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【第26話】事の始末

「……君、誰? 今何をしたの?」


 アーデルハイトの動きが速すぎて目で追えなかったセオドアは、ユニアスたちと入れ替わるように現れた少女の姿に混乱していた。

「あいつ、アーデちゃんのこと分かってない?」

「俺たちの会話が聞こえなかったんだろう。それと、恐らくあいつは生前の母親の姿は知らない。加えて蘇生体サモン・ファクトを見たのも実際初めてなんだろうさ、知識としての蓄えはあっても本物は想像を超えるからな。アーデルハイトを生きた人間だと思っている」

「教えてやった方が、話が早いんじゃ」

「いいや、ああいう半端なガキは言って聞かすより一発ぶん殴った方が効くのさ」

「ガキって……」

 自分の父親だろうと思ったが、確かに向こうの方がユニアスより精神的に幼いような感じがしたのでラントは黙った。

 アーデルハイトはセオドアに答えず、屍人形に照準を定めると懐に飛び込んで片足を蹴りつけた。よろめいたところですかさず飛び上がって今度は顎を蹴り上げると、まるで質量のない張りぼてのように大きく後方に吹っ飛んだ。そのまま体の上に乗りあがって関節部分を重点に砕くと、巨体は微妙に蠢くばかりでまったく起き上がれなくなった。アーデルハイトの慣れた動きに見惚れていたラントと異なり、ユニアスが冷静に告げた。

「ラント」

「了解」

 さすがにここまでくると阿吽の呼吸で、このタイミングでラントが魔術の火を放つと巨大ゾンビは倒れ伏したまま見事に燃え上がった。それを傍らで呆然と見つめているセオドアにつかつかと歩み寄ると、アーデルハイトはその頬を思い切り平手打ちした。

 ただ力が強すぎてあり得ないほどに地面を転がって行ったので、ユニアスの方が慌てた。

「おい、殺すなよ?」

 しかしアーデルハイトは聞いておらず、片手で服を掴んで引き寄せるともう一発容赦ない平手を浴びせた。両頬を腫らし口の端から血が流れているセオドアの襟首を掴み、揺さぶりながら初めて聞くような強い口調でまくし立てた。

「馬鹿たれが!! 私はぁ、お前ぇにここげんことさせるために命かけて産んだわけじゃねぇ! なしてこげなひでえことさ、村ん人たちにした!!」

「……か、母さん……なの?」

「ネクロマンサーってのは、本当は優しい力だ。私はユニアスの近くで、それをよぉく見てきた。でもお前ぇのはただの暴力だ。こんなことしても、誰も幸せになれねぇ」

「ユニアスって、あいつのこと?」

「そうだ」

「何で……何でだよ? 僕はただ、母さんに会いたかっただけだ。僕がどれだけ呼びかけても答えてくれなかったのに、どうしてあいつには応えたんだ……」

 繰り言を呟きながらうずくまると、それきりセオドアは何も喋らなくなった。後ろ手に縄で縛っても抵抗することもなく、いったん木に縛り付けてからあちこちに散らばった亡骸を埋葬した。ユニアスが予期した通り、ほとんどがアーデルハイトの力ではあったけれど。

 あらかた片付いたところで、ユニアスがアーデルハイトに話しかけた。

「おまえ、先に村に着いてたはずなのにどこにいたんだ?」

「家」

「家って、生前住んでたところか。どうせ廃墟だろ?」

「うん」

 元の片言に戻ってしまったアーデルハイトに、ユニアスは苦笑しながら言った。

「その喋り方、訛りを隠すためだったんだな。別に気にしなくて良かったのに」

「これ、普通」

「嘘吐け、さっきはあんなに」

「ユニアス何言ってるか、分からない」

 スン、とそっぽを向くアーデルハイトをユニアスはそれ以上追究することは諦めた。代わりにセオドアのことを訊いた。

「俺がおまえに出会ったのは、実家の裏庭だったよな。死んでからずっと子供に未練があったなら、どうしてセオドアにはおまえの姿が見えなかったんだ?」

「その時、呼ばれてない」

「?」

「引き戻された、一度。多分ユニアスが生まれる少し前」

「一度は成仏してたってことか?」

「あそこで育てられて、安心してたのに。子供が泣いたから逝けなくなった」

「出戻った魂だったから、記憶がない上に不安定だったのか。俺におまえの声が聞こえたのは、血のせいかもしれないな」

「うん」

「何なら、ばあちゃんて呼んでやっても――」

 ユニアスの口を、アーデルハイトは容赦なく塞いだ。

「呼んだら、殺す」

「物騒だな、おい」

「まあアーデちゃんは、アーデちゃんだよな」

 ラントの適当な言葉が、その場にはちょうど良かった気がしてユニアスは頷いた。

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