銃後の危機
1960年4月15日
日本国臨時首都大阪
首相官邸(仮)にて
「やばいよやばいよどうしよう。」
「首相そんなに慌てないで下さい。」
「慌てないわけないだろ、敵はすさまじい速度で進軍してるんだろ?」
東京都周辺はほぼ全部平野である。
まぁ関東平野にあるのだから当たり前ではあるが、そんなところで防衛線なんぞ築けるわけもなく、開戦から5日の時点で既に前線は崩壊し、現在は新たに設定した三重県、滋賀県、福井県の防衛線もジリ貧状態である。
「…どっか亡命できそうなとこあったかな?」
「逃げるな、働け。」
「あっはい。」
「…アメリカ軍の援軍はどうですかね?」
「だめだな。アメリカ軍がうちに派兵するとそれに対抗するためにソ連軍が北日本(日本人民共和国)に派兵されるだろう、そうなればどうなるかはわかるだろ?」
「泥沼どころの騒ぎじゃないでしょうね。」
「だが幸いなことに?今のところはどちらも派兵する気はないようだが…」
「どちらかが追い詰められれば話は変わってくるでしょうね。」
史実のベトナムや朝鮮半島をみればわかる通りこの手の戦争に超大国が参加して状況が好転したためしがない。
「はぁ…本当にどうしよう…」
冗談のつもりで言った自分の言葉を思い出し、本当に亡命してやろうかと考える首相であった。
1960年4月15日
日本国臨時首都大阪
日本国軍総合司令本部(仮)にて
「なるほどな、それで向こうの反乱軍と協力関係を築いたということだな。」
『はい、そういうことです。』
無骨な通信機の前で報告を聞いているのは、田宮たちを北海道へと送り込んだ張本人、日本国特務機関の長官であった。
「反乱軍と協力関係を築けたことは大変素晴らしいことだ、この調子で進めてくれたまえ。」
『はい、わかりました。ところで…』
「どうした?」
『後続の隊員はいつ頃到着する予定なんですかね?』
「……………」
『あのー』
「……………」
『ちょっと、聞いてます?』
「……………」
『ま、まさか。』
「……………これからの活躍、期待してるよ。
それじゃあ、頑張ってくれたまえ。」
『あっおいコラ待て!いい加減にしろ!いくらなんでも酷すぎるだろ!雑に送り込んだ挙句に援護なしって!本当に工作する気あるの?』
「あ~もう黙れ!こっちだってリソースがないの!本当はちゃんとした計画と人手を準備してからするつもりだったのに軍のやつが急かすからこうなったんだ!そのくせに前線は崩壊してるしで既にうちの部署のキャパ超えてんだよ!いいからそのまま続けてくれ!」
その後しばらくの間不毛な暴言合戦が続いたが、お互い無駄だと分かったのか2人共憂鬱な気分で通信機の電源を落とした。