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王弟殿下から特別扱いされていた私、なぜか悪女と体が入れ代わる  作者: 江本マシメサ
第八章 踊れ、踊れ

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報告会

 夕方、ギルベルトがげっそりした顔で戻ってくる。

 どうしたのかと聞けば、結局娼館の会員になっている人を見つけられず、奥の手を使ったらしい。


「これだけはしたくなかったんだが」

「何を使ったの?」


 ギルベルトは明後日の方向を向きつつ、懐から筒状の羊皮紙を取りだした。

 銀の指輪を外して中を見ると、そこにはギルベルトの名前で娼館の会員になった、と書かれてある。


「ただでさえ俺の評判が悪いってのに、娼館でサイゼル夫人を落札したという噂までつきまとうのは――って思ったけれど、お前のためだからまあいいや、って」

「ギルベルト、ありがとう」


 申し訳ない気持ちになる。そこまでしなくてもいい、と言いたかったが、事件解決のためにはギルベルトの協力がどうしても必要だった。


「その、私に何かできるお礼、みたいなものってあるかな?」


 肩たたきでも、お菓子作りでも、朝まで寝かしつけでも、なんでもできるからと訴える。


「なんでもとか言うんじゃない。自分を安売りするな」

「うん……。でも、なんでもいいから、恩に報いたいの」

「恩とか重たく受け止めるなよ。これは俺がしたいことだったんだ」

「ギルベルト」


 胸がじんと切なくなる。私は彼の行いに返せるものなんてないのに……。


「あ、したいことって、別に娼館通いじゃないからな!!」


 必死に訴え始めたので、目が点となる。

 どうやらギルベルトが娼館通いをしたかったと勘違いしたと思ったらしい。


「娼館通いがしたいだなんて、思うわけないでしょう」

「でも、お前が悲しそうな顔をしたから」

「勘違いなんてしていないから、安心して」


 悲しい顔をしていたのは、こうしてあと何回、ギルベルトと会話ができるのだろうか、と思ったからだ。


「あ、そうだ。思いついた。今晩、俺が娼館に行っている間に、何か作品を書いてくれないか? 短編とは言わない。もっと短い、詩みたいなものがいい」

「そんなのでいいの?」

「そんなのとか言うなよ。お前の書く文章は新聞にも掲載されて、好評を博したんだろう?」


 そうなのだ。先日、私の作品が掲載された新聞はいくつかの出版社から問い合わせがあったらしい。新聞の購買者から感想の手紙も数通届いたようで、マッチュさんが精査、確認したのちに、私へ渡してくれるようだ。


「とにかく、お礼はお前の作品! わかったか?」

「はい」

「楽しみにしているから」


 私に背中を向けてそんなことを言ってくれる。

 そういうことは顔を見て伝えてほしい、と心の奥底から思ってしまった。


「そういや今日、ハイエルフの宰相のところに行ったんだろう? 何かわかったのか?」

「あ~~~~、それなんだけれど、よくわからないって」


 エリクル氏との面会を通して、いろいろなことが明らかとなった。

 けれども魂の入れ替わりがツィツェリエル嬢の犠牲魔法によってもたらされたことや、もうすぐツィツェリエル嬢の体と私の魂に限界がきていることなど、ギルベルトには伝えないでおこうと決めていたのだ。

 彼が知っても打つ手などなく、逆に彼が何か思って犠牲魔法でも使われてしまってはたまったものではない。

 これ以上、ギルベルトの心の負担を増やしたくなかったのだ。

 エリクル氏には今回のことは誰にも言わないでくれ、とお願いしている。

 承諾してくれたので、エリクル氏の口から真実が語られることなどないだろう。


「宰相に相談したら、魔法のこととかわかると思ったんだけどな。何百年と生きているわりには、たいしたことないな」


 心の中でエリクル氏に盛大に謝罪する。ギルベルトが生意気な口を利いてしまい、本当に申し訳ありませんでした、と。

 エリクル氏は偉大な魔法使いなのに、私が情報を隠したばかりにこんなふうに言われてしまうなんて。

 どうかギルベルトとエリクル氏が顔を合わせる機会などがありませんように、と願ってしまった。


「じゃあ、娼館の競売に行ってくるから」

「ええ」


 つい、出かける彼の手を握ってしまう。


「なんだ?」

「ねえ、行ってらっしゃいのキスをしてもいい?」

「は!?」


 それは両親が毎日していたことで、子どものときから結婚したら私もするんだ、と心に決めていたのを、急に思い出したのだ。

 ルネ村で行ってらっしゃいのキスは、無事帰ってきますように、という願いを込めたおまじないである。

 だんだん恥ずかしくなったので、早口でギルベルトに説明した。


「嫌だったらいいけれど」

「嫌じゃない」


 ギルベルトはそう言って屈んで、私がキスをしやすいようにしてくれた。


「時間がないから、早くしろ」

「わかった!」


 時間がないと聞いて慌てて勢いのままにキスをしたら、軽く触れるだけの予定が、おもいっきり唇を押し当ててしまった。

 ギルベルトはカッと目を見開く。


「あ、ごめんなさい!!」


 服の袖で拭おうとしたのに、ギルベルトは素早く上体を起こし、足早に去って行く。

 そのままバルコニーから飛び降り、出かけてしまった。

 慌てて後を追って「行ってらっしゃい!」と言うと、ギルベルトは「行ってくる!!」と大声で返してくれた。

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