第2話 主人公の事。
最近、VRMMOのスーパーファンダシーウォーズ、略称SFTWで妙な噂が流れていた。
自称・異世界の勇者を名乗るNPCが異世界から魔王が攻めてくる、と吹聴して回っていると云うのだ。
随分としつこいNPCらしく、中にはGMコールをしてやっと追い払えた、等と掲示板に書き込まれている事もままある。
ありがちであるが、どんなイベントなのか興味津々で見守っているプレイヤーは多い。
なので彼らの動向を調べて会話を掲示板に上げている暇人もいるのだが、彼ら変わったNPCがゲームの中で使用している魔法や武器はオリジナルの物が多く、ゲームの運営に問い合わせが数多く寄せられているのだが、現時点に於いて運営からの公式発表はない。
それによって次期アップデートに期待を寄せるプレイヤー達は世界中に広がった。
だが、この事態にもっとも困惑していたのはゲームの運営会社であったのだ。
最初はバグの一種がNPCの誤作動だと思われたので、定期デバッグを行った際に対処を行ったが、該当のプログラムは存在せず。
では外部からのハッキングではないのかと調べたが、ログには突然出現したとしか記録されていなかったので、別のプログラムから送られてきた人工知能説すら出た位である。
現在に於いては運営も自称異世界の勇者と云うNPCがゲームバランスを崩さない限りは静観の構えである。
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この仮想世界は広大である。
メインの舞台である大陸群・ガイアは地球の地形をメルカトル図法で平面にした物で、日本の製作会社が作った物の為に大平洋を中心にした内海であり大西洋は外海に接した設定になっている。
更に範囲を広げると地球の大陸群が100×100=一万個入る広さの平面となっており、設定では古代星間文明が作ったダイソン球の一角にある生命維持領域であるとされていて、イベント毎に他の領域にオリジナルの大陸や別の版権作品をモチーフにした大陸が作られていた。
まあ、これだけ広大な面積を持つ世界観でもなければ地球人口100億人の内、プレイヤーの数が軽く3億人を越えるVRMMOの運営は出来ないだろうが。
それ故に人工知能によるゲームマスターが採用されている。
人間は大まかな方針を指示し、人工知能はその方針に基づきプログラムを組んだりデバッグを行ったりしていた。
大陸の間を繋ぐ跳躍ゲートを使用して他の大陸に移動できるが、期間限定でしか使用出来ないゲートもあったりして、期間限定イベントとして活用されていたのだ。
それらの中心に位置する地球と類似の大陸群・ガイアは難易度が低いとされていて、初心者にはうってつけであった。
仮想世界の地球は初心者用の舞台であり、各国の首都はその国のプレイヤーの始まりの町である。
その東京に相当する都市に一人の冒険者がいた。
初心者を脱し中堅に差し掛かった、もっともゲームを楽しめる時期のプレイヤーだ。
名前を各務敏志、高校2年生の17歳、高校生だ。
SFTWでのキャラクターは魔法3戦士7の比率にポイントを割り振った戦闘系キャラである。
そんな彼がSFTWにログインし、独りで狩りに出たのがビギニング・タウン トキオ、日本サーバーの冒険者が最初に訪れる街として知られている都市型アドベチャーも楽しめるチュートリアル・シティである。
彼が住んでいるのは国立市東にあると或る都営住宅の一室で、家族は五人である。
父の各務浩太に母の各務佐知子と長男の各務敏志17歳に弟の各務俊郎15歳と妹の各務萌生子7歳である。
妹だけキラキラネームっぽいが、念願の娘に両親が張り切り過ぎた結果であるので許されたい。
さて、私立の小学校から大学までの一貫教育をしている学園が集中しているお陰か、公立高校の偏差値も矢鱈と高く都立高校だというのに東大進学率はトップクラスである。
よって我らが主人公の凡人な頭脳では太刀打ちできずに、現在通っている高校は地元の国立市ではなく京王線沿線にある都立の陣内高等学校である。
朝六時、二段ベッドの上段で起床した敏志は、母親が買ってきてレジ袋のまま柱に吊してあるパンを取り出し、冷蔵庫に入っているジュースで食べる。
常温で保管しているので偶に黴が生えている事があるので裏まで目視で確認しながら食べている。
因みに青カビなら粉っぽくて気持ちの悪い味で済むのだが、黒カビだと電気を流したような刺すような痛みが走るので要注意だ。
その後、学校の予習をするのなら成績も良くなろうと云う物だが、残念ながらそうではない。
二段ベッドの上に戻り、VR機器のスイッチをオンにして、外部からタイマーをセット。
七時半にアラームが鳴るようにすると、ベッドの上でVRヘッドセットを被った。
スイッチを入れてログオンすると選択画面が浮かんでくる。
アイコンの横には使用頻度と使用時間が表示されていてどれだけ使ったかが一目瞭然な訳だが、一番目と二番目は読書とゲームだった。
読書は電子書籍という形で持ち出し方の電子ペーパーと連動しているので、通学時間にも使用するから一番使用累積時間が多いのは仕方がない。
他にも選択肢自体はあるのだが、ニュースとか新聞は滅多に選ばないので脇に避けられている。
三番目に大きいのは学習で、宿題をする際に使用するだけあって使用頻度はそこそこなのだが読書とゲームの方が大きいことを見るだけあって、成績の方は推測出来ると云うものだ。
敏志はゲームと云うアイコンに意識を向ける。
すると戦闘機の照準器に表示されるレチクルを模したカーソルが重なり、ちょっと押し出す感覚でゲームを選択する。
ゲーム選択画面にはボードゲームの他にアーケードゲームやパチンコ・スロット(二〇禁)もあるが、一番使われているのはSFTWなのは間違いない。
SFTWを選択しログインすると目の前にゲームのオープニング画面が浮かび上がり、最初から、続きから、チュートリアル、設定の選択が出てくるが当然の如く続きからをえらび、彼はゲームの世界へと飛び込んでいった。