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残火のソフィア  作者: 結城 漣
残火のソフィア ―残火の誓い編―
7/25

【封じられた火、目覚めの刃】

風が、廃神殿の瓦礫をかすめて鳴いた。

ミカは石造りの地下聖堂に静かに横たわっていた。両手は祈るように胸の上で組まれ、目元には薄い布がかけられている。けれど、その体は生きている者の温もりを、確かにまだ保っていた。


 「……あの子は、まだ起きないのか?」

 レイの問いに、ソフィアは小さく首を横に振る。


 「眠ってるだけじゃない。心の中で……戦ってる」


 ミカは“魔の侵蝕”に呑まれかけていた。だが完全に支配される前に、ソフィアが彼女を救い出した。

 だがそれは、ミカの内面に巣くっていた過去の“記憶の扉”をも開いてしまった。




 ――夢のような記憶。


 焼けた村、崩れた屋根、泣き叫ぶ声。

 幼いミカは、灰にまみれた世界の中、ソフィアに抱かれていた。


 「あのとき……助けてくれたのは……」

 彼女は記憶の中で、小さな自分をかばって傷だらけになった少女――

 今より幼いソフィアの姿を見た。


 「私は……」

 「守られていたんだ」


 記憶が、心を再び燃やす。冷たい闇の中、胸の奥で火が灯る。




 ミカの目が開かれた。


 「……ミカ!?」

 ソフィアが近づき、ミカの手を握る。その掌は、かつてより強く、熱を帯びていた。


 「私はもう……誰かの後ろじゃなくて、隣で戦いたい」

 ミカは立ち上がる。瞳にはかつてない光が宿っていた。


 「“彼ら”が来る」


 「なら、私たちで迎え撃とう」

 ソフィアが言ったその瞬間、ミカの背に炎の紋章が浮かび上がる。

 かつてソフィアにのみ宿った“残火の刻印”――それが、今、ミカにも現れていた。



---


 少女たちの火が、再び重なる。

 世界が滅びの底に沈もうとする中で、わずかな“灯”が闇を裂くために。



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