道を開けろブス共!イケメン様のお通りだ!
道を開けろ、諸君。イケメン様のお通りだ。
ブスは右へ、その他大勢は左へ。
中央は俺専用のランウェイだ。
万灯美麗。
君の名前は、俺の脳内金庫の最上段に保管済みだ。
音の響きは春風のように柔らかく、漢字の線は絹糸のように滑らか。
神は六日で世界を創ったが、君の顔はたぶん七日目に加班して作ったんだろう。
余計なお世話だ、美しいのは顔だけで十分だ。
去年は黒髪、今年は赤みのある茶髪。
安物ヘアカラーで爆死した芋女の“味噌汁色”とは違い、君の髪は光までラグジュアリーだ。
もしヘアサロンの広告塔を決める戦があったら、君は無血開城で覇権を取るだろう。
美麗の周りには、小奇麗なだけの男女たちが寄り集まり、まるでロールスロイスの展示会に停まった軽トラの群れ。
引き立て役としてなら役割を果たしているが、主役を狙うなら免許証を返納してからにしてくれ。
「はいはい、退いた退いたブ男共。撤収〜!」
俺がパンパンと手を叩くと、彼らは割引セールの終わったワゴン品のように一瞬で散った。
わかってるじゃないか、自分の価値を。
女たちは目を輝かせて俺を見ている。
申し訳ないが、その視線は回収不可だ。
返品希望は破棄する。
せめて「報われぬ恋心」という非課税資産だけは大事にしてくれ。
美麗が、少し眉を寄せて俺を見ている。
ああ、その表情も可愛い。
「初めまして、美麗ちゃん。法学部一年の榊原創多だ。俺、君の彼氏になってもいいよ?」
決まった。完全勝利だ。
ギャラリーの女たちは、ハンカチを噛み千切らんばかりの顔。
ごめんよ、でもこれは天の配剤だ。
美麗に釣り合う男など、この惑星に俺一人しかいない。
「ちょっ…お前、いきなり何言ってんだよ!」
ノイズが混じった。
下級国民の発言権など、選挙管理委員会で却下だ。
「イケメンだからって何しても許されると思うなよ」
おや、誰かな?墓場からの忠告か?
もちろん思っているとも。
だって俺はイケメンなんだから。
令和の世はルッキズムの天下だ。
君らもまずは顔面工事をしなさい。
原型保存の義務なんて憲法にはない。
肥料を撒かぬ土から花は咲かぬ。
美麗は俺を見つめ、「どうして私の名前を知ってるの?」と尋ねた。
その瞬間、背骨の中を氷柱が通った気がした。
…あれ?返事が「はい」じゃない?
いや、それでいい。
俺レベルのイケメンにも簡単に靡かない──その防御力、品格、純潔。
現代に蘇った大和撫子だ。淑女だ!
「ハハッ、美麗ちゃん、君のことなら何でも知っているさ。未来の彼女のプロフィールを事前に把握するのは常識だろう?」
俺がそう言った瞬間、空気が変わった。
ついさっきまで春風だった空気が、一瞬で遺体安置所の冷気になった。
なぜだ。
イケメンが美人に告白する──この国の景観条例的にも正しい風景の筈だ。
「やべえ奴だな…」「美麗、行こう」
美麗は取り巻きに手を引かれ、去っていった。
その目は氷点下の刃物のように冷たく、去年のあの優しい眼差しを完膚なきまでに葬っていた。
あの時は、傷だらけの俺にハンカチを差し出してくれたじゃないか。
なぜだ。なぜだ。なぜ。
…ああ、わかったぞ。
美麗はB専だ。不細工専用。
去年の俺に優しかったのも、今の取り巻きが全員ガード下レベルの顔面なのも、それで説明がつく。
冗談じゃない。
誰のために二百万を投じて顔と体を再設計したと思っている。
このままでは、俺の存在理由が国家機密並みに消滅する。
わからせてやる、美麗。
この国の運転免許証には「不細工優遇」の項目なんて存在しないんだ。