11話:面影
トリノ先生に注意をされて3人で並んで見学していると、ようやく最後の1人になった。
「……みんな、なんというか、控えめな魔法ばかりだな。1人くらい大技を使おうとしてもいいと思うんだけど」
「普通あんなものだ」
「そもそも禁術何個も覚えているのがおかしいんですからね」
「いや、だって覚えたの2000年前の事だし……」
あの頃はまだ禁術じゃなかったから……というか魔王と戦ってる時に使ってたのほとんど禁術なんじゃないか……?
「当然『逆さ空』も禁術だろうな」
「お前根に持ってるだろ」
逆さ空、その場の重力を反転させて空の彼方へと飛ばす術だ。空の向こうにはなにがあるか? 俺が知りたい。
あの時は発動して空中で消し飛ばすか空の向こうへ飛ばしてやるかと考えていたが、同じ重力魔法で対抗されてしまった。まあ、代償として上下の重力に体を引き伸ばされるような苦痛があっただろうが。
「規模が想像できません……」
ミリアが思考を放棄してしまった。
戦っている時は魔王城内部に特殊な結界が貼られていた。外に被害が出る事はなかったが、もしも外に被害が出ていれば地図が変わる程度には酷い戦いだったはずだろう。
そんな話をしつつ、最後は誰だと見ていると、金髪の少女が出てきた。
「……あれは」
「どうかしましたか?」
少女は陽の光を反射させるような美しい金髪だった。そう、まるで俺の幼馴染のように。
「いや、まさか……俺と魔王が特別だっただけで、彼女は普通の人間だったはずだ」
「おい、どこへ行く?」
「マオさん、今は好きにさせてあげましょう」
「むぅ……」
しかし、それでも気になる。ふらりと立ち上がり、彼女へと向かう。
「い、いきます! 『光よ貫け! レイ!』」
光が案山子を撃ち抜く。
「うむ、これで全員だな。それでは次の──む?アイン、どうかしたのか?」
「え?」
彼女が振り返り俺と目が合う。
ああ……間違い、ない……
「ヴィアナ……」
「ヴィアナ?ごめんなさい、人違いだと思うけど……」
「人、違い?」
やっぱりそうなのか、そんな俺の都合の良い事になるはずがないだろう。でも、その顔は、髪は、雰囲気は間違いなく──
「アルさん!」
ハッ、とする。
「戻ってきてください」
「あ、ああ。……ごめん」
小さく息を吐いて目を閉じる。2000年前だ。きっと気のせいだ。
ふと頬に誰かの手が触れ、目を開く。
「大丈夫?」
心配そうなその顔が、どこまでも彼女と同じだった。
「えっと、その……な、名前、名前を、教えてくれないか?」
「名前?うん、いいよ。私はエルナ。よろしくね、アイン」
「……うん」
頬に添えられた手に自分の手を重ねてそっと外すとフィリア達の方へと戻る。
「アインさん、大丈夫ですか?」
「……なんとか?」
「水持ってきましたけど、飲みますか?」
「助かる。ありがとう」
ミリアから水を受け取って一息に飲み干す。
「アイン」
「なんだ、魔王」
「その、だな。私はこういう時、なんて言えばいいか知らんが……元気を出せ。私とお前がいるのだ。もしかしたらそうかもしれないだろう」
「……まさかお前がそんな事言うなんてな」
「に、似合ってないのくらいはわかってるぞ!ただ、お前に元気がないのは、その……気に入らん!」
「そうか。……ありがとな」
「……ふん」
「あの人……」
さっきの彼──アインに目を向ける。入学してからそれ程時間が経っていないのに唐突にやってきた転入生。なぜかフィリア先生に好かれていて、自分の勇者とまで言わせた人。どこからやってきたのか分からず、共通言語が喋れず、フィリア先生の言う通りなら禁術を幾つも覚えている人。
「なんでだろう」
どうして私を前にした瞬間、泣きそうな顔をしていたの?
どうして昔から見る夢の中の男の子にそっくりなの?
あの人に泣いてほしくなくて、思わず彼に触れてしまった。
「なにか知っているの……?」
「これより近接戦闘測定を行う。全員集合」
「エルナ? 早く行こう?」
「あ……うん」
ぼうっとしていた私は、声を掛けられてようやく動き出した。