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1話:全ての始まり

 



 ガキの頃、女神様からのお告げだと言われ、史上初めての勇者に選ばれた。

 勇者っていうのは魔王を倒す為の存在らしい。

 そのせいで王城から騎士を1人送られてきて訓練させられる事になっしまった。辛い。

 13くらいだったかに旅に出た。正直やる気も起きず嫌々だったが、幼馴染の女の子に帰ってきたら結婚しようね、なんて言われたから少し照れていってきますと言った。

 最初は文字の読み書きや簡単な計算はわかっても、田舎から出たばっかの俺は何度も騙された。そのせいか、仲間を作るのが怖くなってしまい、1人で戦うようになった。

 それから女の子とは鳥を使って文通していたが、2年程して結婚する事になったと連絡が来た。相手は村長の息子らしい。

 嫌なやつだったが彼女が決めた事ならと諦め、祝いにと王様に頼んで先日倒した七大龍とかいうやつのうちの地龍ってドラゴンの頭を送ってもらった。角でも削って飲めば精力剤にでもなるんじゃないか?

 その次の手紙では俺のお陰で結婚の話は無くなったと書いてあった。どうやら無理矢理結婚させられそうだった所に地龍の頭が届いて怖気付いたらしい。俺が帰ってくるのを楽しみに待っていると書いてあった。

 エルフの集落へ魔法を学びに行った事もあった。剣じゃ倒すのに時間がかかるモンスターもいるから必死で覚えた。師匠のエルフが言うには頭は悪いが才能はあると褒めてもらえた。

 魔王城にももうすぐで着く。もうひと頑張りだ。



 故郷の君へ

 これが最後の手紙になる。

 俺はこれから魔王城へ突入する。必ず倒して帰ってくるから待っていてほしい。けれど、1年経っても帰らなければ迎えに来てくれると嬉しいな。

 再開するのを楽しみに待ってる。



 もっと書きたいことはあったが、それは会ってからにしよう。

 手紙を鳥の脚に括り付けて飛ばす。

 それじゃあ頑張るか。





 戦いは激しい物になった。魔王城の各所に穴が開き、魔物の死体が散乱している。

 その最上階で遂に魔王にトドメの一撃を与えた。


「……ここまでか」


 魔王は大の字に倒れて空を見上げる。


「死ぬまでまだ猶予がある。少し話そうではないか」


「ハァ……ハァ……あぁ、良いよ」


 生きているが息も絶え絶えな俺よりも死にそうな魔王の方がどこか余裕がありそうに喋る。


「貴様はなぜ勇者になって戦った?」


「あー、王国が勝手に決めた。本当は戦うのなんて嫌いだし、怖い。初めての戦いなんて泣きながら戦ってたし。戦うくらいなら村で幼馴染と2人で牧草で寝てたかったよ」


「なら辞退するなり逃げれば良かったではないか」


「……幼馴染が頑張ってって、どうせ逃げても捕まるし。それに、俺がやらなきゃ皆死ぬ。それなら俺がやるしかないだろ」


「ほお! 我々の間でも冷血と呼ばれた貴様がそのような事を言うとはな! 好いていたのか?」


「旅に出る前に結婚する約束をしてた」


「なるほど。つまり、私は人間の愛情に負けたという事か」


「いや、それはわからないけど」


 愉快そうに笑う魔王を横目に瓦礫に腰掛けて剣を地面に刺す。


「そろそろ時間か……」


 魔王の呼吸が浅くなる。


「最後に話したのが貴様で良かった。さらばだ」


 それだけ言って満足そうに笑って魔王は死んだ。


「……んだよ」


 魔王もいざ話してみると言葉は偉そうだが普通の女の子だった。正直、本当に戦いたかったのかと思った。

 少ししてくらりと視界が揺れる。

 ダメだ、眠い。1度寝よう。寝て起きたら帰って彼女に会いに行こう。

 瞼がゆっくりと落ちる。最後に頭に浮かんだのは旅に出る前に見た彼女の笑顔だった。









 彼から手紙が来た。遂に魔王城に突入するらしい。ということはもう既に魔王と戦っているのかもしれない。彼の無事を私は祈り続けた。





 魔王が倒されたという知らせが届いた。

 彼がやったんだ!

 自分の事のように喜んで色んな人に自慢した。帰ってきたら結婚するんだって、そう約束したんだって。

 でも、彼は中々帰って来なかった。

 1週間じゃまだかかると思った。1ヶ月で迷子になっているのかと思った。半年経っておっちょこちょいだなって自分を誤魔化した。

 そうして1年経って、彼の言っていた通り迎えに行くことにした。ただ、1人じゃ危ないから彼に剣を教えていた騎士のおじさんに着いてきてもらうことにした。





 手紙を頼りに彼の通っただろう道を辿る。

 色々な人に話を聞けば彼に助けられたという人がたくさんいたが、誰も彼が勇者だったとは知らなかったそうだ。

 3ヶ月もすれば魔王城に着いた。おじさんが周囲を警戒しながら進むが、城の残骸しか残っていなくて、魔物すら住み着いていないようだった。

 そうして最上階、彼と魔王が戦ったであろう場所に着いた。

 空から差す陽の光に照らされながら、彼は瓦礫に腰掛けて眠っていた。

 服はボロボロだが、不思議と体に傷は無く。触れると人肌の柔らかさと温かさを感じた。


「ねぇ、起きて?1年経っちゃったから迎えに来たよ」


 軽く揺さぶっても彼は返事を返さない。


「やっと会えたんだよ」


 抱き締めても抱き締め返してくれない。

 泣いてもいつもみたいに慌てて声を掛けてくれない。


「彼はもう……」


「やめてっ!」


 肩に触れたおじさんの手を振り払う。

 嘘だよ。絶対に死んでない。

 きっとまだ寝てるんだ。そうに違いない。

 そうだ、昔読んだ絵本じゃ寝ているお姫様に王子様がキスをすれば目を覚ますなんて事が書いてあった。

 そっと唇を合わせる。初めては彼が起きている時が良かったな、なんて頭の隅っこで思った。

 これできっと驚いて目を覚ましてくれるはず。


「……なんで?」


 どうして目を覚まさないの?


「お嬢さん」


 寝ているはずだよ。だってこんなに温かいんだよ。死んでなんてない。ありえない。


「おじさん、まだ寝てるみたいだから連れて帰ろ?」


「……ああ、そうだな」


「帰るまでに起きてないと、寝てる間に結婚しちゃうよ?」


 起きた時に彼はなんて思うかな。怒るか、驚くか、笑うかもしれない。


「あ、途中で小さな押し車を買っても良い?私が押してあげたいんだ」


「……わかった」


「おじさん、どうして泣いているの?」


「いや……目にゴミが入ってしまっただけだ。気にしなくて良い」


「そっか」


 おじさんが彼を背負って来た道を戻る。

 動かしても起きないなんて、相変わらず鈍いんだから。





 それから4ヶ月かけて村に帰った。

 道中で彼に助けてもらったというエルフに出会った。最初はにこやかに近寄ってきたが、押し車の彼をよく見ると激しく動揺して、おじさんと話したら泣き出してしまった。

 似たような事が何度かあって帰りが遅くなってしまった。

 普通に歩けば行きと同じ3ヶ月で帰れるはずだったけれど、慣れない押し車を押しながらだから少し時間がかかっちゃった。

 両親や彼の両親、村のみんなが出迎えてくれる。


「ただいま!」


「おかえり。よく戻ってきたね」


「うん。大変だったけど、楽しい旅だったよ」


「……そうかい」


 お父さんと少し話していると、彼の両親が彼を抱き締めていた。


「大きく、なったな」


「昔は細かったのに立派になったわねぇ……」


 それを見て、やっぱり迎えに行って良かったと思う。家族なんだから一緒にいたいよね。


「ねぇ、お父さん、お母さん。私ね、彼と結婚しようと思うの」


「それは……」


「……そう、わかったわ」


「いいのか!?」


「……この子が決めた事だもの」


「…………わかった」


 そうして私と彼は結婚して、夫婦になった。

 家族だけのこじんまりとした式を終え、2人の新居で一緒に生活を始めた。

 2人で同じ長椅子に座り、手を握って、ふとした時に唇を重ねる。

 2人分の食事を作り、一緒に食事をして、その日会った事を語る。

 夢見ていた貴方との結婚生活だもの。満足してるよ。満足してる……はずなのに。

 その生活を1週間続けて、また新しい朝が来て、隣で動かない貴方を見た瞬間にはもう耐えられなかった。

 貴方はもう喋らない、動かない、笑わない。

 すぐに虚しくなる事はわかってた。それでも、私は貴方との結婚生活を少しでもしてみたかった。

 こっそりと用意しておいた毒を飲み込んでまたベッドで貴方の横に転がると強く、もう離れないように強く抱き締める。

 願わくば、来世も貴方と一緒になれますように





 翌日、少女の両親が様子を見に来るとベッドの中では少女が幸せそうな顔で少年を抱きながら息絶えていた。

 村の住民は酷く悲しみ、丁重に弔うと村から離れた人があまり寄り付かない場所に墓を建てた。

 少年の師であった男は騎士を辞め、墓守となり、生涯をかけて墓を見守り続けた。

 勇者の死は瞬く間に各地の権力者に知らされた。

 しかし、彼らはこれを秘匿する事とし、最初の勇者は歴史から消される事となる。

 それから長い年月が過ぎた──





「……ここどこ?」


 なんか起きたら牢屋の中にいるんだけど





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