迎えた朝
朝――すっきりと目覚める。
昨日は眠れない夜だった気がしたが、そんなのなんのその、快眠だったようだ。
もぞり、と隣から物音が聞こえる。アンゼルムか、それともハティか。
アンゼルムはいつも私の足下で眠っているのに、朝目覚めるとすぐ傍で丸くなって寝ているのである。それがかわいいのなんのって。
その様子を見ようと寝返りを打ったら、すぐ目の前にギルベルトがいたのでギョッとする。
昨晩の着の身着のままの格好で、スヤスヤと眠っているではないか!
「――!!」
なんでここに!? と叫びそうになったものの、気持ちよさそうに眠っていたのでぐっと我慢する。
いやいや、彼がいるなんてありえない!!
我に返って周囲を確認すると、寝台がいつもより大きいことに気付く。いつものお姫様みたいな天幕はないし、アンゼルムやハティの姿もなかった。
カーテンはいつもテアが閉めてくれるのに、今日は開きっぱなし。太陽の光がさんさんと差し込んでいる。
ここは私の部屋ではなく、ギルベルトの寝室だということに気付いた。
昨日、いったい何が起こったのか、冷静になって振り返ってみる。
夜、ギルベルトとケンカをして、謝りにやってきた。そのあといろいろあって深い会話をし、最後に私は頭が痛くなって気を失って――!?
ギルベルトは私を自分の寝室に寝かせてくれたのだろう。
起き上がり、どうしようかと右往左往していたら、扉が叩かれる。
「ギルベルト様、朝です」
部屋付きの上級従僕がやってきたのだろう。
ギルベルトを振り返るも、起きる気配はない。
ぽんぽん叩いても、揺さぶっても、ブランケットを取り上げても反応はなかった。
こうなったら従僕がいるだけでも寝台の下に隠れよう。
そう思った瞬間、ギルベルトが私の腕をむんずと掴む。そして有無を言わせず傍に引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。
「――っ!!」
ブランケットを取り上げたので、私で暖を採っているのだろうか。
こんなに密着したことなどないので、混乱状態に陥ってしまう。
「ギルベルト様、入りますよ」
「ま、待って!!」
最悪のタイミングで上級従僕が入ってきてしまった。
寝台で密着する私達を見て、絶句する。
けれどもそれは一瞬のことで、「すみませんでした!!」と叫んでいなくなる。
「ああ、待って、違うの!!」
ギルベルトから逃れて追いかけたかったのに、拘束力が思いのほか強くて身動きが取れなかった。
ばたん! と扉が閉ざされた音を聞いて、ギルベルトは眉間に皺を寄せて文句を言う。
「……うるさいな」
「あなたが起きないからそうなったの~~~~~!!」
思いっきり叫ぶと、ギルベルトの瞼がうっすら開く。
「は?」
「離して!」
ギルベルトは目を凝らして私を見たあと、ギョッとする。
「うわ!」
ギルベルトは猫のようなしなやかな身のこなしで私から離れていく。
まるで私が何かしたかのような反応であった。
さっきまでの状況について、正しい情報を伝えておく。
「従僕がやってきたからあなたを起こそうと思ったんだけれど、ブランケットを取り上げたら寒くなったからか、私を傍に引き寄せたみたい」
「そ、そうだったのか」
ギルベルトは消え入りそうな声で「すまなかった」と謝罪する。
私のせいにしたら怒るつもりだったのに、素直に謝ってくれた。仕方がないので許してあげることにした。
「昨日、私が意識を失ったあと、ここに寝かせてくれたんだね」
「あー、まあ、そうだな」
なんでもギルベルトは私の部屋に戻そうとしていたらしい。けれどもタイミングを同じくしてヴェイマル侯爵が帰ってきたようで、身動きが取れなくなったようだ。
「それから親父が食事をするとかで、使用人がバタバタ廊下を走り回ったから、連れていけなくって」
このまま放置しておくのもなんだと思い、私をギルベルトの寝台に寝かせたという。
「そのあと苦しそうだったから、いつもお前がしてくれたみたいにぽんぽんしていたら、俺まで眠ってしまったようで」
どうやらギルベルトは私が安眠できるよう、寝かしつけみたいなことをしてくれたようだ。そして寝かしつけあるあるというか、ギルベルトまで眠ってしまったという。
「ありがとう。おかげさまでゆっくり眠れた」
「俺もだ」
昨晩は朝まで眠れないのでは、と思っていたのだ。
「こんなふうに一緒に眠るつもりはなかったのに、すまなかった」
「いや、まあ、仕方がないというか、なんというか」
上級従僕に見られてしまったことを報告すると、口止めしてくれるという。
「そもそもお前より早く起きるつもりつーか、昨晩は眠れる予定じゃなかったんだよ」
がっくりとうな垂れる。なんでも朝の小汚い状態を見られたくなかったらしい。
「小汚い? どこが?」
寝顔からきれいだったが、どこをどう見れば小汚いと自称できるのか。
「朝だから髭とか、まあ、いろいろだ!」
髭なんて生えていないように見えるが、銀髪なので目立たないのだろう。
今、私にできることといえば、いろいろあるようなので、一刻も早く部屋に戻ることだろう。
そそくさと退室しようとしたら、ガウンが手渡される。
「おい、そんな薄い格好で屋敷の中を歩き回るなよ」
「うん、ありがとう」
ガウンはギルベルトの寸法に合わせて仕立てたものなのでかなり大きい。けれども寝間着姿を他人に見られるわけにはいかないので、ありがたく着させていただこう。
「またあとで」
「ああ」
寝室から出ると、そこには先ほどの上級従僕が待っていた。
「あ――」
「ごめんなさい。ギルベルト、起きたみたい」
「ありがとうございます」
申し訳なさそうにぺこぺこ会釈し、寝室に入っていった。
私は他の使用人と顔を合わせる前に、急いで部屋に戻ったのだった。




