はじまりの日・2
なんだこいつ・・・。
目の前には、変な格好した変な女がいた。
着地失敗とかなんとか言っていたが、それにしてもこの惨状はやばい。
もはや原型をとどめていないほど、理科室の中は荒れていた。
床にはビーカーのような破片が散らばっており、液体のようなものも散乱している。
この液体・・・危険なやつだったら相当やべえぞ・・・。
「うう、こんなになっちゃった・・・、帰れるかなあ・・・。」
女は俺に気づいていないのか、俺に気にもとめず、乗ってきたのであろう、近くにあった謎の乗り物を眺めていた。
なんだあの乗り物。UFOみたいな・・・。
・・・なにかおかしい。
いや、目の前の女はあきらかおかしいんだが、それ以前にだ。
なぜ、誰もやってこない?
さっきのものすごい爆発音。近くにいた俺はすぐにわかって当然だが、あの音のでかさなら、この学校中に響き渡っていてもおかしくはない。なのに、先生も生徒も、誰一人来る気配がない。それどころか、逆に静まり返っている・・・?
「すごいね、その観察眼、まさかこの頃からもうそこまでだったとは驚いたよ。」
「はっ?」
見ると、女はこちらに向いて立っていた。
「目の前の普通でない出来事だけに注目するのではなく、全体をも見通すその目・・・間違いないね。」
こいつ・・・何を言ってやがる。
まるで前から俺のことを知っているような・・・。
「はじめまして、ひいおじいちゃん。私、あなたのひ孫のライカっていうの。」
・・・ハ?チョットナニイッテルノカワカラナイ。
ひ孫って孫の子供のひ孫だよね?新しいクリーチャーとかじゃないよね?
あ、そうか。
こいつ、厨二病か。
・・・よし、逃げよう。こういう面倒事は避けるに限る。え?それだとこの物語始まらないって?何を言ってるんだ、この物語の主人公は俺だぜ?俺の物語は俺が作る。あ、今めっちゃいいこと言ったわ。
「あ、結構なんで。」
まるでセールスから逃げるときのような微笑みを浮かべ、一目散に走り出す。
「え、え!?ちょ、ちょっとおおおお!!セールスから逃げるみたいなかんじやめてー!!話を聞いてよおおお!!」
後ろからライカとかいうやつの悲鳴(?)が聞こえるが気にしない。絶対捕まったらヤバイ。あんな怪しい格好してるし、俺をひっとらえてカニのエサにでもするんだ・・・!!
「何にもしないからああ!ってかカニのエサってなによ!そんな肉食のカニこの時代にはいないでしょ!?」
逆に未来にはいるのかよ・・・。そして俺の思ってることなんでわかんの・・・。
っていかんいかん、相手の思惑にハマるところだったぜ。あぶないあぶない。
相手との距離感を測るため、後方を振り返る。
めっさ近くにいた。目の前だった。
「うそーん。」
バターン!!
「いつつ・・・・。」
くそっ、まさか五十メートル7秒代という学年でも目立たないような足の速さをもつ俺が負けるなんて・・・。
ライ・・・名前忘れた。変人でいいか。
変人が俺の上に四つん這いで乗っかっていた。
間違いなくギャルゲーだったらCGが入ってるところだろう。
だがしかし、状況が状況だ。
すまん、お母さん、お父さん、妹、先生、教室・・・。俺はもうカニのエサになるしかないようだ・・・。
残念!トキリの冒険は終わってしまった!
「あのー、ツッコミどころがありすぎて困るんだけど、ひとつだけ言わせて。」
「四つん這いじゃなくて、横四方固めね。」
そこかいいいい!てか倒されて横四方固めって柔道かよ!!
たしかに横四方固めされてまったく身動きがとれない。
本当、なんで俺がこんな目に・・・。
「もう逃げないっていうなら放してあげてもいいわよ?」
まるで悪役のようなセリフだなおい。
「・・・。ワカリマシタ、モウニゲマセン。」
「めっちゃ棒読みじゃない!・・・はあ、まあいいわ。」
そう言うと変人は横四方固めを解き、俺の前で正座した。
「・・・・。」
「・・・・。」
なんなのこのお見合いみたいな空気。え?これって俺から話さなきゃいけないの?
それより変人とお見合いってなんなの?新世代の拷問?
「さっきから私のことを疑ってるみたいだけど、正真正銘、わたしはあなたのひ孫よ、ひいおじいちゃん。」
そう呟くと、変人はポケットから一冊のノートを取り出した。
「変人じゃない、ライカよ。」