【交錯する剣と真実】
黒炎が渦を巻き、レイの剣がソフィアを斬り裂かんと迫る。
「やめて……お願い、レイ!」
ソフィアの叫びは、届かなかった。
「お前たち人間が……俺の家族を殺したんだ!」
――空気がねじれた。甘ったるく、毒のような香りが辺りを包む。
「ふふ……また家族ごっこ?飽きないわねぇ、ほんと」
妖艶な声とともに現れたのは、紫のドレスをまとい、唇の端に笑みを浮かべた女。
七魔帝のひとり――メリュシア。
「……メリュシア!?」
ミカの表情が険しくなる。
「ふふふ、そんなに睨まないで。ボク、ただ見に来ただけだよ?ねぇレイ、調子はどう?」
「……お前か、あの“記憶”を見せたのは」
「そう、あれが、あなたの“真実”だったでしょ? あなたの家族を手にかけたのは、紛れもない“人間”の兵士たちだよ」
レイは歯を食いしばる。
思い出すのは、炎の中で泣き叫ぶ妹。
母の断末魔。
血に染まったあの光景。
――そして、その手に銃を持っていたのは、人間だった。
「嘘よ、レイ!」ミカが叫ぶ。「クラヴィスやメリュシアの見せるものは“虚構”!あなたを騙すための幻なの!」
「幻なんかじゃない……!あれは……あれだけは、現実なんだ!」
「あなたの“感情”が真実を歪めてるのよ」
メリュシアが妖しく微笑む。「でも、それでいいの。憎しみは、いつだって都合よく記憶を染め直す。あなたは、それを選んだのよ」
「……俺は……!」
「レイ!」ソフィアが一歩踏み出す。「私たちはずっと、あなたを信じてた!一緒に笑って、戦って……!」
「その信頼が、あの夜すべて崩れた!」
レイの剣が闇を裂く。「守れなかった。奪われた。だから……もう、何も信じない!」
ソフィアは拳を握りしめ、必死に食い下がる。
「だったら――私がその闇ごと、あなたを止める!」
二人が激突しようとしたその瞬間、メリュシアがすっと手をかざした。
「まあまあ。いいの?このまま彼を斬って。悲劇の結末よ?」
「あなたが仕組んだ“悲劇”でしょうが!」
ミカが雷の魔力を放とうとするが、毒の霧が魔法をかき消す。
「言ったでしょ?私はただ、“記憶を見せた”だけ。選んだのは彼自身」
メリュシアはレイに優しく触れる。
「ねぇ、あなたはまだ迷ってるわ。だから、もっと思い出して……あの夜のこと。もっと深く、もっと正確に。何度も、何度でも」
レイは瞳を伏せる。その目の奥で、黒炎が揺れていた。
「……俺の家族を殺したのは、人間だ。お前たちが……!」
その言葉に、ソフィアは剣を構える。
「なら、私は戦うしかない。あなたの誤解を、力で打ち砕く!」
メリュシアがくすくすと笑う中、再び剣が交わされる。