【七魔帝 蒼獄】
仮面の奥の瞳が、ソフィアを射抜くように見下ろす。
「……最期に言い残すことでもある?」
ソフィアは膝をついたまま、息を整える。そしてゆっくりと顔を上げた。
その瞳は、恐怖の奥に燃えるような決意を宿していた。
「あるよ……!」
ヴィルゼラの表情が、微かに動く。
「たとえ届かなくても……私は、火を灯し続ける。
誰かが希望を繋げるように。あんたみたいな絶望に、飲み込まれないために!」
血がにじむ拳で地を叩き、彼女は立ち上がった。
「私は……残火のソフィア。
焼けた世界に、もう一度“朝”を連れてくるために、燃え続ける!」
その言葉に、風が揺れた。
ヴィルゼラの表情は読めない。だが、確かに“何か”がわずかに揺らいだ――その瞬間。
---
「今だ!」
レイが叫ぶ。
右腕に展開された巨大な転移魔法陣――
“魔帝級存在”を無理やり空間転送させる高等魔術。
「《封界――虚軸転送》ッ!!」
ヴィルゼラの足元に魔法陣が走る。
「――愚かね…!」
ヴィルゼラが振り上げた腕から氷の槍が発現する。が――
「させない……!」
ソフィアの残火刀が一閃。ヴィルゼラの振り上げた手を斬り落とした。
---
次の瞬間。
転送陣が収束し、蒼き魔帝の身体が光に包まれ、空間ごと裂けていく。
「残火の娘、人間を少しは見直したわ?でもね、私は審判の結果が間違っているとは思わないわ。次会うときは――」
ヴィルゼラの姿が、光と共に霧散するように消えた。
空が静まり、結界の氷が崩れ落ちる。
---
「……倒した…?」
「いや、封印でも勝利でもない。“猶予”をもぎ取っただけだ」
レイが肩を落とした。
---
ソフィアは、遠ざかった空を見つめた。
「次は、絶対に……この火を届かせてみせる。
あんたの“審判”は間違ってる」
そして静かに、残火刀を鞘に収めた――。