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【第22話】ジャックフォードの昔語り

「ジャックフォードの家系はさ、ネクロマンサーの中でも群を抜いて伝統のある一族なんだよな」

「ふーん?」

 聞き手の相槌が気に食わなかったユニアスは、手を伸ばしてその頬を思い切りつねりあげた。

「痛っててて!! 痛いって! 何すんだよ!?」

「おまえに真剣味が足りないからだ。あーあ、何だか面倒になったな……」

 涙目のラントにそう言い放つと、ユニアスは話す意欲を失ったように目を閉じた。汽車の揺れに身を任せながら沈黙を貫きそうな雰囲気だったので、その様子にラントは焦って弁明した。

「いや、だってさ。確かに住んでた家は由緒ある感じで良い感じに年季も入ってでかかったけど、ユニアスのとこのおじさんもおばさんも気さくで全然気取ったところがないし。実感湧かないんだよなぁ」

 その感想にはユニアスも同意だったのか、あっさり頷いて再び口を開いた。

「そうだな。俺も家系のことは正直あまり意識したことがなかった。それもこれも、親父もおふくろもガキの俺にそういう教育を一切してこなかったからだろうな」

「良く二人でかくれんぼとか鬼ごっことかで、自由に走り回っても何も言われなかったもんな。それってジャックフォード家としては普通のこと?」

「全然。先々代の俺の爺さんは、家業についても血を残すことにも拘りが強かったそうだ。そのせいで人生を振り回された二人は、俺のことは家に縛られない育て方をすると決めたんだと」

「振り回されたって……」

「時代錯誤すぎて、すぐには信じがたいような話だった」

 苦笑いして、ユニアスは里帰り時の両親とのやり取りをラントに語り始めた。


***


「単刀直入に訊くけど、俺は本当に二人の子供か?」


 開口一番の問いに、父のロキニスと母のアリスンは顔を見合わせて頷くと真剣な表情でユニアスに向き直った。

「その質問が出るってことは、もちろん何かきっかけがあったのよね?」

「うん。だけどそれを説明するより、先に二人の口から本当のことを聞きたい。答えは?」

「そう……分かったわ。ごめんなさい、ユニアス。いつかは話した方が良いのかと迷いもしたけど、私たちはこれが最良の形のようにも思えて。わざわざ波風を立てるようなこと、したくなかった」

「分かってるよ。俺だって知らないでいたからこそ、これまで能天気に生きて来られたわけだし。二人が俺をどれだけ大事に育ててくれたか、身をもって知ってる。たとえ血がつながっていなくても、俺の両親はこの先も二人だけだと思ってるよ」

 ユニアスの核心に切り込んだ言葉に、二人は感動するより少々困惑した様子だった。

「なに? 俺、何か変な事言った?」

「ええとね、血がつながっていないわけでもないのよ?」

「それは俺もネクロマンサーの血を継いでいる訳だから、余所からもらってこられたとは思ってないけど。要するに、血縁が片方だけってことだろ?」

「それがそういうわけでもなくて」

 歯切れの悪い応答に、ユニアスは焦れて自分から話を進めた。

「? おふくろには悪いけど、面倒だから俺の予想を言わせてもらうわ。親父が別の女に生ませた子供が俺なんだろ?」

 ユニアスの言葉を聞いて、アリスンは激怒しながらテーブルを叩いた。

「何ですって!? 何てとんでもないことを言うの、この子は! あんたは私がお腹を痛めて生んだ、正真正銘私の子です!!」

「ええ!?」


***


「ええーーー!?」


 回想のユニアスよりも、激しくラントは驚いていた。

「うるせえな」

「だ、だって! てことはアーデちゃんは……」

「うん、まあそういうこと。アーデルハイトは俺の母親ってわけじゃなかった。普通におふくろから生まれてたわ」

「じゃ、じゃあ何なんだよ? 他人?」

「まあ落ち着けって、話はまだ終わりじゃない」

 混乱するラントを宥めて、ユニアスは再び口を開いた。


***


「おふくろが俺の本当の母親」

「そうよ、何か文句でも?」

「文句はねえけど、髪の色も目の色も俺とは違うからさ。てっきり」

「だからそれは、あんたの実父が――」

「まあまあ、アリスンもユニアスも一度落ち着け。ケンカ腰で話すようなことでもないだろう」

「だって、あなた。この子ったらあなたにあんなに失礼な妄想を」

「妄想じゃなくて、推測だって」

「同じことです!」

「あー……アリスン、お茶のお代わりを頼むよ」

 夫にそう言われて、ユニアスの母はプリプリしながらもキッチンに立った。二人きりになると、ユニアスはばつが悪そうに小声で謝罪した。

「その、ごめん」

「いや、おまえに何も説明してこなかった俺たちも悪かった。ただアリスンが言ったように敢えておまえに真実を伝える必要があるのか、俺たちはそのことをずっと迷っていた」

「血がつながっていないわけじゃないって言ったよな。親父は実のところ俺の何にあたるの?」

「父親ではないが、叔父ってことになるな。おまえの実父は、俺の兄貴でアリスンの婚約者だった」

「婚約者……」

「結婚前にある日突然家を出てしまったけれど。その時点でもう、あんたは私のお腹にいたのよ」

 ポットにお茶を淹れて戻ったアリスンが、ロキニスの話を引き取った。三人分のカップにお茶を注ぎながら、続けて言う。

「途方に暮れていた私を見かねて、父さんが私と結婚して家を継ぐとお義父様に申し出てくれた。そのおかげで、私もジャックフォードの家も救われたのよ」

「へえ、かっけーな親父」

「そうよ、お父さんには私もあんたも一生感謝しなくちゃいけないの。なのに、そんな素晴らしい人をつかまえてあんたときたら――」

「だから、悪かったって」

「そんな大げさな話じゃない。本当のところ、一目見た時から俺がこっそりアリスンに惚れてたってそれだけの話だ。俺にとっては、棚ぼたみたいなもんだな」

「あなた……」

「目の前で親の惚気とかキツイんだが」

 見つめ合う両親に苦笑して突っ込みを入れると、ユニアスは話を自分サイドに強引に引き戻した。

「それで俺の実父の、親父の兄貴って人は何で出てったんだ?」

 すると途端に、ほわほわした雰囲気だった二人が揃って顔を曇らせた。

「昔はこの家も色々と複雑でな。兄貴は俺の母親――つまり正妻の子ではなくて。おまえの爺さんである先代が、結婚前に下働きの娘に手をつけて生ませた子供だった。その娘が産後すぐに亡くなったことと、兄貴のネクロマンサーの資質が強かったことから嫡子として育てられることになった」

「正妻――俺の形式的なばあさんはさぞ面白くなかっただろうな?」

「ああ。事あるごとに辛く当たってな。結局そうした家のゴタゴタや重圧なんかが積み重なって、家を出たんだとは思う。ただ俺は兄貴と腹を割って話すような機会は一度もなかったから、アリスンに聞いた話と併せて想像するしかないんだが」

「私も詳しいことまでは」

 急に口が重くなった二人に、ユニアスは自身も祖母と面識がないことを疑問に思った。

「そう言えば、そのばあさんはいつ亡くなったんだ?」

 二人は顔を見合わせた後、ロキニスの方が答えた。

「同じ日だ。ちょうど兄貴が出て行った日と」

「それって……」

「確証はない。母は階段から落ちたらしく踊り場で倒れていたから」

「事故かもしれないし、事件かもしれないってことだな」

「そうだな。ジャックフォードとしては身内のゴタゴタを晒すわけにも行かず、事故として収束させる他はなかったが」

 本人の意識はどうあれ、殺人者として追われているわけではないと言う。手配されていないのなら、まだ探しやすそうだとユニアスは思った。

「その実父だけど、外見は俺と似てる?」

「ええ。髪の色も目の色も、あなたと同じ」

「でも顔全体の雰囲気はアリスン寄りだよな。小さい頃は、女の子と間違えられることも多くてそりゃあ可愛い……」

「俺のガキの頃の話なんてどうでもいいって、それより爺さんが手をつけたって娘のことだ」

「うん?」


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 ユニアスの真剣な問いに、アリスンの方が反応を示した。

「どうしてあなたがそれを……」

「間違いないんだな?」

「ええ。あの人が、確かに亡くなったお母さんのことをそう呼んでた」

「他には、何か聞いてないか?」

「特に話すようなことは。産後すぐ亡くなったという話だし」

 ロキニスの方は、一層何も知らない様子だった。

「すまんな、大したことも話せず。何しろ俺が生まれる前のことで、母の前でこの話はタブーだったし」

「いや、色々聞けて助かった。あとは自分でどうにかするよ」

 立ち上がったユニアスに、母親はびっくりして目を瞬いた。

「あら、まさかもう帰るの? せめて今日くらい泊まって行ったら」

「悪いけど、留守を頼りない奴に任せて来たからそうも行かなくて――」

 ユニアスの言葉を、けたたましく鳴る玄関のベルと大声でユニアスの名を呼ぶ聞きなれた声が遮った。

「何だ何だ、どこかで聞いた声だな」

「ラントだよ。あの野郎、留守番はどうなったんだ」

 アリスンが玄関の扉を開けると、一目散に駆け込んできたラントはユニアスに事の経緯をしどろもどろに説明した。ユニアスはため息を吐きながらも、それ以上余計なやり取りはせずラントを伴って急いで家を出た。


 挨拶もそこそこに帰路についたユニアスを、ロキニスが呼び止めた。ラントを先に駅に向かわせながら、ユニアスが立ち止まって振り向くと言い忘れていた大切なことを口にした。


「兄貴の名前は、セオドア。セオドア・ジャックフォード……それがおまえの実の父親の名前だよ」


「セオドア……」


 小さく復唱すると、ユニアスは父親に手を振って改めて礼と別れを告げた。


***


「そっかー俺が辿り着く前、そんなやり取りが」

「そうだ。お前のせいで滞在時間が余計に短縮された」

「いや、明らかに話終わってたじゃん!」

「そう見せかけて、色々引き留められるもんなんだよ実家ってのは。飯くらい食えたかも知れないのに、おまえのせいで強制終了だ」

「いやいやいや! ユニアスだってそれどこじゃなかっただろ? だって、アーデちゃんのこと……」

「なんだよ?」

「要するにおばあちゃん、なんだよな? ユニアスの」

 はっきり明言されていないところを代わりに口にすると、ユニアスは冷静に頷いた。

「そうなるな、俺の実父の生みの親なら必然的に」

「はー……」

「がっかりしたか?」

「いや、そうじゃなくてびっくりしたって言うか。世界一可愛いおばあちゃんだなと」

「死人だからな。享年十八なら、誰でもあんなものだろう」

「で、でもやっぱりアーデちゃんは特別可愛いと思うし」

「不毛な恋愛に走りたいなら止めはしないけどな、ラント」

「そ、そんなんじゃないって!」

「アーデルハイトは、世の理に還す。そのことは、分かってるな?」

「分かってる……けど」

「けど、何だ?」

 ユニアスの追求を、ラントはあやふやにかわした。

「そ、それよりさ。アーデちゃん本当にこの先にいるのか?」

 車窓からの景色は、終点に近づくほど山深くなって行く。けれどそこに、姿を消したアーデルハイトが来ている保証などどこにもない気がした。

「いるさ、俺とあいつは魔力で繋がってる。その感覚が間違いなくアーデルハイトの気配を告げている」

 自信たっぷりにそう言うと、ユニアスはあとしばらくの汽車の旅を寝て過ごすことに決めたらしく背もたれに寄り掛かって目を閉じた。

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