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こんな夢を観た

こんな夢を観た「都電に乗って」

作者: 夢野彼方

 ベンチに座って、三ノ輪方面の都電が来るのを待つ。

 ほどなくしてやって来たが、方向幕には行き先ではなく、「はずれ」と表示されていた。

「ちっ、この電車じゃダメだ」先に来て待っていた男が、そう舌打ちをする。

 そうか、この電車は「はずれ」なんだな。うっかり、乗らなくて正解だった。


 次の電車も「はずれ」だった。

「また、『はずれ』でしたね」わたしは男に声を掛ける。

「ええ、残念です。かれこれ、8時間も待ってるんですけどねえ」男はため息をついた。

「そんなに? じゃあ、始発からずっとですね。『あたり』はやって来るんでしょうか?」

「3丁目の小島さん、あの人は先月、あたりを引きましたよ。いやあ、運が良かったんですな。その日はたまたま靴下を左右、はき違えたんだそうですよ。そういう細かいことが気になるたちらしく、家に戻ってはき直してきたんですが、その時に来たのが『あたり』だったんですよ」


 「あたり」の電車はそんなにも来ないものなのか。それならば、いつまでも待っていたって仕方がない。次の電車が来たら、はずれだろうが何だろうが、もう乗ってしまおう。

 わたしはそう決心した。


 遠くのカーブに都電が見えてきた。

「さてさて、次はどうですかね」男が首を伸ばして見つめる。

 都電がだんだんと近づいてくる。わたしたちは、方向幕に熱い視線を注いだ。

 赤い字で「大あたり」と表示されている。

「あっ、『あたり』ですよ。それも『大あたり』 !」わたしは思わず大声で叫んでしまった。

「おお……」男は感激のあまり、言葉も出ないらしかった。

「良かったですね。朝から待った甲斐があったじゃないですか」わたしは心から男をねぎらった。


 わたし達は都電に乗り込んだ。がらがらだったので、空いている席に並んで座る。

「『あたり』の電車に乗ると、何かもらえたりするんですか?」わたしは尋ねた。

「降りるときに証明書を発行してもらえるんですが、これがあなた、なかなかのものでして」男はいささか、興奮気味に話す。「会社に提示すれば、賞与にプラス査定となります。商店街で使えば、割引券にもなりますしね」

「へえ、それはいいですね」わたしはうなずいた。


「今日は宝くじなど買ってみようかと思います」男は言う。

「運が付いているうちに、というわけですね」

「はい。普段は買わないんですがね。何だか、当たりそうな気がするんです」

「きっと当たりますよ。当たるといいですね」そう返しながら、自分も試しに何枚か、買っておこうかと考えた。確かに運気が上がっているのがわかる。1等とは言わなくとも、お小遣い程度には勝てる気がした。


 男は、町屋で下車ボタンを押した。

「それじゃわたしはここで。あなたにも幸運が訪れるといいですね」

「ありがとうございます。期待などせず、気楽に待ってみます」軽く会釈をして、男を見送る。


 さて、終点の三ノ輪に着くまで、少しだけうたた寝でもしようかな。「あたり」の証明書をもらったら、評判のコロッケを割引価格で買って食べよう。

 最高においしいんだよな、あそこの肉屋。 

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