表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/27

【第14話】バジリスクの秘宝(1)

 湯気の立つマグカップを目の前に置かれて、ラントは恐縮して手を伸ばした。

「ありがとー、アーデちゃん。あれ、これって?」

 初めて見る小さな動物の描かれたデザインのカップを掌で包むように持つと、アーデルハイトは無表情に頷いた。

「それ、ラントの」

「嘘、わざわざ買ってきてくれたの? 嬉しいなー」

「もうお客じゃないから。せっかくだし似たのにした」

「似てるって……これと、俺が?」

「うん」

 表面に刻まれた子豚柄に少々複雑ではあったが、ラントはアーデルハイトに改めて礼を言った。中のお茶を飲み、ほっと息を吐く。

「でも二人きりで留守番て、ちょっと落ち着かないね」

「初めて」

「え?」

「ユニアスと離れるの、初めて」

「そうなんだ」

 三角巾に留めたサファイアのブローチに触れながら、どこか沈んだ様子に見えるアーデルハイトをラントは心配そうに見つめた。


 話は今から三日ほど前に遡る――


***


故郷くにに帰る?」


「ああ。できるだけ早いうちにな」

 ユニアスの決断の理由は、ラントにも分かっていた。アーデルハイトの素性に繋がるであろう自身の出生について、両親に確認する必要があるのだろうと。だから手放しで賛成したし、自分も付いて行くと申し出たところすげなく却下された。

「おまえは駄目。アーデルハイトを一人にするわけには行かないだろう」

「一人にって、アーデちゃん連れて行かないのか?」

「ああ」

「何で?」

「何となく……良くない気がして」

「良くないって、村に入れるのが?」

「それもあるし、何より親父とおふくろには会わせない方がいい気がする。勘だけどな」

「アーデちゃんを仮蘇生したのって、地元だろ? なのに二人と顔を合わせたことないのか?」

 神妙に頷くユニアスに、複雑な事情を察してラントはひとまず納得した。

「分かった、留守番の件は引き受けるとして。おまえの魔力で生活しているアーデちゃんと、それだけ離れても大丈夫なのか?」

「いい質問だ、実は少し問題がある。俺からアーデルハイトへの自然供給は、距離にしてせいぜい一キロが限界だ。それ以上離れると、途切れる。ある程度事前に貯めておくにしても、単独での活動は三日が限度だろう。枯渇するとアーデルハイトは術が解けて元の死人に還る」

「あー……でもそうしたら、また仮蘇生すれば良いってこと?」

「気楽に言うな、壊れたおもちゃを元に戻すのとはまるで違う。再度の仮蘇生は可能かもしれないが、今の仮蘇生中の記憶は確実に失われる。蓄積された情報がリセットされるってことだ」

「てことは、俺のことも忘れちゃうの? そりゃ大変だ!!」

「おまえのことは正直どうでもいいが、俺との関係をまた一から構築し直すのはあまりにも無駄だ。学んだことも多いしな」

「あ、だった、俺たちも途中まで一緒に行ってどこかで待つのは? 一キロ圏内なら、時間制限もないだろ?」

 ラントとしてはかなり良い案のように思えたが、そのことはユニアスも一度は検討したようですぐに首を振った。

「アーデルハイトを汽車に乗せるのも不安なんだ。あと勝手を知らない滞在先で何か起こると対処が難しい。それに、できれば不在の間に依頼人が来たら後日対応すると内容だけ聞いておいて欲しい」

「……商魂たくましいな」

「無駄飯食らいが一匹増えたおかげでな」

 呆れたような呟きにすかさず反撃して、ユニアスは話をまとめにかかった。

「とにかく三日で必ず帰るから、おまえはアーデルハイトと一緒に留守を頼む。あいつの身に着けているサファイアと黄金の指輪に魔力を注いではおくが、極力活動は抑える様に様子を見てやってくれ。くれぐれも無駄な掃除とか、力のいる作業とかさせないように。食事作りははあいつの唯一の趣味みたいなもんだから、やらせて構わない」

「分かったよ、ちゃんと見てる」

 ラントが大真面目に請け負うと、ユニアスは一安心した風で早速出立の準備にとりかかった。


***


 そして今朝、一番早い汽車で故郷のヴェルドレ地方にユニアスが旅立った後、ラントとアーデルハイトは二人で慣れない時間を過ごしつつ現在に至る。新しいマグカップでアーデルハイトの淹れてくれたお茶を飲みつつ、ラントが何をして過ごそうかと漠然と考えていると、入口の扉が少々乱暴にノックされた。

「あれ、客か。依頼人かな?」

 のんびり腰を上げたラントと対照的に機敏に戸口に歩み寄ったアーデルハイトが扉を開けると、表に黒いローブとフードを目深にかぶった三人の人影が佇んでいた。マントの上からでもそれと分かる剣を携え武装したものものしげな様子に、ラントが慌ててアーデルハイトを庇うように進み出た。

「う、うちに何か用ですか?」

「ネクロマンサーの、ユニアス・ジャックフォードは在宅か?」

「今、留守」

 アーデルハイトがラントの背中越しに答えると、三人は顔を見合わせてからラントに視線を移した。

「なら、おまえは?」

「俺は魔術師で、留守番だけど。あ、あんたたち随分偉そうだけど、いったい……」

「我々は、さるお方の元へユニアス・ジャックフォードを連れて行かねばならん。それ以上のことは、今は話せん。因みにその娘は?」

 背後のアーデルハイトに話が移って、ラントが考える間もなく本人が挙手して答えた。

「助手」

「ネクロマンサーの、助手ということか?」

「そう」

「ならば、この男より価値がありそうだ。代わりに話を聞かせてもらおう」

「ちょ、ちょっと待てよ!」

 抗議したものの、ラントを軽々横に突き飛ばして三人はアーデルハイトに近づいた。アーデルハイトはと言えば、危機感を持つでもなく首を傾げて立ち尽くしている。恐らくいつものようなユニアスによる明確な指示がないため、三人に対しどう対応すべきか判断がつかないのだろう。


(でもここで下手に抵抗したら、無駄に魔力を消費する。死人とは言え、万一剣で斬られたりして大丈夫なのかもわからないし)


 ラントがぐるぐると頭の中で考えをめぐらすうちに、アーデルハイトは代表の一人と一言二言交わすと、何やら納得した様子で連れだって外に向かった。

「え、ちょ、アーデちゃん!?」

「彼女の身柄はこちらで預かる。おまえはユニアス・ジャックフォードが戻ったら、ここを訪ねるよう伝えろ。そこでこちらの要求に応えれば、無事に返すことを約束しよう」

 一方的にそう言い置くと、テーブルの上に文字と地図の描かれた紙きれを残して扉が閉められた。一瞬呆然として、それから焦って表に飛び出したものの時すでに遅く、アーデルハイトを乗せた馬車は瞬く間に遠ざかって行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ