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【第24話】死者の村

「うわあああーー!!!」


 悲鳴を上げるラントの目の前で、生前は女性だったと思しいゾンビは井戸のつるべの名残をからからと手繰った。その先には水汲み用の桶もなく、もちろん水そのものもありはしないのだが、それはまるで目に見えない水を汲んで持参の桶に移すような動作をした。それから空っぽの桶を両手で持つと、ラントにもユニアスにも構うことなくその場を去って行った。

「ほ、本当にいた……」

「追うぞ、ラント」

「ちょ、ちょっと待って。腰が抜けて」

「ならおまえはそこにいろ」

「ちょ、待ってって! 人でなしー!!」

 ラントを置き去りにしたまま死人を追って村の中央に進むとそこには客の男から聞いた話に違わず、複数の似たような状態の「嘗て人間だったもの」がいくつも動いていた。辛うじて外壁が残っている家の中を覗くと、空の鍋をかき回している姿が確認できた。その他の死人も、何かしら規則性を伴う動きをしているようだった。

「待ってくれーユニアス!」

 へっぴり腰で追いついたラントは遅れてこの光景を目撃すると、一層青い顔でユニアスの外套にしがみついた。

「た、たくさんいる……何してんだろ?」

「どうやら、生前の生活動作を繰り返しているらしい。さっきの女は井戸で水を汲んでいたようだし、あそこで棒を振っている男は、刃の部分はなくても薪割りのつもりだろう。そこの家では架空の料理を作ってたぞ」

「何のために?」

「何のため? 彼らを動かしているネクロマンサーがそう指示したからとしか言いようがないな。魂が昇華した後の、空っぽの肉体を弄んでる……ろくでもねぇ術者がここにいる」

 思わずラントがぞっとするほど、ユニアスの声には氷の刃のような静かで冷徹な怒りが満ちていた。

「アーデちゃんが、そいつに見つかったらまずい?」

「こんな木偶人形動かして喜んでるようなレベルの奴に、俺の最高傑作をどうこうできるわけがない。そもそも、国の免状も持たないような無免野郎だしな」

「……相手が誰か、分かってるみたいだな」

「ここまできたら、おまえだって見当くらいついてるだろ。ネクロマンサーの能力は、血統にしか由来しないと散々教えたよな」

「うん。でも、そんな偶然って」

「偶然じゃない。アーデルハイトがここへ来たのも、俺がそれを追って来たことも。どちらも選んで踏み込んだ結果だ。だから俺は、確かにこの光景のある可能性を予測した上でここへ来た」

 凛とした口調でそう言うと、ユニアスは一番近くで掃除のような動きをしていた死者の肩に指で触れた。その直後、糸が切れた操り人形のようにカクカクと崩れ落ちた。すかさずユニアスが鋭く言う。

「焼け、ラント」

「お? おお」

 言われた通り炎の魔術で足元の死体に火をつけると、独特の焦げ臭い匂いが空気中に広がった。みるみるうちに骨だけになった遺体を一瞥し、ユニアスは周囲を指さしながらラントに告げた。

「解術も面倒だな、動いていても構わないからあのまま焼け」

「で、でも……」

「ここは廃村だ、燃え移って困るようなものもない。焼いて骨だけになれば、構造的にもう動けはしない。早いとこ無益な労働から解放してやれ」

「分かった」

 その言い分が尤もだと思ったのか、素直に応じるとラントはあちこちに炎をばら撒いた。同時に立ち昇る黒煙と煤を吸わないように口元を庇いながら、二人は黙ってその殺伐とした光景を眺めていた。骨ががらがらと崩れる渇いた音が、あまりにも軽くてやるせなかった。

 やがて二人以外の動くものが視界からなくなり、炎が鎮火していくとユニアスが足元の遺体にそっと手を合わせてぽつりと言った。

「それぞれの墓に戻すことは無理でも、せめて後で埋めてやらないとな」

「それ、俺たちだけで?」

 数を考えて辟易するラントに、ユニアスが苦笑しながら答えた。

「アーデルハイトなら、一瞬だろ」

「アーデちゃんか! 何か自分の故郷でそんなことさせるのも心苦しいけど。そう言えば、一体どこに――」

 言いながらようやく澄み始めた視界を、ぐるりと一周するように見渡すと眼前に人影が立っていることに気がついた。


「アーデちゃん……!?」


「じゃねーよ、下がれラント」


 低く警告すると、ユニアスは身構えながら対象を観察した。

 年のころは三十代~四十代くらいの瘦せ型の男。年季の入った黒いマントのフードを深く被っているが、黒い髪と特徴的な赤い瞳は隠しようもなかった。両親から聞いていた容貌と、紛れもなく一致している。


「セオドア・ジャックフォードだな?」


 ユニアスの問いに、まるで鏡に映したように良く似た赤い瞳が興味深げに瞬いた。


「そう――そうだよ、僕がセオドアだ。けれどジャックフォードの名前は、家に置いて来たつもりだったんだけどね?」


 そう言うと、こちらが呆気に取られてしまいそうなほどあどけない笑顔を見せた。

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