【プロローグ】
──もし、何もかも、失ったものが戻るなら?
この問いを投げかけられたなら、どう思うだろうか。
失うもの…それはおもちゃや小物のような些細なものだけではない。友人、赤の他人、景色、星々、記憶、果たした約束、果たせなかった約束、そして、最も大切な人───それらは、いったん失ってしまえば完全に取り戻すことはできないものだ。
あの日見た夢を、僕は未だに覚えている。
あの少年と少女が交わした約束。その約束が、なぜか僕の心に強く響いている。そして、あの夢を見る理由もわからないままだった。薄れていく記憶の中で、あの少女とのやり取りには、まるで失ったものを取り戻すかのような、懐かしさと切なさを感じる。
今となっては、それが幻想だったのか、過去の出来事だったのか、はっきりとは分からない。それでも、あの少女の言葉だけは、鮮明に残っている。
───「いつか二人で、夢の花を咲かせようね」
その言葉が、何よりも大切だということを、ずっと僕は無意識に実感していた。夢は普通、目が覚めたらすぐに忘れるものなのに、なぜかこの少女のセリフだけは、記憶に深く刻まれている。おそらく、それが答えなのだろう。
あの時、もしも僕が気づいていたら──きっと運命は、違った形で交錯していたのだろう。記憶を取り戻すにつれて、僕に与えられたのは、取り返しのつかない時間と現実だけだった。
この街で彼女と出会い、そして全てを忘れてしまった僕。けれど、彼女に再び会ってから、色褪せていた記憶の断片が少しずつ紡がれ、繋がり始めた。
夢の中の少女が誰なのか。あの約束の真相は何なのか。けれど、僕はその約束を守らなければならないと強く思う。それには、あの時の場所に戻りたいという、無意識の欲求が根底にあるのかもしれない。あの時の彼女と、もう一度、共に過ごす日々に戻る──叶わぬ夢を、今でも見続けている。
───僕の過去の記憶を辿る日々は、ここから始まる。