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整形男  作者: 夢氷 城
3/6

大学デビュー大成功です!

今日は待ちに待った大学のオリエンテーションだ。


昨日の入学式はバックれてしまったが、今日は逃げない。逃げる理由がない。


何故なら俺は、自他共に認めざるを得ないほどのイケメンだから。


気合いは充分。自信も充分。


ビルみたいに聳えるキャンパスを見上げながら、だだっ広い敷地を、肩で風を切って歩く。


良い男は歩き方にも拘らなければならない。

せっかく顔が良くても、端っこをオドオドと歩いていたら、女の子に幻滅されてしまうからだ。


底辺を生きしブ男達にも示しがつかない。


そうだ。ここは大学じゃない。舞台だ。


パリで行われる、世界的ファッションショーだ。

そして、かくいう俺は、差し詰め観客を魅了するビッグスターといったところだ。


威風堂々と、通路のド真ん中を、肩を揺らしながら歩いても許される存在。


そんじょそこらのモブとは一線を画す存在なんだ。


お前たちとはもう、住む世界が違うんだ。


道を開けろ芋野郎ども。俺が通る。


「なんだあいつ…」

「ちょっとイケメンだからって気取りやがって…」


おーおー、聞こえる聞こえる。

嫉妬の声が、嵐の如く。


感じる感じる。

羨望の眼差し一つ一つ、その全てが、俺に対するスポットライトだ。


庶民が俺に嫉妬なんて烏滸がましい限りだ。

見当違いも甚だしい。


男としての格が違うんだから黙って平伏せよ。


お前たちでは、逆立ちしても俺には成れない。

身の程を知りなさい。己を知れよ。



それにしても、名にしおう大東京の、大学キャンパス内だというのに、格好良い男が驚くほどいない。


世間一般でイケメンと認められそうな顔をぶら下げた男など、いくら見渡しても、全体の1%にも満たない。


そしてその僅か1%の面々ですら、俺の足元にも及ばない。


こんなものか、東京は。

思わず拍子抜けてしまった。


しかし、女の子は可愛い。

みんな可愛い。一部の化物を除いて。

彼女候補が多すぎてこれから大変だ。


俺を奪い合う為に、殺し合いが起こってしまったらどうしよう。

俺が刺される可能性だってある。

君たちの重すぎる愛を受け止める心の準備を、早く整えなければ。

座して待っててな、子猫ちゃん達。


やれやれ、先が思いやられる。




オリエンテーション会場の、大講堂の扉前に着いた。


入り口付近に、見るからにイケてるグループがいる。


髪型は、流行りのセンターパートかマッシュの2択。


当然、黒髪はいない。


きっと彼らは、地元ではブイブイ言わせ、中学でも高校でも、所謂、スクールカースト上位の、一軍グループに君臨していたのだろう。


そして、真面目でひ弱な子を思い切り見下し、虐げていたタイプだ。

それも、悪気なく、自然の摂理の様に。


見れば分かる。

あれは大学デビューなどでは断じてない。

生粋だ。俺の敏感な嗅覚がそう告げる。



もし地元が同じなら、俺は彼らに虐められていただろう。それこそ、完膚なきまでに。



また足がすくんだ。逃げ出しそうになった。

吐き気もする。


でも、よく見てみろ、彼らの顔を。

連中は群れて騒ぐことしか脳がない烏合の衆だ。


集団心理で気が大きくなっているだけの猿だ。

チンパンジーだ。オラウータンだ。


顔の造形だって、大したことない。

派手な髪型と服装で取り繕ってるだけで、実際は不細工じゃないか。


あいつは一重で吊り目。

前髪垂らして雰囲気イケメン装ってんじゃねえよ。


あいつはエラが張ってるな。

もみあげ伸ばして隠してるつもりか?

俺の目は誤魔化せないぞ。


あいつは団子鼻。

シリコン入れとけよみっともねえ。


あいつは、横から見たフェイスラインは悪くないが、正面から見たら台無しだな。

マスクした方がいいよ、たらこ唇なんだから。



全く、よくもまあそんな面で、自信満々に外を闊歩できるものだ。


そんなとうもろこし顔負けの黄ばんだ歯を見せて、よく人前で笑えるな。


よくもそんな堂々と、人目につく出入り口に屯出来るものだ。


分を弁えろ、井の中の蛙ちゃん。

俺という名の大海を知れ。


こんな奴らに恐れることはない。

俺の方が格上なんだから。


俺は昔、こんな奴らに虐められていたのか。

そう思うと、無性に腹が立ってきた。


こいつらに恨みはない。

何故なら、初対面だから。


しかし、俺をとことん虐め抜き、尊厳を破壊してきた連中と、こいつらは間違いなく同じ属性だ。


こいつらも同類。連中と同罪。

刺してやろうか。初手で急所を。


前の醜い頃の俺なら、もしかしたら、そうしていたかもしれない。



でも、よもや非の打ち所がないイケメンに生まれ変わった俺は、こいつらから見たら雲の上の存在。


争いなど無意味だ。

同じレベルじゃないんだから、争いなど起きようもない。



せめてすれ違いざまに、思いっきり鼻で笑ってやろう。


俺は奴らの前に立ち止まった。

すると奴ら、モーセの十戒みたく、扉までの道を開けたんだ。


ほう。こいつら、思ったより物分かりがいいな。

さっきは猿呼ばわりしてすまないね。


しかしなんだろう、この快感。

気持ち良い。叫びたい。


俺は奴らを見下すあまり、眉を極限まで上げて、瞳孔を開いたまま天井を見上げてしまった。


そして思いっきり鼻を鳴らしてやった。


「フンガフンガッ!」


その瞬間、奴らは間抜けヅラ引っ提げてビビってた。1人残らずだ。俺は見逃してない。


俺に恐れをなしたか。

流石は元一軍男子、格上を見極める嗅覚だけは鋭いな。ひれ伏せ平民。


弱い者には強く、俺みたく強い者にはめっぽう弱い。

なんとも情けない。いや、潔くて素晴らしい。


「え…今の何?」


「さあ…変な人だな。」





俺が颯爽と講堂に入った後に、余裕かまして下らない捨て台詞を吐くな。


まるで、道を塞いでしまったことに気がつき、一般常識とモラルに則って道を開けただけなんですけど、感を出しているんだ。




俺の勝ちだ。この勝利は途轍もなく大きい。


負けを認めろ。

頭を垂れて靴を舐めろ。




それにしても、すごい人の数だ。

これは全員オリエンテーションの参加者なのか。


俺が来たぞ。みんな俺を見ろ。


俺は両手を広げたまま、両目を閉じて、ゆっくりと歩いた。


ウォーターコースターが生んだ水飛沫を浴びる、名も無きお調子者のように。


「ねえ、見てあの人」


「クスクス」



見てる見てる、皆んな。


うーん。気持ち良い。快楽の絶頂に到達。

ドーパミンがドバドバと止めどなく溢れ出る。



しかし、この広い広いオリエンテーション会場には、俺の他にもう1人、ただならぬオーラを放つ者がいた。


俺はその人を知っている。


かつては高嶺の花だった。

いや、そんなもんじゃない。


以前の醜い俺など、謁見することすら許されぬ至高の存在。


しかし、今の君は、俺だけの一輪の花だ。

やっと辿り着いた。

必ずや、我が手中に収めてみせる。


逃さないよ。

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