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【第12話】子供のための鎮魂歌(前編)

「ラントおまえ、いつまでここにいるつもりだ?」

 殺人容疑で拘束された事件から既に一月。なし崩しに居候を継続している幼馴染のラント・ベルハイトにきつい口調でそう切り出すと、ラントはポトフのじゃがいもをぐっと喉に詰まらせた。

「ぐ、ごほ、ごほっ……み、水」

 じたばたともがいていると、キッチンから現れたアーデルハイトがコップの水を強引に流し込んだ。

「っ……はあ、助かった……ありがと、アーデちゃん」

「うん、気を付ける」

「甘やかすな、こんなやつ。アーデルハイトに取り入って一ヶ月もただ飯食らいやがって、いい加減仕事場でも実家でも好きな方に帰れよ」

「あー実は隣町の賃貸は、解約しちゃったんだよね。だからできれば正式にここに置いて欲しいって言うか」

「あ?」

「そんな嫌そうにしなくても。友達だろ?」

「友達だろうが知人だろうが、無駄飯食らい置いとく余裕なんかうちにはねぇよ。あれから一件も依頼がない状況見ればそのくらい分かるだろ? どうしても追い出されたくなかったらひとまず今日までの金をよこせ、そんで働け」

「本当? じゃあ外に看板出して良い? あと帰らなくていいなら旅費として取っておいた所持金全部渡すけど」

「……ちっ」

 本来の思惑と逆に居付く方向で話がまとまってしまったことと、渡された金袋があまりにも軽かったのでユニアスは機嫌悪く舌打ちをした。袋は買い物担当のアーデルハイトにそのまま預けて、先月手に入れたばかりの右手に嵌めた精霊の指輪をじっと見つめる。

「いざとなったらこれとか、カーバンクルのサファイアとか。あれなら一生働かなくても食えるな……」

 アーデルハイトの三角巾に燦然と輝く青の光を目に映しながらつぶやく。報酬として受け取った貴金属を金に換える算段をして、何だかひどく貧しい気分になったのでユニアスはその考えを振り払うように立ち上がった。


 小一時間後――


「ユニアス、仕事! 仕事だ!!」

 騒々しく扉を開けて飛び込んできたラントを、ユニアスは少しだけ感心したように見やった。

「ほぉ、看板出してすぐとはやるじゃねぇか。どこの物好きか知らないが、きっちり働いてこい」

「いや、俺じゃなくておまえの依頼人。入口で待ってもらってる」

「な・ん・で、家主の俺がてめーに仕事斡旋してもらわにゃならねーんだよ」

 胸ぐらをつかんでぎりぎりと締め上げると、ラントはじたばたと両手を動かして抵抗した。

「だ、だってそもそも、一流のおまえに依頼が少ないのは世間の認知が足りないからで。だから人当たりのいい俺が宣伝役に回って、ネクロマンサーのお仕事は皆さんが思ってるよりもっとずっと身近なものですよってポジティブキャンペーンをかましてきたわけ。そのおかげで、実際お客ゲット! 俺これからは、ユニアスのプロデュースで生きて行こうかな」

「ま、三流のおまえが客待ちするよりマシか」

 どこまでも能天気なラントに呆れて手を離すと、待たせた客を通すように伝えた。

「客だ、アーデルハイト。お茶を頼む」

「うん」

 キッチンからひょこりと顔を出したアーデルハイトは、相変わらず無表情に頷いた。


***


 ラントに案内されて入って来た依頼人は若く身なりもきちんとした女で、薬指にはシルバーの指輪が鈍色に光っていたため中流階級以上の若妻といった印象を受けた。左胸のコサージュも、控えめながら上品に納まっている。

「私は、エルザ・ハミルトンと申します。あの、失礼ですが本当にあなたが……?」

「ユニアス・ジャックフォード――ネクロマンサーだ」

 名乗ると同時に、壁に掲げた正式な国家の免状を示す。エルザは納得したように頷いて、再び口を開いた。

「本当に死んだ人を蘇らせることができるの?」

「仮蘇生、だけどな。死者と対話して、この世への未練がなくなったら還ってもらう。それが前提」

「それは……難しいわ」

「難しいって、何が?」

「きっと、まだ言葉は分からないの」

「てことは小さな子? もしかして、あんたの」

 こくりと頷くエルザに、ユニアスは少慎重になりながら質問を重ねた。

「たぶん言葉である必要はないと思うけど、一応いくつくらいの子?」

「六か月くらい」

「乳飲み子か……あのさ、それだと」

「違うわ」

「え?」


「お乳は飲んでない。だって、生まれる前に流れてしまったから。お腹の中で六か月の頃に」


 平らな腹を撫でながらそう呟くエルザに、ユニアスはラントを睨みながら大きくため息を吐いた。

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