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王弟殿下から特別扱いされていた私、なぜか悪女と体が入れ代わる  作者: 江本マシメサ
第八章 踊れ、踊れ

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潜入

 長い廊下の着く先は行き止まりだったが、エリクル氏が手をかざすと魔法陣が浮かび上がる。

 こういうのは王族しか開けないのでは? と疑問だったが、この仕組みを作ったのはエリクル氏だったらしい。そんなわけで、難なく開くことができたのである。


 そこは霊廟みたいな石造りの空間で、床には大きな魔法陣が描かれていた。

 ここは有事の際に王族が逃げ込み、郊外にあるエルク殿下のお屋敷に逃げるための転移陣なのだ。


「これを」


 エリクル氏が私達に手渡したのは、香炉こうろと呼ばれる異国の舶来品だという。


「姿消しの香だ。これを纏うと周囲の者には見えなくなるゆえ」


 足音や匂いさえも消してくれる特別製だとか。


「ただ気配だけは消えないから、気をつけるように」


 そんなことを言われても、気配を消すなんて芸当はできないのだが……。そんな心配をしていたら、ギルベルトが大丈夫だと言ってくれた。


「それからこれも」


 シュガーポットに入っていたのは飴だった。なんでもこれは夜目が利くようになる魔法がかかっているという。

 エルク殿下のお屋敷の使用人に見つからないためには、灯りさえも点さないほうがいい。ありがたい心遣いである。

 飴を食べると、信じられないくらい視界がクリアになった。


「そろそろか」


 そう言ってエリクル氏は転移魔法を展開させる。

 私達の体は光に包まれ、あっという間に景色が変わった。


 下り立ったのは地下部屋の一角らしい。お屋敷の地下空間に詳しいテアが説明してくれる。


「地下には施錠されている部屋がいくつかあって、ここはその一つでしょう」


 強固な結界が張られているようで、逃げ込んでも安全が確保できるようになっているようだ。

 鍵は内側から開くことができた。なるべく音が鳴らないよう慎重に解錠させる。

 それでもカチャン、と音が鳴ってしまった。

 地下は静寂に包まれている――と思いきや、何か生臭なまぐさにおいと激しい息づかいが聞こえてきた。


「なんだよ! 最悪じゃないか!」


 ギルベルトはそう言って剣を抜いた。遠くから足音が聞こえる。

 人間のものではない。軽やかで俊敏な――魔物!?


『グルルルルルルル!!!!』


 ウォーグ・ウルフ! 狼系の魔物だ。

 どうしてこんなところに? 人が住む屋敷に魔物が潜伏しているなんてありえないのに。

 私達の姿や匂いは消しているのに、気配だけでこのように襲ってきているのだろう。


「くそ! 五頭もいる! ご近所さんお誘い合わせでやってきたのかよ!」


 こんな差し迫った状況なのに、面白いことを言うのは止めてほしい。

 ギルベルトは剣を揮い、ヴォーグ・ウルフの首をねる。


「下がってろ――いや、待て!」

「なっ――!?」 


 前方からでなく、背後からもヴォーグ・ウルフがやってきたのだ。

 テアを抱きしめ、その場にしゃがみ込む。

 そんな中で、アンゼルムが姿を現した。


『あたしに任せてちょうだい!』

「アン!」


 アンゼルムは身をかがめ、襲いくるヴォーグ・ウルフに飛びかかる。

 鋭い爪で額を一閃。ヴォーグ・ウルフは『ギャウン!』と悲鳴のような鳴き声を上げて倒れる。アンゼルムは続々とヴォーグ・ウルフを倒していった。

 テアがガタガタと震えていた。そんな彼女に耳打ちする。


「大丈夫、テア、あの大きな猫ちゃんは味方だから」

「はい……。何度か、お屋敷で姿を見たことがあります」

「あ、そうだったんだ」


 アンゼルムのへそを上に向けて寝る姿だったり、丸くなっている姿だったり、姿消しを忘れて気の抜けた瞬間をテアに見られていたようだ。

 もしかしたら今日みたいな日を想定して、わざとテアに姿を見せていた可能性もあるが。


 あっという間にギルベルトとアンゼルムはヴォーグ・ウルフを倒してしまった。

 戦闘後、アンゼルムは浄化魔法を展開させ、返り血などをきれいにする。


「おい、俺にも浄化魔法をしてくれ」

『あら、返り血がお似合いなのに』

「ふざけるなよ。不快でたまらないんだ」

『わかったわ』


 同じく血まみれだったギルベルトも浄化魔法を施してもらい、きれいな体となった。


「それにしてもあの野郎、こんな魔物を配置しておくなんて」

「私達が潜入することはお見通しだったのかな」

「おそらくな!」


 それからというもの、次々と魔物の襲撃を受ける。


「どうしてあいつは、こんなに魔物を所有していたんだよ!」

『倒さずに、捕まえていたのね』

「くそ野郎が!」


 やっとのことで地下冷凍庫に到着した。今日も施錠はされていない。


『まるで歓迎してくれているみたいね』

「不気味だな」

「ギルベルト、早く回収して帰りましょう」

「ああ、そうだな」


 帰りはまた転移の魔法陣がある部屋まで戻らないといけないのだ。お喋りしている暇はない。


 中に入ると家畜の肉がぶら下がっていて、ゾクッと鳥肌が立つくらい不気味に思ってしまった。


「あちらの箱です」


 テアが指差したほうには、棺のような大きな長方形の木箱が置かれていた。

 ギルベルトは容赦なく蓋を開く。


「――なっ!?」

『これは』


 そこに納められていたのは、婚礼衣装のドレスをまとった白骨死体だった。

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