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残火のソフィア  作者: 結城 漣
残火のソフィア ―絶望の檻 編―
18/25

【廃都に咲く炎】

黒炎を裂いた稲妻の残響が、瓦礫の街にこだまする。

 瘴気が薄れ、焦げた大地の上に、ひとすじの風が吹いた。


 「……っ!」


 レイが息を詰める。剣にまとっていた黒炎が不安定に揺れ、制御が乱れる。

 その一瞬の動揺を逃さず、ソフィアが地を蹴った。


 「はああああっ!!」


 炎を纏った剣が、闇を裂くようにレイの剣へと打ち込まれる。

 火花と黒炎が交錯し、激しい衝撃音が夜空を揺らす。


 レイは剣で受け止めつつ、口元を歪めた。


 「……まだ、そんな力が残ってたか」


 「私には……あなたを止めたい“理由”があるの!」


 ソフィアの剣撃は一閃では終わらなかった。二撃、三撃と連ね、激しい斬撃の嵐を繰り出す。

 その全てが、レイの迷いに訴えかけるような“痛み”を孕んでいた。


 「レイの“優しさ”に、私は救われた!だから、私は――!」


 だが、刹那。メリュシアが不快そうに顔をしかめ、唇を歪ませた。


 「……本当に鬱陶しい子ね。そろそろ、邪魔な感情は全部“壊して”あげる」


 その声と共に、彼女の手に第三の《黒花ヘカーテ》が浮かぶ。

 それは精神を蝕む、深層幻覚を植え付ける禁術だった。


 ミカの目が瞬時に警告を発する。


 「ソフィア、下がって!メリュシアが来る!」


 しかしソフィアは一歩も引かない。


 「……私が前に出る。ミカは、お願い」


 ミカは一瞬、迷った。けれど、すぐに頷く。


 「……わかった。あなたを“支える”のが、私の役目よ」


 その時だった。

 メリュシアが黒花を指先ではじき、闇の花弁が空中で炸裂する。


 「見せてあげる、あなたの深層に潜む“恐怖”を――!」


 ソフィアの目の前に、幻影が広がる。


 焼けた村。

 倒れ伏す人々。

 泣き叫ぶ少女──それは、かつての自分。


 「違う……これは……!」


 膝が震えかける。だが、次の瞬間――


 「“ソフィア!!”」

 ミカの声と同時に、光の紋章がソフィアを包んだ。


 《精神遮断結界カームフィールド》。


 メリュシアの幻覚術を完全には防げずとも、効果を半減させる結界魔法。

 ソフィアの瞳が再び確かな意志を宿す。


 「ミカ……ありがとう。私は、もう負けない」


 「行って。これは“あなたの戦い”」



-レイは再び剣を構える。その目に、僅かに“迷い”が戻っていた。


 「ソフィア……なぜ、そこまで……」


 「分からなくてもいい。でも、私は……あなたを信じたいの!」


 その言葉に、レイの剣が揺れる。


 そこへ、メリュシアの怒声が響いた。


 「レイ!何をしてるの!?あなたは“裏切られた”のよ!怒りを、もっと憎しみを思い出して!」


 だがレイの瞳が、ゆっくりとソフィアを見つめ返す。


 「……わからない。もう、自分が“正しい”のかどうかも」


 「それでいい!悩んで、苦しんで、それでも――!

  あなたの手で“誰か”を救ってよ!」


 ソフィアが剣を振るい、黒炎の剣と再び交錯する。

 雷鳴のような衝撃が街を包み、粉塵が舞い上がる。


 その中で、レイは剣を握る手を震わせながら、呟いた。


 「……ソフィア……ミカ……俺は……」



 剣はまだ交差していた。

 けれど、もはやそこに殺意はなかった。


 黒炎が、徐々にその輝きを失っていく。


 ――しかし、その瞬間。


 「甘いわね❤」


 メリュシアの声と共に、彼女がレイの背後から伸ばした魔力が、レイの背中に突き刺さった。


 「“闇の核”よ、暴走しなさい!」


 悲鳴を上げるレイ。

 その胸元から、黒い光が脈打ち、再び魔力が暴発する。


 「レイ!!」


 「これは……まずい、完全に自我が……!」


 ミカの叫びと同時に、空間がひび割れ、禍々しい黒炎の魔紋が再び開かれる。

 暴走するレイ。その中心で、もはや人の姿を保てなくなった“黒焉の剣士”が立ち上がった。


 メリュシアは笑う。


 「さあ、どうする?あなたたちの“希望”は、もう戻れないところまで来たのよ?」


 それでも、ソフィアとミカは剣と杖を構える。


 「まだ、終わってない」


 「ここからが本当の勝負よ」


 風が吹く。廃都に、再び火花が散る。


暴走するレイの黒炎が廃都の空を染め上げる。

 メリュシアの魔力がその炎を促進し、空間が軋んだ瞬間――


 「……やりすぎだよ、メリュシア。壊しすぎると、使いものにならなくなる」


 異質な声が、頭上から降ってきた。


 その瞬間、空が裂けた。

 宙に浮かぶ「巨大な目」が無数に現れ、その瞳孔が一斉にソフィアたちを見下ろす。


 「っ……この気配……!」

 ミカが顔をしかめる。


 「まさか……!」


 破裂音とともに、空間に踏み込むようにして現れたのは、漆黒の衣を纏った男だった。

 肩から鎖のような触手が垂れ、口元には笑み。

 だがその眼だけは、あまりにも冷たい。


 「七魔帝――クラヴィス……!」


 ソフィアが絞り出すように名を呼ぶ。


 「その通り。拷問と真実の使徒。君たちの“痛いところ”を暴くのが仕事さ」


 彼の登場に、メリュシアが不機嫌そうに顔を歪める。


 「クラヴィス……来るのが遅いのよ。もうすぐ“完成”なのに」


 「ふふ、あまり焦るなよ。レイはね、“本当に壊れる”までが面白いんだ。

 ソフィア、君が苦悩する顔が……一番の調味料さ」


 クラヴィスが指を鳴らすと、レイの体から黒い鎖のような魔力が噴き出し、彼の周囲を巡った。


 「やめて……レイは、まだ戻れる……!」


 「ふぅん?じゃあ、試してみなよ。彼の中にまだ“君の名を呼ぶ声”があるかどうか……!」


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