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【第10話】金貸し殺人事件始末記(中編)

 面会を終えたユニアスが留置所から出ると、案内をしてくれた自衛官の二人が外で待っていた。事情を説明して殺害現場への同行を求めると、とたんに顔を曇らせた。

「そ、それは被害者の遺体を動かすということか?」

「そうだよ。直に本人から事情が訊けたら、あんたらも楽だろ?」

「いやしかし、そんな前例はないしな」

「初? 良かったね、貴重な経験だよ。自分で言うのもなんだけど俺一流だし」

「ユニアス、偉そう」

「だって実際偉いし」

 アーデルハイトの突っ込みにも泰然としていたユニアスだが、二人がどうにも煮え切らないので重ねて進言した。

「あんたらが決められないなら、上司に許可貰ってよ。因みに俺は国に正式に登録した由緒正しいネクロマンサーだから、照会してもらえばすぐ分かる」

 メモに書かれた個人コードを手に、彼らは戸惑いつつも自衛官事務所に引き返した。

 が、数分経って外まで聞こえる怒号と共に転げ出て来た二人に、ユニアスは大仰にため息を吐いた。

「使えねー」

「や、やっぱり無理で……」

「ああ、聞こえた。直接交渉するからどいてくれ」

「いや、君。やめておいた方が――」

「行くぞ、アーデルハイト」

 静止の声を無視して、ユニアスは恐れげもなく開け放たれた扉の向こうに入って行った。


 しばらくして長官から正式に許可を取り付けたユニアスは、部屋から出てVサインをして見せた。

「驚いた、本当に長官殿の許可が下りるとは。一体どう説明したんだ、君」

「論より証拠だよ。俺の最高傑作を見て、実力を理解できない奴なんていないさ」

「最高傑作……?」

 アーデルハイトを指しての言葉の意味が分からず首を傾げている二人を、ユニアスは思わず笑った。

「何だ、気づいてなかったのか。出会い頭に投げ飛ばされたのにな。普通の女の子だと思った?」

「と言うことは、もしかして彼女は?」

 畏怖の込められた問いに、ユニアスは誇らしげに答えた。

「そう、俺の蘇生体サモン・ファクトだよ。姿は生前と変わらず、自分の意思も人格もある。これまでのあんたらの中のネクロマンシーのイメージが、塗り替わったかな?」

「いや、驚いた……」

 ユニアスの横にぴったり寄り添っている少女を、二人は感動に近い面持ちで眺めていた。

「まあ今回は話を訊くだけだし、おっさんだし。ここまで気合入れるつもりもないけど」

 当人が聞けば憤慨しそうなことをさらりと言うと、建物地下の死体安置室に一人で入りロデリックの遺体を最低限のエコな魔力で起き上がらせた。


***


「で――おまえを殺したのは、この男か?」


 ラントに引き合わされた被害者のロデリック当人は、瞬時に首を振った。


「いや、違う。私を殺したのはこいつではない」

「ほら見ろ、ほら見ろ! やったー、俺は無実だ!!」

 踊り出すような勢いで喜んでいたラントは、次の言葉で再び地獄に叩き落された。

「だが、この男コソ泥だろう? 私が死んだ後で部屋を漁っていたぞ。それはそれでけしからんから極刑にしろ」

「と言うことは、殺人ではなく窃盗ということか」

「良かったな、ラント。罪状が変わった」

「じょ、冗談じゃねーよ! 俺はコソ泥なんかじゃない!! 依頼人から頼まれて、あんたが不正に手に入れた借金のかたを取り返そうとしただけだ!!」

「不正に? それは聞き捨てならんな。私がしているのはあくまで正当な取引だ。約束の期日までに借りた金を返すのは当然のことで、できなければ現物で回収することもある」

「そ、それが借金以上の価値があるから、強引に奪ったんだろ!」

「こやつは先ほどから何を根拠に言っとるんだ?」

 話にならないとばかりにこちらへ向き直ったロデリックに、ユニアスは代わって説明した。

「こいつは魔術師でね、依頼人から不当に巻き上げられた借金のかたを取り戻すよう頼まれたらしい。母親の形見の指輪らしいが、心当たりはあるか?」

「指輪なら私を殺した男が持ち去った。ただしそれは、かたでも形見でもなんでもない私の所有物『精霊の指輪』だがな」

「精霊の指輪? それって、精霊の加護が受けられるって言う魔法道具か?」

「うむ、細工が見事なので最近旅先で買い求めた。そう言えば、執拗に自分に譲れと言ってきた女がいたな。占い師とかいう怪しい女で、断っても断ってもしつこかったが手放す気はないと最後まで突っぱねた」

 それを聞いて、ラントがさっと顔色を変えた。

「女って、もしかして四十くらいで瘦せぎすの、長いウェーブのかかった黒髪で顔色の悪い?」

「そいつだ、間違いない」

「ああああー……」

「聞かなくても分かる。依頼人だな、おまえの」

 絶望的な声を上げてしゃがみ込んだラントに、ユニアスはすべてを察して呟いた。

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