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山羊座の日  作者: 星苹
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プロローグそのいち

 少しだけ髪を切った。今はその帰りである。

 私は三厩交綾みんまやまあや。15歳。仲の良い子にはまやまやなんて呼ばれている。

 高校入学を控えた春休み、私は何かを変えたくて、ちょっぴりだけ髪を切ってみた。他人は気付かないんじゃないかって程度だけど。

 結局、気分的に代わり映えがなかったので童心に帰って公園で遊んでみた結果、少し帰りが遅くなってしまった。砂場に残したお城は次の日にびっくりされるかな。

 気分が乗らない時は背筋を伸ばして、呼吸を少し大きくしながら上を向いて歩く。何となく新鮮な空気が体を巡るような気がして、小さな頃からよくやっている。

 上を向くと星が綺麗に見えた。田舎は星が綺麗なのよねなんて、都会へ出たこともないのにそんなことを考えていたら、都会へ行ってしまった友達のことを思い出した。あの子も星が大好きだったな……。

 私はひとつ思いついて、ちょうど近くにあったホームセンターへ入った。

 必要そうなものを揃えて家へ戻ると、早速計画を立てて作業に入ることにした。手作りプラネタリウムを作るのである。

 私の世界を造り上げてやるぞ!


 一日目。

 作業は基本的に寝る前にちょっとずつやることにした。

 星も、私は季節や位置などに詳しくないので、ただ自分が描きたいと思った星座だけを勝手な配置で並べることにした。人生、自分に多少甘い方がいいのである。

 二日目。

 ぽつぽつ、ぽつ……。穴を開けながらふと、空の孔、という単語を思い出した。そうすると、何となく空を旅してるような気分になって心地良いけど、私が開けてるのが全部空の孔だったらイヤである。

 三日目。

 ぽつぽつ……。すでに何故こんなのやってるんだろうと思いはじめて来た。

 小さな頃は絵を描いたり物を作ったりするのが好きだったので、きっとそんなことをしてみれば、子供の頃の『何でも楽しい気持ち』になるかな、なんて思ったのかもしれない。または達成感が欲しいのかも。

 四日目。

 ぽつん、ぽつん。穴を開けながら今日の出来事を反芻している。

 今日はお母さんと高校の制服を買いに行った。そこで同じく制服を買いに来た洞内灯希ほらないともきと会った。彼とは仲良しの幼なじみで、高校も一緒と決まっていた。

 高校の制服姿を最初に見たのが灯希だなんて、嬉しいような恥ずかしいような、変な感覚である。彼の制服姿もまあまあ似合っていた。

 五日目。

 穴あけ作業は今日で終わりである。最後に私の星座と灯希の星座、そして星が好きだったもう一人の幼なじみの星座、山羊座を造った。

 私たち三人はとっても仲良しだった。いつも一緒に遊んでいたな、なんて、昔のことを思い出しながらぽつ、ぽつと、しっかり穴をあけた。

 六日目。

 今日は組み立てである。……完成!

 七日目。

 しっかり休んだ。

 私の世界を造り上げるにあたって、これをなぞらえようと最初に決めていたのだ。なんとなく、何かの形式に則って造った方がやり遂げた感じがすると思って。


 そしてついに点灯式である。

 私は寝る準備をしてそれに臨んだ。ゆっくりと電球に火を灯す。すると、部屋中に私の世界が広がった。

 私が造ったという達成感。そしてそこに生まれた愛着も相まって、とても綺麗に感じた。あの頃、三人で夜空を仰いだときの高揚感、幻想的なものへの希望、色々な感情がよみがえってくるような感じがして、自然と涙が零れてしまった。


 三人の時間は永遠ではなかった。そして繰り返される日々の中で、いつのまにか子供の頃に見えていた世界も褪せていったように感じていた。けれど、世界の方は何も変わっていないんだ。

 無邪気に楽しもう。きっと高校生活は楽しいものになる。

 いつのまにか抱いたそんな高揚感を胸に、私はゆっくりと眠りにおちた。

 


  

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