【第19話】バジリスクの秘宝(6)
「何か……マジで幽霊とか出そう」
「出そうって言うか、いるよな普通に」
「いるのかよ!!」
「おまえそもそもミオを何だと思ってんだ? 彼女も死人だぞ」
「だって仮蘇生した相手は普通の人と変わんないから怖くないもん。や、やだユニアス離れないで」
「ちょ、触んな。鬱陶しい」
青ざめながらしがみついてくるラントの顔を無造作に押し退け、ユニアスは先導するアーデルハイトの後を追って西棟の廊下を歩いていた。城が現役の頃から人が立ち入っていなかったと言うだけあって、全体的にかなり荒れている印象を受けた。老朽化のせいか材質の石が欠けたものがあちこちに転がっており、気を付けて歩かないと転んでしまいそうだった。
「当時はここまで酷くはなかったんだよな?」
「はい。埃っぽくはありましたけど、さすがにこんな風では」
ミオの返答に頷いて、ユニアスは壁に触れた手がざらざらするのをラントの服で当たり前のように拭いた。まだ怖がっているラントは、それにも気づいていないようだったが。
やがて何もない通路の途中で立ち止まると、アーデルハイトはユニアスを振り返った。
「ユニアス、ここ」
「ここって、もしかして隠し階段か?」
「それは知らない。メイドいたとこ」
「ああそうか。でもあんたがいたってことは、やっぱりここなんだろ?」
「そうですね、確かそっち側の床の方です」
部屋が並んでいるのとは反対側の壁を指さすと、月の光が素通しの窓から差し込んでいるのが目に映る。ライラネルは首を捻った。
「でもこっちは、外では? 部屋なんてどうやって」
「たぶん、目や感覚の錯覚を利用して上手く作ってあるんだろうな。開けられるか?」
「やってみます」
ミオはその場に膝を突くと、手探りで壁際の床を確認した。そして他と変わらないように見える石のブロックの一部を蓋のように取り外すと、そこに引手が隠されていた。
「こんなところに……」
驚いているライラネルの目の前でミオが引手を引くと、鎖の鈍い音と振動と共に壁が動いてぽっかりと穴が現れ、その先には確かに階段が続いていた。
「本当にあったわ」
幼い頃からの夢が現実になった瞬間に感動している風なライラネルをよそに、ユニアスは未だくっついているラントを見返る。
「ラント、灯り。入口とあと階段下にも」
「ああ、うん」
ようやくユニアスから離れると、手の平をそっと合わせて開く。そこには丸い炎の塊のようなものが辺りを照らしながら渦巻いていた。
「まあ、綺麗ですね」
「え、エヘヘ……まあね」
「元素魔術の一種で、こいつが使える数少ない魔術の一つだよ。引火の危険性はないから火事にならないのが利点だな。ほら、ドヤってねえでさっさと下の分も作って落とせ」
「わ、分かったよ。人使い荒いなあ……」
ぼやきながらもユニアスに言われた通り階段下にも灯りを放り投げると、視界は良好で降りた先の踊り場には確かに古い血の染みのようなものが広がっていた。さらに曲がったところに部屋があることも見て取れた。
「で、やっぱり下りてみるのか?」
少々不気味そうにユニアスに訊ねると、立って離れるよう促されたのでラントは従った。するとユニアスは階段に触れて様子を確かめた後、ミオに声をかけた。
「下りられるか?」
「……」
無言で首を振るミオは、ひどく怯えている様子だった。
「無理もないか、最大のトラウマだからな。仕方ない、アーデルハイト」
「うん」
進み出たその姿に、ユニアスは軽く眉をひそめた。
「借りたドレス汚れると思うが、構わねえか?」
「それはもちろん」
ライラネルの承諾を得て改めて下へ降りるよう命じると、アーデルハイトは勢い良く階段へ踏み出し三歩程進んだところで急に足を踏み外して前のめりに落下した。
「きゃあ!!」
ライラネルは思わず悲鳴を上げたが、アーデルハイトは器用に空中で体制を変えて猫のように身軽に着地した。立ち上がって両手を振る姿に、ユニアスは軽く笑った。
「大丈夫そうだな。ラント、もう一つ灯り落とせ。アーデルハイト、そこの灯り持って先に部屋を見てこい」
言われた通り、灯りを持ったアーデルハイトは一行の死角に消えた。その後ラントの作った灯りで再び階段下が明るくなると、ユニアスは慎重に階段に足を乗せた。
「あ、危ないです! さっきの子もきっと私と同じ理由で滑って……」
「分かってる、だから確認する」
ユニアスは震えるミオにそう答えて、アーデルハイトの靴の跡がはっきり残る段の一つ上で止まると、表面を撫でてみた。するとミオの言葉通り中央から右寄りにかけて蝋の感触があった。
「確かに蝋だな。でもこれは塗ってあると言うより」
「ユニアス。中、箱しかない」
「ああ、今行く。全員は無理そうだからあとラントと……あんたも見たいよな?」
「はい!」
ライラネルが力強く答えるので、ユニアスは仕方なさそうにため息を吐いた。彼女からスカーフを借りて該当の階段に敷くと、この部分を避けて歩くよう伝えた。
「俺とラントが先に下りるから、その後ゆっくり座って尻をつきながら下りて来い。万一滑っても、受け止めてやる」
「は、はい」
覚悟を決めた様子で拳を握ると、ライラネルは言われた通り高価なワンピースを埃や砂で汚しながらどうにか階段を下り切った。ラントの手を借りて立ち上がると、胸を高鳴らせながら先祖の隠し部屋に足を踏み入れた。その視界の先には――




