12話:羨ましいのか
「それではこれより近接戦闘測定を行う。まずは2人1組を作りなさい」
2人1組という事は組手みたいな事をするのか? それにしては木剣とかが無いが、後から持ってくるんだろうか。
「アイン! もちろん私と組むだろう?」
そう言って胸を張ると魔王の胸がぷるんと揺れた。……女の体って不思議だな。
思わず見てしまうと魔王がにんまりと笑った。
「どうしたアイン。私になにかあるのか?」
露骨に胸が揺れる動きを繰り返すとその場の男の目を奪っていた。
「……ふんっ!」
「ッ……!!」
足をサイクロプスに踏まれたかの痛みにその場で蹲る。
「な、なにすんだ……」
「そんな無駄に大きな脂肪なんてアインさんは見なくてもいいです。それより早く組んでください」
「俺もそれなりに興味くらいは……」
「なんですか?」
「……わかった。魔王、組も──」
「アイン!俺と組みやがれ!」
「──う?」
ラスが俺に指を突き付けてそう言った。
「許せねぇ、許せねぇぞ。フィリア先生にマオさんだけでも許せねぇのに、それに飽き足らずエルナさんにも手を出そうとするなんて!」
「そうだそうだ!」
「ズルいぞ!」
「俺の未来の学園生活を返せ!」
周りの男から肯定の声が聞こえてくる。
「……あ、羨ましいのか。3人共美人だからな、確かに俺とずっと一緒にいるのはつまらないだろうな。すまない」
なるほど、フィリアは小柄ではあるものの愛らしく、庇護欲を掻き立てられる。気品もあり、エルフということもありどこか浮世離れした魅力がある。
魔王もかつての暴虐は置いておけば見た目は美しく、男が好みそうな体付きであり、尊大な口調にも人を惹きつけるカリスマのようなものを感じるのだろう。
エルナは一緒にいるわけではないが先程の会話からだろうか。しかし、彼女に関してはもはや語るべき事もないだろう。瞼を閉じればヴィアナの幸せそうな顔が瞼の裏に浮かぶ。きっと成長していれば今のエルナと同じ素敵な人になっていただろう。
納得するように頷く。
「こ・の・や・ろォ……!! 先生!最初は俺達がやるからな!」
「もうスムーズに進むならなんでもいい……」
「来い!」
「わかった」
ラスの後についていく。
どうして怒ってしまったんだろうか。きっと俺がなにか悪い事でも言ってしまったんだろう。今までは場所を転々としていたから気にしてなかったが、長く滞在するのであればこういうのも直さないといけないな。
2人でみんなから離れた場所で向かい合う。
「『勇者特剣』!」
「おお!」
ラスの手元に光が集まると1本の槍となった。燃える炎のような真っ赤な見た目で刃の根元から炎を噴いていた。かっこいいな……!
「これが俺の『ボルカニックストライカー』だ!お前も早く出せ!」
「……ん? なあ、それで戦うのか? 怪我とかしないのか?」
「そんな事も知らないのかよ? 『勇者特剣』で作られた装備は女神様の加護で相手を傷付けなくする事もできるんだよ。常識だろ?」
「そうなのか……便利だな」
「わかったろ。ほら、お前も特剣出せよ」
「いや、実は俺は『勇者特剣』を持ってなくてな」
「……ハァ!? 持ってねぇのかよ!? お前本当に勇者か?」
「一応勇者だ。木剣とかあるか?」
「あるわけねぇだろ。特剣あるんだから」
「だよなぁ……先生! ちょっと時間貰ってもいいですか?」
「む、ああ、構わんが。念の為聞いておくが、本当に持ってないんだな?」
「彼が持ってないのは間違いありませんよ。ですが、勇者である事も事実です」
「フィリス先生が言うならそうなのでしょうな……なんとも厄介な」
「という事だからほんの少し待ってくれ」
「チッ! 早くしろよ」
「ああ」
訓練所のすぐそばの森に駆け足で向かう。
「『召喚:デュランダル』」
そう唱えるとすぐそばの空間から柄が現れ、それを掴んで引っ張り出すと一振の剣が現れる。
「これに特剣みたいな効果があればなぁ」
実践的な訓練だってしやすかっただろうに。
木からやや太めの枝を切り出して使っていた剣と同じくらいの長さに整え、周りを削っていく。握りは持ちやすく細めにし、刀身にあたる部分は太めに作った。
「……よし、こんなもんか」
これが俺の今回の相棒──棍棒の完成だ。
デュランダルを戻してラスの所へと戻った。
「よし、やろうか」
「お、お前……どこまでもバカにしやがって〜〜〜!!!」