウイルスキャラクターに撃ち込んで貰いたいんだけど。ダメかな?」


 彼がオドオドとしながらそう言うと、茶髪で軽い感じの冒険者が手を挙げる。


「しつもーん、サイバー警察にメールで報告すればいいんじゃないの?」


 当然最初に考えつくだろう行動をしないのか、とバッシュに確認するが、バッシュは薄暗い笑みを浮かべて考えを口にする。


「だってそれじゃあボクの手柄にならないし、ハッカーとしての評判も上がらないでしょ?

 ボクは電脳世界の錬金術師アルケミストって呼ばれるのが夢なんだから、それにボクにハッカーとしての新しい依頼も欲しいしさ、最近ちょっと赤字が厳しくて。

 第一、サイバー警察のレベルだけ高いにわかキャラクターじゃキャラクターレベルは高くてもプレイヤーレベルが低すぎて話にならないよ。当然じゃん」


 何故だか得意げに語り出したバッシュに軽い感覚で茶髪男子は茶化した口調で返事を返す。


「ほーい、つまり、俺達選ばれし者達のみが攻略可能って訳か」

「うん。参加するならこの魔動コインを受け取って、転移門ゲートで西アフリカサーバーのサハラ砂漠にあるオアシス都市に向かってくれるかな? あそこが西アフリカサーバーを占拠した敵の拠点みたいなんだ」

「へぇ、面白そうじゃん。つまりいつもみたいに魔法で弓矢で剣で敵の魔獣モンスターや兵隊を倒せば良いんだよね?」

「うん。それで神殿の祭壇にこの宝珠オーブを置いてくれればワクチンプログラムが敵を仕止めてくれる。今回の冒険ミッションはサハラ砂漠のオアシス都市にある神殿の祭壇にオーブを届けること。あと、敵の戦闘データーやドロップ品のサンプルもお願い」

「初見の敵か。戦力バランスが取れてれば良いんだけど。と云う事でウチのチームは参加するよ」


 茶髪の彼がそう言うとギルドマスターは頷いた。

 そして他の参加者を募るべく周囲を見渡すと、戦闘用の装備を着け始めているギルドメンバーの姿が見て取れた。


「あー、全員参加で構わないのかな?」

「うーっす」

「チーム・野武士もオッケーっす」

「カナタは野暮用で遅れるそうです、うちらカタコンベ・チームはカナタを待ってから出撃します」

「了解した。では出撃準備を整え、今から30分後にゲートから出撃する。因みに2回目からは別のギルドにも声を掛けて大規模攻略、戦争モードに入る予定なので覚悟するように。以上、解散」


 ギルドマスターが宣言するとギルド員達は三々五々、チーム毎にまとまって準備を進めていった。

 宣言から30分後、どやどやとギルドホールからゲートに向かうギルドメンバー50名、11チーム。

 個性的な面々が多い為にスタンダードな構成のメンツは少なく、主君を持たない武士の集団や女性ばかりのアマゾネス達、黒魔術の妖術士や魔法剣士と云ったメンバーで作った暗黒チームなどが多い。

 その中でザッシュは比較的普通の剣士姿であり、魔法の道具は使うが魔法剣士を名乗るほどでもない普通の戦士である。

 彼は平原や山間部、そしてダンジョンを主な活動領域として行動してきていたので、慣れぬ砂漠デザート領域での装備を頭に浮かべた。

 極めて乾燥した空気は昼間は灼熱、夜間は凍えんばかりの低温になり、熱光線を浴びせてくる太陽光を遮断する必要がある、と云う知識を持っていたのだ。

 wikiやチュートリアルに載っていたから。


「あー、砂漠デザート領域エリアか。高温の火傷と低温対策にローブを装備しなくちゃいかんね」

「うむ」


 独り言を呟いたつもりだったのだが、近くにいたガウオークがそれに返答を返してきたので、ザッシュは少しビックリして彼の方に顔を向けた。


「魔法使いの私はローブを標準装備しているから良いが、金属製の部分鎧を着用している戦士は直火焼きの危機だからな。なに、直射日光さえ遮れば体力抵抗値に換算すれば、乾燥した空気は汗の気化熱を奪い取り体温を下げるに十分だ。対応ポーションとして必要なのは水分と塩分だから、補給を忘れんようにな」

「分かったよガウ。赤穂の塩メーカータイアップの塩飴「安全安心美味しいお塩」とミネラルウォーターを樽で10個も用意すれば十分しょ」

「本物の旅ならラクダにでも積まなきゃ持ち運べんが、アイテムボックスがあるからな。VRは便利だよ。ああ、だが、身体の動きを阻害するデザインのローブは使うなよ? トンビコートみたいな両腕が自由になるデザインの物を探すんだ」

「OK、リーダー」


 リーダーのガウオークの助言を聞いたザッシュは以前に購入した色々なデザインのコートやマントの中から条件に適合した物を選択し、部分鎧の上から装備した。

 ザッシュ、彼の本名は雑司ヶ谷 種雄。

 小さい頃に名字と名前の頭文字を並べると雑種となってしまう自分の名前に不満を持つ青年であった。

 今現在はハンドルネームにザッシュと使うくらいには気にしているが、嫌いではない、らしい。

 雑種犬とか、丈夫で良いと嘯いている。

 さて、町中では突然ひとつのギルドが完全装備で戦闘に赴くと云った出来事に注目が集まっていた。

 ギルドひとつが戦闘行動に入るほどの大きなイベントとも成れば、この町ひとつ位は滅亡する大規模イベントであっても不思議ではないからだ。

 だが、運営から大規模イベントに関しての通達はなく、ギルド単位で他の町に対して戦争を仕掛けるのか? 大型の幻想種討伐クエストにでも行くのかと野次馬の噂話は尽きない。

 ゲート前の広場にチーム単位で集まったギルドの面々を前にして、ギルドマスターのバド・ロイドは壇代わりの木箱の上に立ち、ギルドメンバーを見渡し宣言した。

 だがしかし、彼の職が暗黒司祭であるが故にその光景は非常に威圧的であり、これから悪事でも働くのではないのかと予想される雰囲気を醸し出していたが。


「これより我々は西アフリカに巣くう敵の掃討任務に入る。皆、装備の点検は済んだか? 糧食、ポーション、魔法道具の準備は大丈夫か? そして魔動コインは装備したか? ならば良し。これより威力偵察を兼ねて敵領域へと進入する。行くぞ」


 彼が先端に小型の鬼種の髑髏を加工して取り付けた『暗黒に輝く闇炎の錫杖』を振り上げると、ギルドメンバーは気合いの入った咆喉を上げた。

 ビリビリと耳朶を振るわす大声に野次馬達の息は呑まれ、彼らが次々とゲートへと入って行くのを黙って見守る事しか出来なかった。

 西アフリカの敵とは何か、そもそも何を相手に闘うつもりなのか。

 それを知る最初の機会が訪れたのは、野次馬の彼らがログアウトした後にテレビで見たニュース速報の一報からであった。

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