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残火のソフィア  作者: 結城 漣
残火のソフィア ―残火の誓い編―
1/25

【魔の序章】

――世界が終わった日。空は血のように赤かった。


 かつて「ヴァルセリア王国」と呼ばれたこの地は、すでに国としての体を失っていた。豊かな緑は黒い瘴気に染まり、空気には死の匂いが充満している。


 十五歳の少女、ソフィア・アークレインは、崩れた王都の片隅でひとり、膝を抱えていた。


 「……どうして……どうして、私だけ……」


 彼女の周囲には、倒れた兵士たちと、動かなくなった家族の亡骸があった。父は騎士団長として王国を守り、母は最後までソフィアの手を握っていた。


 だが――魔は容赦しなかった。


 それは人の形を模したような、だが目も口もない異形の存在。「魔喰まぐい」と呼ばれるそれは、あらゆる命を貪り、感情に引き寄せられる。


 恐怖、絶望、怒り――ソフィアの胸の内に渦巻くそれらすべてが、魔を呼ぶ餌となった。


 「ああ……来ないで……お願い……!」


 魔喰が一体、二体と近づいてくる。彼女の小さな体を、絶望が覆ったその瞬間――


 「――立ちなさい、ソフィア・アークレイン」


 どこか懐かしい声が頭の中に響いた。


 地面に突き刺さっていたそれは、炎のように赤く輝く剣だった。

 「残火刀ざんかとう」――かつて魔を斬った唯一の聖剣。


 それは父の形見。だが彼女は知らなかった。この剣が、人の「感情」に反応して燃え上がることを。


 「燃えていい……怒っていい。私が全部……焼き尽くす!」


 少女が剣を握った瞬間、彼女の背中から炎が噴き上がった。

 それは恐怖でも、悲しみでもない。確かな意思と怒りが呼び起こした“感情の火”。


 魔喰が炎に焼かれ、呻き声を上げながら崩れ落ちていく。


 ソフィアは、その場に立ち尽くしていた。焼け跡の中で、剣を手に。

 涙も、声も出なかった。ただ、胸の奥に、確かな熱だけが残っていた。


 この時、彼女はまだ知らなかった。

 この炎が、やがて世界を救う**「残火」**となることを――。



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