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残火のソフィア  作者: 結城 漣
残火のソフィア ―残火の誓い編―
2/14

【絶望のグラーデル】

焼け落ちた王都を後にして、ソフィア・アークレインは北方の山脈地帯を目指していた。

 目的はただひとつ。最後の人類拠点と呼ばれる都市――グラーデルに辿り着くこと。


 だが、道中は地獄そのものだった。森は瘴気に侵され、川には屍が浮かび、月明かりすら魔に飲まれるような夜。

 それでも、彼女は歩き続けた。


 残火刀は重く、手には血のまめが潰れていたが、それを気にする余裕すらなかった。


 五日目の朝、ようやく山を越えたとき、ソフィアの目にそれは映った。


 灰色の壁に囲まれ、監視塔が四方にそびえ立つ巨大な防衛都市グラーデル。

 空には巨大な結界が展開され、魔の侵入を拒んでいるように見えた。


 「……人が、まだ……生きてる」


 彼女が門の前に立ったとき、機械音声と共にスピーカーから警告が響く。


 >「警告。魔の瘴気反応あり。立ち止まり、手を挙げて身元を証明せよ」


 十数人の兵士が銃と槍を構えて集まってくる。その中の一人――銀髪の青年が前に出た。

「ついてきてもらおうか」


連れていかれた先は白い石造りの部屋だった。

 窓の外には、煙をあげる工場群と、廃墟を再利用した建物が広がっていた。


この部屋まで連れてきたのは銀髪で鋭い眼差しの青年。

 彼の名は――レイ・アルステラ。かつて王国魔術騎士団に属していた、天才と呼ばれた男だった。


 「君、王都の出身か?」


 「……はい。アークレイン家の、ソフィアといいます」


 名乗った瞬間、レイの表情がわずかに動いた。


 「……あの貴族の娘か。まさか、生きていたとはな」


 彼は小さくため息をつき、ソフィアに資料の束を渡す。それは、都市グラーデルの現状だった。


 ・人口:約1200人(元王国兵、技術者、市民)

 ・都市機能:電力・水・結界維持は不安定

 ・魔の侵入:週に一度程、周囲に強襲あり

 ・内部に“魔”が潜んでいる可能性。


 「君が持つ“残火刀”は、魔の瘴気を焼き払える希少な武器だ。ここでは貴重な戦力になる」


 「……だからって、私に戦えって言うんですか?」


 「違う。“選べ”って言ってる。君の火が、誰を守りたいのかをな」


 レイの瞳には、静かな熱があった。

 彼もまた、かつて大切なものを魔に奪われた人間だった。



---


 その夜、ソフィアは都市の防壁の上に立っていた。


 下では人々が食料を分け合い、火を囲んで生きようとしている。

 決して強くない。だけど、誰も諦めていなかった。


 「……私は、この火で……もう二度と誰も焼かせない」


 その瞬間――

「警報レベル《深紅》確認!魔帝級反応……!」

ソフィアとレイは身構えた。


――空が割れた。まるで世界そのものが悲鳴を上げるように。


 グラーデルの北端、第七防壁は既に崩壊寸前だった。夕闇に染まる空から、蒼く光る氷の結晶が降り注ぎ、地面を貫き、建物を穿つ。凍てついた風が吹き抜けるたび、人々の希望が削られていくようだった。


 その中心に現れた影――それは、人の姿を模した魔の王。


 蒼い仮面、黒く歪んだ法衣、そして冷ややかな気配を纏う七魔帝の一角。


 「蒼獄のヴィルゼラ」。


「愚かな人類…よくもここまで生き延びたものよ」


 低く、凍てつくような声が響いた。足元の瘴気が波のように広がり、兵士たちは武器を構えることすら忘れて倒れ伏した。


「逃げろ…!!」

その場にいた司令官が叫ぶ。


しかし「蒼獄」が逃すはずもなく――


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