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王弟殿下から特別扱いされていた私、なぜか悪女と体が入れ代わる  作者: 江本マシメサ
第一章 悪女と平凡女の入れ替わり!?

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体調不良の原因

 精霊との契約関係というのはなんとも不思議だ。

 体がぽかぽかして、心が満たされるような高揚感を覚える。


『精霊と契約した気分はいかがかしら?』

「ふわふわしていて、今にも空が飛べそう」

『ふふ、飛べるわよ。あなたが望めば』

「いえ、その、今は大丈夫」


 空を飛ぶというのはどんなことなのか気になるものの、今は体調がよろしくない。


「というか、ツィツェリエル嬢の体はどうなっているのか」


 相変わらず息苦しさはあるし、体の倦怠感もとんでもない。


『辛いの?』

「ええ。一年分の体調不良がいっきに襲いかかってきた感じ』

『あなた、健康優良児だったのね』


 そうなのだ。これまで風邪を引くのは年に一度あるかないか程度で、大きな病気など一度もした覚えがない。

 月のものだってそれなりにきつかったが、寝込むほどのものではなかった。


『あの子、よく寝ていたんだけれど、体の調子がよくなかったからなのね……』


 夜間に出かけることが多かったので、朝から夕方にかけて眠っていても不思議に思わなかったらしい。


『てっきり昼夜が逆転しているものだとばかり』


 食が細いから体が弱いのか、それとも体が弱いから食が細いのか。その辺はアンゼルムにもわからないという。


『おそらく原因の一つは魔力過多状態だからかと』

「魔力過多?」

『そう。この子の特技はボースハイトを一度体内に取り込んで魔力に変換させるものなんだけれど、もともと悪いものを大量に体にため込んでいるから、常に調子がよくないのかもしれないわ』

「あ――魔力!」


 意識してみると、たしかに私が所持していたよりもずっと多い魔力量を体内に抱えている。

 魔力というのは巨大魔石と言われている月から地上へもたらされるもので、生きとし生けるものの生命の源とも言われている。

 魔力がなければ生きることができない。

 しかしながら魔力が多すぎても苦痛を伴い、生命の維持が難しくなるのだ。


『魔物喰いは禁忌だって昔から言うでしょう? あれは魔物肉に大量の魔力があって、食べたら魔力過多状態になるからなのよ』

「な、なるほど」


 ボースハイトを集めて回っていたツィツェリエル嬢だったが、貯めることができる宝石は純度の高いものしか受け入れず、それ以外のものは体内にどんどん蓄積されていたらしい。


「体調不良の原因はそれだ!」


 ツィツェリエル嬢は自分の体調について深く語らなかったため、アンゼルムもよく把握できていなかったようだ。


「とにかく魔力を発散させないと」

『発散って、その魔力量を解放するには、王都全体を爆破させるくらいの大魔法を使わないと無理よ』

「大丈夫!」


 私はしゃがみ込み、アンゼルムの太い前足に触れた。


「アン、この傷跡を治してもいい?」

『え、これ? 無理よ。邪竜と戦ったときに負った傷なの。まあ傷というか、呪いみたいなものね。大神官でさえ治せないのよ』

「そうなの? 一回試してもいい?」

『え、ええ、どうぞ』


 ツィツェリエル嬢の体でエナジー・ヒールが使えるかわからないが、試してみよう。

 呪文を唱えたのちに、術式を展開させる。


「傷つきし存在の痛手を癒やし賜え――エナジー・ヒール!」


 魔法陣が浮かび上がり、アンゼルムの前足は光に包まれる。


『え、嘘!』


 光が収まると、アンゼルムの前足に走る大きな傷跡はきれいさっぱりなくなっていた。


『治ったわ!』


 アンゼルムは完治を確かめるように、その場でジャンプしたりくるくる回ったりしている。


『奇跡、奇跡よ』


 邪竜の傷だからか、いつものエナジー・ヒールよりも大量に魔力を消費した。

 けれども魔力が欠乏しているわけもなく、むしろ先ほどより体の調子がいいくらいだ。


『さっきの魔法、普通の回復魔法ではないわよね?』

「ええ、エナジー・ヒールというの」

『何それ!?』

「自身の魔力を消費して使う、うちの領地に伝わる特異魔法みたい」

『そんなものがカステル家に伝わっているの?』

「ええ。カステル家だけでなく、ルネ村の領民達も使えるの」


 アンゼルムはあんぐりと口を開け、驚いた様子でいた。

 通常の回復魔法は神々に祈りを捧げて起こす奇跡の力だ。魔力の消費はない。そのため不思議がっているのだろう。


『まるで聖女じゃない、って言おうとしたのに』

「みんな使えるの。聖女なんかじゃないから」


 貧しいルネ村の助け合い精神から生まれた魔法だと説明すると、さらにびっくりしていた。


『こんな魔法があったなんて』

「そんなに珍しいんだ」

『珍しいどころではないわ。奇跡よ』


 邪竜の傷すら癒やす、というのは伝説の聖女レベルの力だという。


『ねえ、この力について、家族や領民以外に話していないでしょうね?』

「ええ、もちろん」


 魔力と引き換えに使う魔法というのは危険なものだ、というのは幼少期から嫌というほど聞かされている。

 人助けをする最終手段でもあるので、それを他人から頼られたら困る。場合によっては魔力を消費しすぎて、術者の生命が危険な状態になるからだ。


『ここでも、あたし以外誰にも言ったらだめよ!』


 アンゼルムは約束! と言って大きな手を差し出してくれる。私はその手を両手で包み込むように握り、頷いたのだった。


 魔力を消費したら体が驚くほど軽くなった。

 けれども体の重怠おもだるさは相変わらず。

 これはゆっくり休んで回復させるしかないのだろう。


「少し眠るから」

『そのほうがいいわ。じっくり夕方まで休んだら、少しは体の調子もよくなるだろうから』


 まずは化粧を落とさないといけないだろう。


「ツィツェリエル嬢のお化粧、一晩経っても崩れていないけれど、どんなお化粧品を使ってるのやら」

『それ、魔法よ。あたしが教えてあげたの』

「魔法なんだ!」


 なんでも傍にメイドや侍女を置きたがらないツィツェリエル嬢は、化粧も自分でなんとかしようとしていた。


『その化粧が死ぬほど酷くて、あまりにも醜くかったから、このあたしが化粧を教えてあげたのよ』


 洗面所に化粧魔法の術式があるらしい。呪文を唱えるだけで、化粧が施されるようだ。


『魔法を解除するときは、魔法陣に触れるだけでいいの』

「便利~~~~!」


 昨日、私は三時間ほど顔面と格闘し、なんとか化粧を完成させた。それが一瞬で済むなんて、夢のような話である。

 アンゼルムの案内で洗面所に向かうと、魔法陣は鏡に書かれていた。

 そっと触れると、ツィツェリエル嬢の顔面が光り輝く。

 すっぴんもきれいなんだろうな、なんて思いながら鏡を覗き込む。

 けれどもそこに映っていたのは、そばかすが散って濃い隈が浮き出た、なんとも地味な女性だった。


「え――!?」


 一瞬、ツィツェリエル嬢以外の誰かが鏡に映っているのでは、と思った。

 特徴的な赤い瞳はご健在。

 頬に触れると、鏡に映る女性も同じように動く。間違いない、ツィツェリエル嬢本人だ。

 なんと、驚いたことにツィツェリエル嬢は化粧前と化粧後のお顔がまったくの別人だった。

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