【第18話】バジリスクの秘宝(5)
「私は、ミオ・レクスと申します。年は十七で、六代目の侯爵様にお仕えしていたメイドです」
ユニアスの秘術で仮蘇生したミオが突然その場に現れたのを、ライラネルと二人の従者は初め恐々と遠巻きに見守っていたが、そもそも最初に触れたアーデルハイトと変わりないのない存在であることを理解すると、近くに寄って話を聞き始めた。
「十七歳って、本当に若いな。貴族の屋敷で働くにはちょっと経験不足じゃないか?」
「私の場合、嫁入り前に行儀作法を学ぶための期間限定の雇用でしたから。十八歳までって約束で」
「それじゃ、結婚前に死んじまったのか? そりゃあ親もさぞかし嘆いただろうな」
「恐らくそうだと思います」
「思いますって、ご遺体を引き取りに来たご両親と会わなかったの? あなた亡くなってからもずっとここにいたんでしょう?」
思わず口を挟んだライラネルに、ユニアスが代わって説明した。
「死んですぐ、霊体がすべてを理解してその場に現れるとは限らないんだよ。気が付いたら墓の前や自分の部屋の中にいたとか、死んだ前後の記憶が曖昧なケースも少なくない。だから自分の死を受け入れるのに時間がかかることもあるし、後ろから殺されて本人も犯人を知らないなんて状況も生まれる」
「そうなんです、私も気が付いたらあの階段のあたりに。家に帰ろうとかそういう気にもなれず、あの場から動けませんでした」
「地縛霊ってやつだな。場所に対しての執着が強かった」
「でもその後、今日まで誰もあそこを開いた人はいませんでした」
「開いた、ってのは?」
「隠し階段だったんです。そこを下りた先に、二代目が隠した秘宝があったんだと思います」
「隠し階段!? そんなもの、一体どこに?」
血相を変えて身を乗り出すライラネルを、ユニアスが冷静に押しとどめた。
「落ち着けよ、順番に訊いてみよう。まずはその階段、ここに居る相続人ですら知らないそれをおまえはどうやって見つけたんだ?」
「見つけたと言うか開いているのを偶然見たんです。普通は誰も来ないような西棟の外れだったから、きっと私に気付かなかったんです」
「そんな誰も来ないようなところに、わざわざ何しに?」
「それは……」
言いよどむミオに何かを察して、ユニアスは重ねて言った。
「どうせ百年以上前の話だ、倫理観がどうとか今更遠慮することもない。正直に話せ」
「まあ、そうですよね。実は私も宝を探していたんです」
「あなたが?」
目を丸くするライラネルに、ミオは少々ばつが悪そうに頷いた。
「はい。親の決めた相手との結婚とか、正直嫌で。噂で聞いていた宝を見つけて、莫大なお金が手に入ったら自由になれるかもしれないと思ったんです」
「いや万一見つけたとしても、それは自動的に当時の侯爵家のものになるだけでしょ? もらえてせいぜいお小遣い程度の礼金てとこだと思うけど」
ラントの極めて常識的な発言は、その場の全員にスルーされた。
「なるほどな、秘宝を探していたからこその発見か。それで階段を開いていた相手は見たのか?」
「それは見ました、執事のタイラーさんでした。それから何度もこっそり同じ場所で見守ったんですけど、出入りしているのはいつもタイラーさん一人でした。だから彼が帰った後なら誰も来る心配はないと思って、何度目かに私も手順を覚えて階段を開けてみたんです」
「ほお、それで? 下には行ってみたのか?」
「もちろん下りてみました。階段は急だったけど、そんなには長くなくて。灯りを持って降りるのは少し手間だったけど、ゆっくり進みました。階段を下りた先には小部屋があって、そこには――」
「な、何があったの?」
固唾をのんで言葉を待ったものの、ミオの返答はえらく素っ気ないものだった。
「秘宝って言うか、普通のちょっと価値のある家具の収納場所みたいでした。銀食器とか、装飾品とか絵画とか」
「え……でもあなた、さっき宝を見たから殺されたって言わなかった?」
「はい」
「なのに、見たのはそれだけ?」
「でも他に理由は思いつかないし。私には良く分からなかったけど、わざわざ遺したからにはきっとそれなりに価値のあるものだったんだと思います」
「そうかしら?」
推測だけの会話をこれ以上続けても意味がないと悟ったユニアスは、その部分を飛ばして核心に話を進めた。
「てことは、おまえを殺したのもそのタイラーってことか?」
「きっと、そうなんじゃないですかね?」
「曖昧だな。あれか、背中から突き飛ばされて顔は見てないとか?」
「いいえ、突き飛ばされてはいません」
「じゃ、何なんだよ」
「ユニアス、言い方」
苛々としているユニアスの物言いを窘めたラントだったが、ミオはまったく気にしていない様子だった。
「滑ったんです、階段に蠟が塗ってあって。落ちた石床で頭を強く打って、その後はもう意識が。だから実際現場を見た訳じゃないけど、そんなことする必要があるとしたらタイラーさんの他にはいないと思います」
力強くそう主張するミオを、ユニアスはかなり冷めた様子で眺めた後、仕方なさそうに腰を上げた。
「取り敢えずあとは現場に行ってみる他ないな。アーデルハイト、案内を頼む」
「うん」
ぴょこんとソファから立ち上がると、ドレスのままのアーデルハイトは薄く笑ったように見えた。




