表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

episode3.5

こちらは、前作人狼ゲームSoulに登場する人物の話になります。本編を読みたい方はスキップしてepisode4をお読みください。

season2 episode3.5


人狼ゲームを、生き残った僕たち。


老人ホームを改装したこの施設に監禁されてから、

気づけば一週間が経っていた。


外へ出られない。

ただ、それだけだ。


それ以外は、驚くほど不自由がない。


食料倉庫に貯蓄された食料。

清潔に保たれた寝床。

湯気の立つ風呂。


生活するだけなら、

不満を挙げる方が難しい。


――だが気分は、生簀の中で飼われている感覚だ。


首に付けられた装置を、どうにか外せないか。

次のゲームが始まる前に、ここから抜け出せないか。


答えの出ない問いを抱えたまま、

僕たちは“生活”を続けていた。


施設内のほぼすべての場所に、監視カメラがある。

天井の隅、壁の角。

大浴場も、トイレも例外じゃない。


レンズは、いつもこちらを見ている。


だから派手な真似はできない。

できないけれど――

それでも、考えることだけは止められなかった。


「ナイフとかで、少しずつ削るのはダメかな」


自分の声が、やけに軽く聞こえた。


兄のハヤトと、もう一人の生存者――シュウが、同時にこちらを見る。


「試す価値はあるけどな」


シュウが腕を組んで言い、兄が続ける。


「ただ、時間がかかる。

それに、死角を見つけないと即アウトだ」


お兄ちゃんは、頼りになる。


家族の中でも、いつも中心に立って、

迷ったときは先に答えを出してくれた。


あの人狼ゲームのときも、

お兄ちゃんがいなかったら――

僕は、生き残れてなんかいなかった。


「ねぇ!!なに、これ……!」


不意に、少し離れた場所から声が上がった。


マリンだった。


「ちょっと……あんたら、これ見てよ」


その声色が、ただ事じゃないと分かる。


僕たちは、自然と足を速めてマリンのもとへ向かった。


彼女は、壁に設置されたモニターを指差している。


画面の中は、薄暗い部屋だった。


十人以上の人間が、円を描くように立ち、

誰かを指差している。


無言の圧力。

逃げ場のない配置。


――見覚えがある。


「……ねぇ、お兄ちゃん……これって……」


言い切る前に、兄が答えた。


「人狼ゲームだな」


迷いのない声だった。


チャンネルを切り替えると、

別の角度からの映像が映し出される。


その瞬間――


「おいおいおいおい!!」


シュウが、思わず叫んだ。


「なんで……なんで、あいつの妹がいるんだよ!!」


画面の端に、小柄な女子高生がいた。

どうやらシュウの知人らしい。


「おい、運営!!」

「今すぐメイを帰らせろ!!」


無駄だと分かっていても、

叫ばずにはいられなかったのだと思う。


僕は、もう一度モニターを見る。


そのとき――

胸の奥が、ひやりと冷えた。


「……え?」


視界の中央。


そこに、見覚えのある女性がいた。


「……ママ?」


自分の声なのに、

遠くで鳴った音みたいだった。


「……今、なんて言った?」


兄が隣に来て、顔を隣り合わせにし同じ画面を見る。


そして、低く呟く。


「……マナミさん、じゃないか」


「……うん」


小さい頃、

僕と姉を置いて、家を出ていった母。


恨みは、ない。


――仕方なかったんだと、思っている。


だからだろうか。


正直、

ママがあの場にいても、

強い恐怖は感じなかった。


……だって、

僕は、あの人をよく知らないから。


それなのに。


理由の分からない不安が、

じわじわと胸に広がっていく。


気づけば、指先が震えていた。


「……大丈夫だ」


兄が、僕の手を握った。


温度が、伝わる。


その一言だけで、

心臓の音が、急にうるさくなった。


昔からそうだ。


不安になると、

考える前に――

兄を探していた。


兄の背中。

兄の声。

兄の判断。


それがあれば、

僕は“間違えずに済む”。


横目で見ると、

兄は、ほんの少し微笑んでいた。


その笑顔を見た瞬間、

胸の奥が、きゅっと締めつけられる。


――ずっと、ここにいてほしい。


そんな言葉が、喉の奥まで上がってきて、

でも、無理やり飲み込んだ。


そんなことを思ったら、弱くなる。


分かっている。

分かっているのに。


もしこの先、

僕の前からいなくなったら。


その想像だけで、

視界が滲みそうになる。


「今……なに考えてる?」


兄が、不安そうに覗き込んでくる。


「ううん、なんでもない」


慌てて首を振る。


兄は、それ以上追及しなかった。


その優しさが、

少しだけ怖かった。


僕は思う。


この人狼ゲームで生き残れたのは、

間違いなく、兄のおかげだ。


でも――

もし次のゲームで、

兄がいなくなったら?


そのとき、

僕は、本当に“生きたい”と思えるんだろうか。


そんなことを考えているうちに、

モニターが切り替わった。


白い画面いっぱいに、

無機質な文字が並ぶ。



“彼らは、第2ラウンドの出場をかけてゲームに参加しています。

あなた達とは違い、自らの意思で参加した覚悟のある者もいます。

強力なライバルとなるため、観察しておくのも吉でしょう。


それでは、ゲームが始まるまで、

有意義にここでの生活をお楽しみくださいませ。”



「……自分から参加したって、どういう意味なんだろ」


マリンが、視線を巡らせる。


「知るかよ」

シュウは吐き捨てるように言った。


「……メイが、自分から参加するなんて……考えられない」


僕は、兄を見る。


「……ママは、自分で参加したのかな」


少し間を置いて、

兄は答えた。


「分からない」


即答だった。


「でも分かるのは、俺たちの知人を用意して、動揺させたいだけだ」

「……そうだよね」


その言葉を、

答えとして受け取る。


画面の向こう側の光景を見ながら、

僕は思う。


ここで生き残っても、終わりじゃない。


むしろ――

生き残ったからこそ、続いている。


この場所で。

この首輪を付けたまま。


次のゲームが始まるまで。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ