episode3
♂レン 20歳
復讐の為参加。優秀な頭脳と恵まれた容姿を持つ。
︎︎♀マナミ 38歳
救済の為参加。高身長の美人。
♀メイ 17歳
救済の為参加。小柄でキノコ髪。
♂ヒロシ 33歳
金銭目的で参加。肝心な時にへまをこぐことが多い。
♂タケル 33歳
金銭目的で参加。工場勤務の褐色男性。
♂ミヤセ 18歳
娯楽の為参加。頭のネジが飛んでいてサイコパス。
♂タクミ 25歳
銀髪のホスト。拉致によって強制参加。
♀キョウコ 18歳
感情的な女子高生。拉致によって強制参加。占いco
♂トミタ 45歳
骨と皮の痩せ細びた男性。拉致によって強制参加。
♂キヨシ 38歳
教師。ガタイが良い。拉致によって強制参加。
♂トヨシマ 22歳
プロゲーマーで人狼ゲームに詳しい。拉致によって強制参加。
♂ヤマダ 20歳
肥満男性。拉致によって強制参加。
♂ハナダ 21歳
歯並びが悪い。拉致によって強制参加。
♀ミユキ 22歳
売れない地下アイドル。拉致によって強制参加。
「あたし、占い師っぽい」
キョウコのその一言で、場の空気が一瞬で凍りついた。
誰もが反応を忘れたように固まる。
顔色を変えて動揺を隠せない者。
目を細め、真偽を測ろうと相手を観察する者。
そもそも意味を理解できず、思考が止まっている者。
沈黙が、じわじわと全員の首を絞めていく。
「…対抗はいませんか?」
静かに、その沈黙を切ったのはトヨシマだった。
対抗――つまり、「自分こそが真の占い師だ」と名乗り出る行為。
誰かが息を呑む音が聞こえたが、すぐには誰も動かない。
「いないなら、キョウコさんを本物と仮定して話を進めますが」
トヨシマの視線が、一人ひとりをなぞるように移動していく。
その途中で――
小さく、かすれた声が上がった。
「……ほ、ほん……ものは……わたし……です……」
腕を小刻みに震わせながら、メイが手を挙げていた。
一瞬の静寂。
次の瞬間、
「アァ!? だっるぃぃ」
キョウコが苛立ちを隠さず、乱暴に自分の髪を掻きむしる。
「えっと……つまり、これは……?」
状況を飲み込めていないハナダが、間の抜けた声を出す。
そこへ、マナミが落ち着いた口調で補足した。
「キョウコちゃんとメイちゃん。
この二人のうち、どちらかが本物の占い師で、もう片方は人狼、もしくは人狼の勝利を望む狂人、ということになります」
その言葉を聞いた途端、ハナダの思考が暴走する。
「じゃっ……じゃあさ!
この二人を吊れば、敵は必ず減るんじゃ――」
「は!?」
キョウコが即座に噛みついた。
その横で、ミヤセが口元に指を当てて笑う。
「お前、バカだねぇ〜」
「ば、バカってなんだよ……!」
ハナダは一歩引きながら、必死に強い口調を作って言い返す。
再び、マナミが静かに言葉を重ねた。
「二人を吊ると、必ず本物の占い師も死にます。
占い師は、“その人が人か狼か”を知る唯一の手段。
欠けるわけにはいきません」
「……な、なるほどね……」
ハナダは深く息を吐き、ようやく理解した様子を見せる。
だが、その安堵を嘲笑うように、ミヤセが乾いた笑いを漏らした。
「そこまでバカだとさ、逆に人狼に殺される確率は減るかもね〜」
そして、何かを思いついたように目を見開く。
「……あ。
もしかして、バカなフリ?
だったら賢いね〜」
完全な嘲りだった。
その時。
「……お、お前こそ……!」
今まで黙っていたヤマダが、慣れない強気な声を絞り出す。
「そんなふうに人を煽るなんて……
人狼から殺される心配がないからじゃないのか!」
ミヤセは、ほう、と小さく頷いた。
そして、不気味な笑みを浮かべたまま、ゆっくりとヤマダに近づく。
前髪を掴み、引き寄せる。
至近距離で、静かに囁いた。
「さっきからさ〜
役職を透かそうとしたり、人狼を擦り付けようとしたり……必死だねぇ」
眼球を大きく見開き、言い切る。
「……やっぱり、人狼?」
ヤマダは、顔から血の気を失い、必死に首を横に振った。
「……も、もう……何も言わない……」
声は掠れ、膝が笑っている。
全身が、はっきりと震えていた
すると、最年長のトミタが軽く手を鳴らした。
乾いた音が、張り詰めた空気を断ち切る。
「……お食事も済みましたし、夜まで自由行動にしませんか。
個室で、少し頭を冷やしたい方もいるでしょう」
強制ではない。
だが、“この場を一度解散させる”という意図は明確だった。
その提案をきっかけに、各自がゆっくりと動き出す。
ミヤセとホストのタクミは、互いに干渉することなく一人行動。
平社員のヒロシ、褐色肌のタケル、最年長のトミタ、教師のキヨシ――
三十代を超えた成人男性たちは、自然と一か所に固まり、小声で話し始めていた。
慎重で、現実的な選択だ。
一方、
容姿に自信のないヤマダとハナダは、先ほどまでミヤセに弄られていた“似た境遇”もあってか、妙に打ち解けた様子で娯楽室へ向かっていく。
逃げ場を求めるような背中だった。
マナミとメイは、ゲーム開始前から話し合っていた仲なのか、常に並んで行動している印象がある。
その輪に、場慣れしていないアイドルのミユキを、マナミが穏やかに誘っていた。
――そのとき。
「おいおい、あんたら偽物の占い師連れてなぁに話してんの?」
わざとらしく大きな声。
キョウコだった。
場の視線を一気に引き寄せるように、三人へ向かって叫ぶ。
「なんだぁ!?あんたら人狼か?
そこのチビ女ーーつまり人狼と組んでさ、ヒソヒソ誰を殺すか作戦会議でもしてんの?」
挑発と断定を混ぜた言葉。
筋が通っていないわけではない。
この自由行動の時間に、疑惑のある“占い師二人”キョウコとメイと行動を共にするのは、印象としては決して良くはない。
だが――
マナミは、一切動じなかった。
静かに立ち上がり、メイを庇うように背を向ける。
「人狼かどうかは、まだ誰にも分かりません」
声は穏やかだが、芯がある。
「この場で話が合った方と、自由時間を共に過ごすことが、悪いことでしょうか」
そして、まっすぐにキョウコを見る。
「私には……あなたの方が、必死に見えます。
だからこそ、偽物に見えますけれど」
その一言は、刃だった。
メイはマナミを見上げ、安堵と恐怖が混じった表情で、ぽろりと涙を一粒こぼす。
「……チッ」
キョウコは舌打ちする。
「好きにしろよ。
じゃあ、ウチは――」
彼女は唐突に俺の服の首元を掴み、そのまま引きずるように歩き出した。
「ぁあ!? ちょ、なんだよ、引っ張んな!」
「美女が招いてやってんだよ。
黙ってついてこい」
「び、美女って……自分で言うなよ……」
抵抗しながらも、俺は結局ついていく。
――キョウコの意図が、なんとなく分かったからだ。
そうして、俺はキョウコの個室へと足を踏み入れた。
扉が閉まる。
空気が、急に重くなる。
正直、いい気はしなかった。
「……で?
なんだよ、人狼さん」
ベッドに腰を下ろし脚を組むキョウコへ問いかける。
そうだ。
この部屋にいる二人――
キョウコと俺は人狼。
そして、もう一人は、
無口な平社員、ヒロシ。
「このままだとさ」
キョウコは天井を見上げながら言った。
「あのおっさん、今日吊られるよ」
「おっさん??」
俺は壁にもたれながら返す。
「三人目の人狼のこと」
彼女はため息を着く。
「あぁ、でも、どっちかって言えばヤマダの方が吊りやすくないか?
ミヤセに散々弄られてるし、ヘイトも溜まってる」
キョウコは答えず、机を――
カン、カン、と長い爪で二度叩いた。
「だから、」
視線が、こちらに戻る。
「最終的にはヤマダに票を集める」
「……俺の話、聞いてたか?」
俺が言いたかったのは、
なぜヒロシが先に吊られるのか、だ。
キョウコは、口角を少しだけ上げた。
「あのプロゲーマー。
――トヨシマが、ヒロシを標的にすると見た」
「発言が少ないから?」
「そ」
即答だった。
「無口な人間ってさ、人狼の可能性は残るのに、
村人だった場合、いてもいなくてもメリットがない」
淡々と、だが迷いなく言う。
「だから初日に吊るには最適。
ゲーマー思考なら、情報を落とすヤマダより、情報を一切落とさないヒロシを先に切る」
……なるほど。
この女子高生、
感情的で頭の回らないタイプだと思っていた。
だが違う。
短時間で人の思考回路を組み立て、
しかも――
狂人が占い師を名乗り出ないと読み切り、
本物の占い師より先に“占い師CO”を打った。
それも、迷いなく。
「ならさ」
俺は腕を組み、提案する。
「お前が先にヒロシへヘイトを向けろ。
トヨシマが、きっと賛同する」
キョウコは、黙って聞いている。
「その流れで、俺がヤマダにも疑いを向ける。
ミヤセが乗っかるはずだ」
「……で?」
「その後は、あいつが勝手に場を荒らす」
言い切った。
キョウコは一瞬、ぽかんとした顔をしたあと――
にやりと笑った。
「へぇ〜」
足を組み替え、俺を値踏みするように見る。
「ただのイケメンかと思ってたけど、
意外と頭使えるじゃん、お兄さん」
「その評価、そっくりそのまま返すよ」
そう言うと、キョウコは肩をすくめた。
「……悪くない」
短く、だがはっきりした肯定。
この瞬間、確信した。
――こいつとなら、勝てる。
そして、投票会議の時間が迫った。
俺たちは、多目的スペースへ足を踏み入れる。
そこには、異様な静けさがあった。
外から吹き込む風の音だけが、やけに大きく耳に残る。
誰も、無駄口を叩かない。
――いや、一人だけ違った。
ミヤセが、鼻をすするように小さく笑っている。
何が可笑しいのかは分からない。
だが、その薄笑いが、この場を一層不気味にしていた。
他の連中からは、はっきりと緊張が伝わってくる。
その沈黙を、真っ先に切り裂いたのはキョウコだった。
「思うんだけどさぁ」
わざとらしく、間延びした声。
「ずーーっと黙りっぱなしのコイツ、怪しくない?」
キョウコは、はっきりと指を差す。
――ヒロシ。
「陰気臭いしさ、あのデブとか出っ歯よりキモいわ」
その瞬間、ヒロシの肩がびくりと跳ねた。
味方だと思っていた相手からの矛先。
焦りが、そのまま表情に出ている。
……悪くない。
あまりにも“人間らしい”反応だ。
さらにキョウコは、さりげなくヤマダの名を出した。
容姿へのディスという形だが、
他者の意識には確実に残る。
――布石としては、十分すぎる。
「確かに」
トヨシマが、冷静に言葉を継ぐ。
「普通の人狼ゲームなら、発言の少ない人を仮指定して、そこから吊り先を決めるのがセオリーです」
視線を巡らせる。
「他に挙げるなら……タケルさんや、タクミさんでしょうか」
想定通りの反応だった。
「俺はそもそも、このゲームあんまり経験なくてさ」
ヒロシが、必死に言い訳する。
「俺もだよ。ホストの遊びでちょっとやったくらいだし」
タクミも便乗する。
――いい流れだ。
俺がヤマダの名を挙げようとした、その瞬間。
「少し、いいですか?」
割って入ったのは、マナミだった。
「タケルさんは、自らこのゲームに志願したと聞いています。
ビデオも見て、人狼ゲームの概要は理解していたはずでは?」
静かな口調。
だが、逃げ場を塞ぐ問いだった。
……正直、誰が吊られてもいい。
ヤマダでも、タケルでも。
ヒロシさえ生き残れば、それでいい。
俺はキョウコと一瞬、視線を交わす。
――潜伏。
そう、目で伝えた。
タケルは、一度大きく息を吸い、頭を下げた。
「……反論はできない。理解が浅かったのは事実だ。謝罪する」
頭を下げる。
「だが、これからは考察も落とす。だから、今回は見逃してくれ」
そして顔を上げた。
「俺は、娘の医療費を手に入れるために来ている。
ここで死ぬわけにはいかない」
少し、間を置く。
「命の価値なら……
そこのホストより、俺の方が高いだろ。分かってくれ」
「ちょっと待てよ!!」
タクミが、声を荒げて立ち上がる。
「死にてぇのか!?殺すぞ!!
俺の命を、勝手に値踏みすんな!!」
胸ぐらを掴む。
だが次の瞬間。
タケルは、細く引き締まった腕で、いとも簡単に振り払った。
タクミはバランスを崩し、床に膝をつく。
「俺は人狼じゃねぇ!!
簡単に人を犠牲にできるこいつの方が、人として終わってんだろ!」
指を突きつける。
即座に、タケルが言い返す。
「女を金としてしか見られないお前も、人として終わってる」
醜い応酬。
それを見て、ミヤセは腹を抱えて笑った。
「はいはい、もういいでしょ〜!」
高らかに、狂ったように。
「最初は印象論!
つまり、誰でも死ぬ可能性がある!」
両腕を広げる。
「さぁ!
今にも死にそうな娘のために命を懸ける父親か!
女に金を使わせるだけのホストか!」
「どっちが、生き残る価値があるか!!
みんなで決めようぜぇ!!
キャハハハハ!!」
ミヤセの高笑いが、場を支配した。
「お前が決めんじゃねぇ!!」
タクミが顔を真っ赤にし、今度はミヤセの胸ぐらを掴み中央へ引きずり出す。
円陣の中央には三人の男。
――タケル。
――ミヤセ。
――タクミ。
それでも、ミヤセは笑っていた。
不気味なほど、楽しそうに。
その時。
「……一つ、質問があります」
トヨシマの声が、場を切り裂いた。
「誰か、役職を持っていますか?」
「のー」
ミヤセが即答。
タケルも、無言で首を振る。
そして。
「……持ってる」
タクミが、慌てたように二度、頷いた。
その瞬間。
トヨシマは、迷いなく指を差した。
「――あなたに入れます」
「なんでだよ!!
俺、重要な役職持ってるんだぞ!!」
「それなら」
トヨシマは、冷酷に言い切る。
「仮に霊媒師ならば最初に仮指定された時点で名乗るはずです。騎士だった場合、今名乗るのは今夜私を殺してと言ってるようなもの自殺行為だ」
一拍。
「――村利のない嘘をつく村人は、必要ない」
その言葉は、氷のように冷たかった。
「さぁ、投票の時間だぁ!!」
ミヤセが、楽しそうに叫ぶ。
――カウントが、始まる。
10
「俺を指さすな!!
やめろ!!
このイカレ野郎に入れろ!!」
叫び声が、空気を裂く。
だが、その声に応える者はいない。
9
「……ごめんなさい……」
震える声。
メイが、涙を浮かべながら、ゆっくりと指を伸ばす。
タクミの喉が、ひくりと鳴る。
8
「泣いて謝るなら、こいつにしろよ!!」
叫ぶ、ただ叫ぶ。
虚しくも必死だった。
7
「……私も、入れます」
ミユキの声は、淡々としていた。
感情を削ぎ落としたような虚ろな目でタクミを見つめる。
6
俺は、何も言わずに指を差す。
言葉は必要ない。
5
「頼む……」
声が、掠れる。
「やめてくれ……
殺さないでくれ……」
さっきまで他人を罵っていた口が、
今は懇願の形に歪んでいる。
それでも、
誰の指も、下がることはない。
4
「生きたい……」
床に膝をつき、
タクミは、這うように前へ出る。
「まだ……生ぎたい……」
指先が、虚空を掻く。
誰かに掴んでほしいという本能だけが、
身体を動かしている。
3
「いぎだいい……」
もはや、言葉ですらない。
嗚咽が喉を塞ぎ、
大粒の涙が、床に落ちる。
ぽた、ぽた、と。
その音が、やけに大きく響く。
2
「だ……だすげで……
いやだ……」
縋るように視線を彷徨わせ、
最後に、タケルと目が合う。
助けを求める目。
だが、タケルは動かない。
動けないのか、
動かないと決めたのか――
その違いすら、もう意味はない。
1
「……俺の命の価値の方が、高かったってことだ」
誰に言うでもないただの独り言。
「こ……この……
クソがァァ!!」
タクミの最後の叫びは、
怒りとも、絶望とも、
もはや区別がつかなかった。
カウントは、ゼロになる。
モニターが、低い駆動音を立てて点灯した。
白い画面に、無機質な文字が浮かび上がる。
〝投票の結果、タクミが最多票を集めました〟
一拍。
〝10分以内に、自らの手で処刑してください〟
その一文が表示された瞬間、
空気が、音を立てて沈んだ。
「……く、くるなよ!!!」
最初に動いたのは、タクミだった。
反射的にモニター下の棚へと駆け寄り、
引き出しを乱暴に開ける。
金属音。
折りたたみナイフ。
震える手で刃を展開し、
歯を剥くようにして、俺たちに向けた。
「……まずいな、これ」
教師のキヨシが、視線を泳がせる。
最年長のトミタは、状況を冷静に測るように周囲を見回し、
一瞬だけ、タケルに視線を送った。
「……力のある男性が、適任では」
その言葉に、タケルは苦く笑い、両手を上げて一歩下がる。
「命の瀬戸際に立たせておいて、
処刑までやらせるか。
……とんだクズの集まりだな」
誰も反論しない。
できない。
その沈黙を、楽しむように――
「ケラケラ……」
ミヤセが笑った。
「じゃあ、俺がやるね」
まるで遊びに誘うような声で、
満面の笑みを浮かべ、タクミへ近づく。
「お、おい……来るな!!」
「ヤダ」
即答だった。
タクミの手は、ガタガタと震えている。
ナイフの刃先が、定まらない。
それに対して、
ミヤセはリズミカルに、跳ねるように距離を詰めていく。
恐怖と狂気の、圧倒的な温度差。
ミヤセは、わざと身体を前に折り、
ナイフの先へ顔を近づけた。
「……バぁ」
反射的に、タクミがナイフを突き出す。
だが――
ミヤセは、ほんの僅かに首を傾けただけだった。
刃が、空を切る。
次の瞬間、
左手でタクミの手首を弾く。
ナイフが宙を舞う。
回転する刃を、
もう一方の手で、持ち手だけを正確に掴み取る。
――迷いがない。
そして。
タクミの左目へ、
そのまま、深く突き立てた。
「ギャァァァァ!!」
悲鳴が、部屋を裂く。
血が飛び散り、
タクミは両手で目を押さえようとするが、
方向感覚を失い、千鳥足で後ずさる。
「う……う……
うわぁぁ……いだぁぁぁぁい……」
叫びは、次第に掠れていく。
ミヤセは、それ以上、何もしなかった。
まるで“仕事を終えた”かのように、
平然とした顔で、皆の元へ戻ってくる。
「もうすぐ、終わるよ」
その言葉通り、
タクミは前のめりに倒れた。
ナイフは、さらに深く突き刺さり、
身体が一度だけ大きく跳ね――動かなくなった。
「……う、うぇぇぇ……」
平社員のヒロシが、耐えきれず嘔吐する。
「……うぐっ……」
それを見て、ハナダももらい吐きした。
小柄なメイは、その場にしゃがみ込み、
声を殺して泣き出す。
マナミは、何も言わず、そっと背中をさすった。
「ええ〜……
みんな、きたなぁい」
ミヤセだけが、楽しそうに笑っていた。
俺が視線を向けると、
彼は、不気味に手を振る。
――俺は、目を逸らした。
誰も、すぐには動けなかった。
血の匂いが、遅れて鼻を突く。
鉄のように生臭く、喉の奥に絡みつく。
床に広がる赤が、じわじわと形を変えていくのを、
全員が見ないふりをしていた。
息をする音が、やけに大きく聞こえる。
誰かが唾を飲み込む。
誰かの歯が、小さく鳴る。
――さっきまで、生きていた。
その事実だけが、
言葉にならずに、全員の胸に沈んでいく。
「次は自分かもしれない」という認識が脳によぎる。
足元に横たわる死体は、
もはや“ホスト”でも、“参加者”でもない。
ただの、
結果だった。
目に入ると
自分が指を差した瞬間が蘇る。
その時。
「……ここに死体を置きっぱなしにするのはこの先、厄介になる。どこかへ運ばないか、、。」
キヨシの疲れ切った声が、
凍りついた空気に、ひびを入れた。
トミタは、床に転がる死体から目を離さず、静かに頷いた。
表情は変わらない。
だが、目の奥だけが、ほんの僅かに曇っている。
「……そこの君、手伝ってくれ」
キヨシの声は低く、疲労が滲んでいた。
命令でも、お願いでもない。
ただの“処理”としての言葉だった。
視線が、トヨシマへ向く。
彼は一瞬だけ死体を見て、
それから、何も言わずに首を横に振った。
拒否だった。
理由を説明する必要すらない、
という態度。
その沈黙が、妙に重く感じられる。
キヨシの視線が、ゆっくりと横に流れる。
そして――俺と、目が合った。
ほんの一瞬。
俺は、喉の奥に溜まった息を、短く吐いた。
……もし、これがナツキの遺体だったら。
床に放置されたままと思ったら。
俺は、絶対に、放っておかなかった。
その想像が、
胸の奥を、冷たく撫でる。
だから――
今は、黙って引き受ける。
そうして俺は、
死体の方へ、一歩踏み出した。
この場所に、
確かに“最初の犠牲者”が生まれたのだと、
誰の目にも、否応なく突きつけられながら。
次回は2月12日、20時頃、episode3.5とepisode4を投稿予定。




