【封じられた火、目覚めの刃】
風が、廃神殿の瓦礫をかすめて鳴いた。
ミカは石造りの地下聖堂に静かに横たわっていた。両手は祈るように胸の上で組まれ、目元には薄い布がかけられている。けれど、その体は生きている者の温もりを、確かにまだ保っていた。
「……あの子は、まだ起きないのか?」
レイの問いに、ソフィアは小さく首を横に振る。
「眠ってるだけじゃない。心の中で……戦ってる」
ミカは“魔の侵蝕”に呑まれかけていた。だが完全に支配される前に、ソフィアが彼女を救い出した。
だがそれは、ミカの内面に巣くっていた過去の“記憶の扉”をも開いてしまった。
――夢のような記憶。
焼けた村、崩れた屋根、泣き叫ぶ声。
幼いミカは、灰にまみれた世界の中、ソフィアに抱かれていた。
「あのとき……助けてくれたのは……」
彼女は記憶の中で、小さな自分をかばって傷だらけになった少女――
今より幼いソフィアの姿を見た。
「私は……」
「守られていたんだ」
記憶が、心を再び燃やす。冷たい闇の中、胸の奥で火が灯る。
ミカの目が開かれた。
「……ミカ!?」
ソフィアが近づき、ミカの手を握る。その掌は、かつてより強く、熱を帯びていた。
「私はもう……誰かの後ろじゃなくて、隣で戦いたい」
ミカは立ち上がる。瞳にはかつてない光が宿っていた。
「“彼ら”が来る」
「なら、私たちで迎え撃とう」
ソフィアが言ったその瞬間、ミカの背に炎の紋章が浮かび上がる。
かつてソフィアにのみ宿った“残火の刻印”――それが、今、ミカにも現れていた。
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少女たちの火が、再び重なる。
世界が滅びの底に沈もうとする中で、わずかな“灯”が闇を裂くために。