episode6
♂レン 20歳 Wolf
復讐の為参加。優秀な頭脳と恵まれた容姿を持つ。
︎︎♀マナミ 38歳
救済の為参加。高身長の美人。霊媒co
♀メイ 17歳
救済の為参加。小柄でキノコ髪。占いco
♂ヒロシ 33歳 Wolf
金銭目的で参加。肝心な時にへまをこぐことが多い。
♂タケル 33歳
金銭目的で参加。工場勤務の褐色男性。
♂ミヤセ 18歳
娯楽の為参加。頭のネジが飛んでいてサイコパス。霊媒co
【死亡】♂タクミ 25歳
銀髪のホスト。初日犠牲者。
♀キョウコ 18歳 Wolf
感情的な女子高生。拉致によって強制参加。占いco
【死亡】♂トミタ 45歳
拉致によって強制参加。初日の襲撃によって死亡。
♂キヨシ 38歳
教師。ガタイが良い。拉致によって強制参加。
♂トヨシマ 22歳
プロゲーマーで人狼ゲームに詳しい。拉致によって強制参加。
♂ヤマダ 20歳
肥満男性。拉致によって強制参加。
♂ハナダ 21歳
歯並びが悪い。拉致によって強制参加。
♀ミユキ 22歳
売れない地下アイドル。拉致によって強制参加。
season2 episode6
「霊媒師は――オレ、だよん」
にやり、と歪んだミヤセの笑みが場を裂いた。
「……ど、どういうこと?」
キョウコが反射的に俺を見る。
遅れて、ヒロシの視線も重なった。
……二人とも、俺を見るな。
だが幸いにも、場の空気は完全にミヤセとマナミへと引き寄せられていた。
「ねえ、」
ミヤセが軽薄な口調で続ける。
「占い師は狂人で、仲の良いおばさんが人狼ってこと?」
「それとも逆? どっち?」
笑ってはいるが、言葉は鋭い。
――確定しているのは一つだけ。
マナミかミヤセ、そのどちらかが狂人だ。
「……これって……」
アイドルのミユキが、小さく手を挙げた。
「マナミさんとミヤセさん、必ずどちらかを吊れば……」
「狼、一人減りませんか?」
霊媒ロラ。
俺たち人狼側からすれば、
狂人が消えるだけで被害は最小限。
それどころか、二ターン稼げるのは大きい。
「霊媒ロラ、ということですね」
即座にトヨシマが補足する。
「残り十二人。ロラ後は八人」
「正直、そこから一ミスもできない。効率は良くない」
さすがプロゲーマー。
状況を冷静に数値化している。
「まずはさ」
タケルが、会話に割り込んだ。
「霊媒師って、昨日吊られた人の役職が分かるんでしょ?」
「結果を教えてくれないか?」
――狂人なら、ここで黒と言えばいい。
人狼目線で、どちらが狂人か確定する。
「それがね、ラッキーなんだよ」
ミヤセが肩をすくめる。
「運いいね。タクミくんは、寡黙人狼だったよ」
「……はぁ」
マナミが、心底呆れたように息を吐く。
「目に見える嘘をつくなんて」
「彼は白。村人よ」
偽物はミヤセか。
正直、ここで白をぼかす手もあった。
だが、味方がはっきり分かるのは悪くない。
しかも相手は、頭の回るミヤセだ。
「……な、なぁ……」
珍しくヤマダが、弱々しく口を開いた。
またミヤセに叩かれるのが怖いのだろう。
「占い師も二人、霊媒師も二人ってことはさ……」
「この四人を吊れば、敵側は半分になるよね」
「それじゃ、ダメなのか……?」
ごもっともだ。
だが、それをやれば村人側の情報網は完全に死ぬ。
トヨシマも、そのリスクを取る決断までは踏み切れていない。
「俺はいいけどね」
ミヤセが、あっさり言った。
「どうせ殺される運命な気がするし」
「霊媒ロラ、しちゃおうよ?」
命が惜しくないのか。
それとも、そう見せたいだけか。
「私は反対」
マナミが、即座に否定する。
「本物の霊媒師だから」
「……それに、私は生き残らなきゃいけない」
これが、普通の人間の反応だ。
正直、霊媒ロラは俺たちにとって有利だ。
人狼が欠けることなく、ターンだけが進む。
その間に、厄介な人物を夜に消せる。
――だが。
ここで黙り続けるのは危険だ。
発言ゼロは、吊り候補に直結する。
俺は、あえて口を開いた。
「霊媒師二人に、今夜の仮指定を二人ずつ出してもらうのはどうだ?」
視線が集まる。
「俺たちは、その中から選ぶ」
「どうかな、トヨシマさん」
村のために最も動いている人物に判断を委ねる。
信用を買いに行く、一手。
「……悪くない」
トヨシマが、少し考えてから頷いた。
「そうしてみよう」
そして、自称霊媒師と真の霊媒師による仮指定。
先に口を開いたのは、ミヤセだった。
「俺は――」
一瞬、わざとらしく間を置く。
「昨日から、ずっっっと誰かにヘイトを向けてるヤマダと」
「ま、また疑うのか!」
ヤマダが声を裏返して叫ぶ。
両手を振り、必死に否定するが、ミヤセは一瞥すらくれない。
まるで、そこに“反応”など存在しないかのように。
そして――
ミヤセの視線が、ゆっくりと俺に向いた。
逃げ場のない、ねっとりとした目。
「もう一人は――」
一拍。
「あんただ、レンくん」
――何故だ?
胸の奥が、ひやりと冷える。
「ここで霊媒ロラを飲まないのはさ」
「マナミって女が、狂人じゃなくて人狼だからじゃないの?」
言葉は軽いが、狙いは鋭い。
「霊媒師が狂人なら、普通はロラに賛成する」
「それを否定したお前は――人狼だ」
にやり、と笑う。
「間違ってるか?」
人狼目線なら、ミヤセは狂人に見えている。
だが、狂人は誰か人狼か分からない。
俺が霊媒ロラを否定した――
その一点を、無理やり人狼要素に変換している。
俺は村側に見られている?それとも人狼と勘づいた上でのブラフか?ミヤセなら、やりかねないが確信を持てない。
「……あ、そうか」
俺は、肩をすくめた。
「勝手にそう思っとけばいい」
深追いはしない。
ここで言葉を重ねれば、それ自体が“材料”になる。
俺は、黙る。
次に、マナミが静かに口を開いた。
「私も、候補はヤマダさんにします」
ヤマダの顔色が、一気に失われる。
「そして、もう一人は……」
「昨日の吊り候補にも挙がっていた、タケルさん」
少し間を置いて、視線を下げる。
「……本当に、ごめんなさい」
「ち、違う違う違う!!」
ヤマダが頭を抱え、呼吸を荒くする。
「俺じゃない! 本当に違う!!」
一方、タケルは小さく舌打ちした。
「……また俺か」
だが――
二人の霊媒師の意見を聞いたうえで。
トヨシマは、まったく別の判断を下した。
「……今回、名前を挙げられた三人は」
全員が息を呑む。
「吊り候補から外します」
一斉に視線が、トヨシマへ集中した。
「今回、霊媒師に名前を挙げられた人物は」
「吊られても、人狼側に不利をもたらさない可能性が高い」
淡々と、しかし論理は明確だ。
「特に、二人から名前を挙げられたヤマダさんは」
「ほぼ白目で見ていいでしょう」
ざわ、と空気が揺れる。
その中で、タケルが口を開いた。
「じゃあさ」
「そのヤマダに、二人ほど怪しい人物を挙げてもらうのはどうだ?」
「はぁ?」
ミヤセが、露骨に嫌な顔をする。
「……あのヤマダに?」
ヤマダ自身も、周囲を見回し、
自分を指差して確認する。
「……え、俺?」
トヨシマとタケルは、同時に頷いた。
その背中を、友人関係のハナダが軽く叩いた。
「バッチリ決めたれ!」
「……わ、分かった」
ヤマダは、震える声で言った。
「名前を挙げても……恨まないでくれよ……」
場に、張り詰めた緊張が走る。
今、彼の口から出る名前次第で、誰かが地獄に落ちる。
「ぼ、僕は……人狼ゲームを、ほとんど知らない」
ヤマダは、必死に言葉を探す。
「だから……プロのゲーマーが言ってた」
「仮指定の仕方を、参考にする……」
つまり――
発言が、ほとんどない人物。
その瞬間、いくつもの顔が脳裏をよぎる。
ヒロシ。
タケル。
ミユキ。
ハナダ。
キヨシ。
そして――俺。
だが、発言の“濃さ”で絞られていく。
ハナダは、友人だから除外される。
タケルも、目立ちすぎている。
残るのは――
「……僕が、候補に挙げるのは」
ヤマダの喉が鳴る。
「ヒロシさんと……ミユキさんです」
「……嫌いとかじゃ、ないです」
――最悪だ。
この二人に、発言力の差なんてほとんどない。
なら、決め手は“印象”だ。
金に目が眩んで参加した、気弱なヒロシ。
売れていないとはいえ、現役アイドルのミユキ。
どちらを残すか――
答えは、あまりにも残酷で、明確だった。
「……では」
トヨシマが、結論を下す。
「吊り候補は、ヒロシさんとミユキさん」
「各自、夜までにどちらかを決めておいてください」
視線を二人に向ける。
「弁解があるなら、考えておくといい」
逃げ道は、もう用意されない。
――ここから先は、
生き残るための言葉だけが価値を持つ。
解散の空気が、ゆっくりと場に広がり始めた。
議論という緊張の糸が切れ、誰もが次の行動へ移ろうとする――そのときだった。
「……おい、レン」
背後から、わざと肩をぶつけられる。
軽い衝撃。だが、狙ってやったのが分かる強さ。
振り向くまでもない。
「さっき疑ったのに、ずいぶん大人しいじゃん」
ミヤセが、薄く笑っていた。
「疑われるの、慣れてない?」
周囲の足が止まる。
視線が、自然とこちらへ集まり始める。
――最悪だ。
ここで揉めるのは、明らかに悪手。
今は“目立たないこと”が最優先。
無視が最善手だと分かっている。
「疑うのがこのゲームの本質だろ。別にいい」
短く、低く返す。
会話を終わらせるつもりの言葉。
「はは、なにそれ」
だがミヤセは笑った。
「もしかして図星?
それとも――ヘタレ?」
その瞬間だった。
俺の身体は、迷いなく動いていた。
ミヤセの胸ぐらを掴み、壁へ叩きつける。
周囲から小さなどよめきが上がる。
怒りに任せた衝動――
そう見えれば、それでいい。
本当の目的は、別にある。
「なぁに?やるつもり?」
壁に背を打ちつけられたミヤセは、まったく動じていなかった。
むしろ楽しそうですらある。
次の瞬間、視界が揺れる。
額に、鈍い衝撃。
頭突き。
力が抜けた一瞬を逃さず、身体が反転する。
床に叩きつけられた。
「……っ!」
肺の空気が一瞬で抜ける。
気づけば、互いに胸ぐらを掴み合ったまま、
ミヤセが完全に上から覆いかぶさっていた。
「なに?弱いじゃん」
顔が近づく。
息がかかる距離。
周囲は固唾を呑んで見ている。
誰も止めない。止められない。
――今だ。
俺は、抵抗するふりをしながら、声を落とす。
「人狼は俺とキョウコ。ヒロシは今日切る。」
一瞬。
ミヤセの動きが、止まった。
ほんの一瞬。
だが、確実に止まった。
視線だけで訴える。
言葉はもういらない。
数秒の沈黙。
時間が、やけに長く感じられる。
そして――
ミヤセは、ゆっくりと体を離した。
立ち上がり、肩をすくめる。
「……なんか冷めた」
興味を失ったような声音。
だがその視線は、確かに“理解した”と言っていた。
何も言わず、背を向ける。
そのまま、場から離れていく。
騒ぎは、あっけなく終わった。
俺は起き上がろうとして――
わざと、手を押さえた。
顔を歪める。
「……っ、くそ」
近くにいた数人が反応する。
「大丈夫か?」
真っ先に駆け寄ってきたのはキヨシだった。
こういう場面で迷わず動ける人間だ。
「……あぁ」
短く息を吐く。
「ちょっと、手をひねっただけだ」
右手を庇うように抱える。
さりげなく。だが、はっきりと見えるように。
周囲の視線が、同情へと変わるのが分かる。
怪我をした。
戦えない。
――そう思わせれば、それでいい。
⸻
マナミの個室。
小さな部屋の空気は、どこか重く静かだった。
外の廊下から聞こえてくる物音も、ここまで届くころにはすべて鈍くなる。
ベッドに腰掛けたメイは、膝の上で手を握りしめていた。
指先が白くなるほど力が入っている。
「……私、間違ってないですよね」
声が、震えている。
言葉を口に出した瞬間、自分でもそれが不安から出た問いだと分かってしまう声だった。
「占い結果も……」
「言ったことも……」
言葉が途中で途切れる。
続きを言うのが怖いのだ。
マナミは、隣に静かに腰を下ろした。
ベッドのスプリングが、わずかに沈む。
「間違ってないわ」
迷いのない声だった。
「少なくとも、私はあなたを信じてる」
メイの肩から、力が抜けた。
「……よかった」
小さく息を吐く。
張り詰めていた糸が、少しだけ緩む。
「もし……マナミさんが偽物だったらって」
「考えちゃって……」
自分で言いながら、目を伏せる。
疑うこと自体が、罪のように感じているのだろう。
「それは、私も同じよ」
マナミは、躊躇なく答えた。
メイが顔を上げる。
「あなたが本物じゃなかったら、って思う瞬間はある」
その言葉に、メイの瞳が揺れる。
だがマナミは、すぐに続けた。
「でもね――」
ゆっくりと、メイの目を見る。
「疑うことと、信じることは別なの」
静かな声。
「疑うのは、このゲームでは当然よ」
「疑わなければ、生き残れない」
一拍。
「それでも私は、あなたを信じたい」
その言葉は、慰めではなかった。
選択だった。
メイの目に、涙が浮かぶ。
「……私、どう動けばいいですか」
小さな声。
頼るような、縋るような声。
マナミは、少しだけ考えてから答えた。
「今はね」
声が、さらに柔らかくなる。
「自分の役職を守ることだけ考えなさい」
メイは息を止めて聞いている。
「無理に誰かを説得しようとしなくていい」
「正しさを証明しようと焦らなくていい」
ゆっくりと言葉を選ぶ。
「あなたが生きていること」
「それ自体が、村にとっての情報になるの」
メイは黙って頷く。
「焦って目立てば、噛まれるかもしれない」
「でも、黙りすぎれば疑われる」
「……難しいですね」
「ええ。とても」
マナミは小さく笑った。
「だからこそ、普通でいなさい」
メイが首を傾げる。
「普通……?」
「ええ」
「怖がって、迷って、悩んでいいの」
「それが“村人の反応”だから」
その言葉は、どこか現実的だった。
「完璧に振る舞おうとしないで」
「人間らしくいればいい」
メイはしばらく黙っていた。
そして、小さく呟く。
「……怖いです」
正直な言葉だった。
「人が死んで」
「次は自分かもしれなくて」
「みんな疑ってて……」
言葉が震える。
「でも、逃げられない」
マナミは、ゆっくり頷いた。
「ええ。逃げられないわ」
否定しない。
「だから、一緒に生き残りましょう」
メイが顔を上げる。
「あなたは占い師」
「私は霊媒師」
静かに言う。
「この二つの役職が生き残れば、村は戦える」
その言葉は、未来の話だった。
まだ終わっていないという証。
メイは、涙を拭いた。
「……はい」
小さく、だがはっきりと。
「頑張ります」
その声は、先ほどより少しだけ強かった。
⸻
トヨシマの個室
ドアが閉まった瞬間、
トヨシマは小さく息を吐いた。
(……さて)
頭の中に、盤面を並べる。
(生存十二人)
(人狼二〜三)
(狂人一)
(占い師二)
(霊媒師二)
(村人五)
(処刑:タクミ=村)
(襲撃:トミタ)
ここまでは揺るがない。
問題は――
霊媒師二人の内訳。
トヨシマは、紙に書くように可能性を切り分けた。
⸻
パターン①
ミヤセ真霊媒/マナミ人狼
(まずはこれ)
この場合、
・ミヤセ
→霊媒CO
→初日から前に出る
→ロラ歓迎
→ヘイト管理が雑
(真なら、かなり危険な立ち回りだ)
だが、不可能ではない。
真霊媒がロラを受け入れるケースは充分ある。占いも対抗として出てる場合、狼と狂人が見えていて霊媒生存するよりも本来の人狼ゲームなら大人しく受け入れた方が村の為になるからだ。
だとしても彼の場合、本当の命のかかったこのゲームで自分の命の価値をなんとも思っていない節がある。そこが引っかかる。
一方、マナミ。
・真偽不明の占い師メイとライン
・穏健
・ロラ拒否
・生存意欲が強い
(……正直人狼とも見て取れる)
霊媒に出て、
「村をまとめる顔」を作り、
最終盤まで残る戦略。
(だが)
トヨシマは、ここで一度手を止める。
(この場合の“相方狼”は誰だ?)
マナミが人狼なら、
相方は極端に目立たない位置にいるはず。
(ヒロシ?)
(ミユキ?)
→発言少で弱すぎる
→だが“吊られたときの情報価値が低い”
(レン?)
→霊媒ロラ拒否
→進行提案
→だが、マナミを露骨に庇っていない
(マナミが狼ならば、)
(もう少しだれかが“庇う動き”が出てきてもいい)
ここで、違和感。
(今のところマナミは誰にも守られていない)
⸻
パターン②
ミヤセ狂人/マナミ真霊媒
(次)
ミヤセの動きは、
この場合かなり自然だ。
・過剰に目立つ
・煽る
・ロラを促す
・自分が吊られても構わない態度
(典型的狂人)
一方マナミ。
・ロラ拒否
・強い生存意欲
・発言が一貫している
(命のかかったこのゲームでの霊媒としては筋が通る)
(この盤面では)
→ 人狼二人は
潜伏に徹している
→ 昨夜の襲撃は
「冷静で盤面を見られる人物」
(人狼の襲撃理由として妥当)
………息を吸う。そして吐く。
(せめて、霊媒師、占い師どちらかが確定していれば推測はもっと簡単に経つのに…!)
トヨシマは鉛筆の芯を紙に押し付け粉々にした。
⸻
レンの個室。
ベッドに腰掛けたまま、しばらく動けなかった。
部屋の静けさが、さっきまでの喧騒を嘘みたいに消している。
向かいでは、キョウコが壁にもたれ、腕を組んでいた。
視線は鋭いまま、ずっとこちらを見ている。
「……で?」
短い一言。
「これからどうすんの」
責めるようでも、焦っているようでもない。
ただ、次の一手を急かしている声だった。
「霊媒ロラは、当分来ない」
俺は天井を見上げたまま言う。
「今日の流れなら、霊媒は泳がされる」
「今夜は――ヒロシかミユキが吊られる」
キョウコは舌打ちした。
「ヒロシ、足引っ張りすぎ」
「正直もう使えない」
吐き捨てるような声。
だが、その判断は間違っていない。
「分かってる」
短く返す。
「でも、今日までは使える」
キョウコが眉を上げる。
「盾ってこと?」
「そうだ」
沈黙が落ちる。
「吊り候補になった時点で、村の視線はあいつらに集中する」
「だから今夜は――俺たちは安全な位置にいる」
キョウコは小さく笑った。
「ほんと冷たいよね、あんた」
その言葉に、否定はしない。
そのときだった。
――コンコン。
ノック音。
二人の視線が同時に扉へ向く。
嫌な予感しかしない。
「……誰だ」
低く問いかける。
「……ひ、ヒロシです」
キョウコの顔が、露骨に歪んだ。
「最悪」
俺は短く言った。
「……入るな」
だが。
返事を待たずに、扉がわずかに開いた。
隙間から覗く、怯えた顔。
「ど、どうすればいいんですか……」
「このままじゃ、僕――」
「はぁ!?」
キョウコが声を荒げた。
一瞬で空気が張り詰める。
「今ここ来るとか正気!?」
「怪しまれるって分かんない!?」
ヒロシの肩が跳ねる。
「だ、だって……」
「他に、相談できる人が……」
言葉の最後は、ほとんど消え入りそうだった。
キョウコが苛立ったように髪をかき上げる。
「ほんっと無理」
「だから疑われんのよ」
俺は深く息を吐いた。
これ以上騒がれる方が面倒だ。
「……いいか」
ヒロシがビクッと顔を上げる。
「今は、何もしない」
「え……?」
「弁解は短く」
「余計なことは言うな」
「聞かれたことだけ答えろ」
ヒロシは必死に頷く。
「な、何を言えば……?」
「黙れ、感情は乱すな」
即答した。
「焦るな」
「泣くな」
「必死になるな」
一拍置く。
「普通でいろ」
ヒロシは口を開きかけて、閉じた。
理解しきれていない顔だった。
「……あと」
視線を鋭くする。
「もう、闇雲に来るな」
声の温度を落とす。
「次やったら、本当に切る」
ヒロシの顔から血の気が引いた。
「……す、すみません」
小さく頭を下げる。
扉が、静かに閉まる。
足音が遠ざかっていく。
部屋に、沈黙が戻った。
「……ほんと邪魔」
キョウコが吐き捨てる。
「なんであいつ人狼なの」
「運悪すぎ」
部屋の時計が、静かに時を刻む。
夜が近づいている。
誰かが吊られ、
誰かが殺され、
また盤面が変わる。
それぞれが嘘と本音を抱えたまま――
次の“選択”へ向かっていく。




