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王弟殿下から特別扱いされていた私、なぜか悪女と体が入れ代わる  作者: 江本マシメサ
六章 誰が犯人なのか!?

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帰宅

 無事、ヴェイマル家の私室に到着したのがわかると、膝から崩れ落ちた。


『ちょっとルル、大丈夫なの!?』

「う、うーーん」


 あまり大丈夫ではないのかもしれない。

 立ち上がれないでいたら、アンゼルムが優しく背中をぽんぽん叩いてくれた。


『さあ、お水を飲んで』

「ありがとう」


 勧められて喉がカラカラだったことを思い出した。水をごくごく飲み、アンゼルムから優しく声をかけられているうちに、落ち着きを取り戻す。


「あ~~~~、なんとかやりきった!」

『見事な立ち回りだったわ』

「私、上手くできていた?」

『もちろん。あれは本当のツィツェリエル嬢だったわ』


 アンゼルムの言葉を聞いてホッと胸をなで下ろす。

 自分では上手くできているつもりでも、実際は台詞を噛み噛みだったのではないか、と不安だったのだ。


「ギルベルトは大丈夫かな?」


 今頃幻術の私を連れて帰ってきているはずだ。現在、魔力糸の繋がりは切れているので、向こうがどんな状態なのかわからないのだ。


『あの子は心配ないわ。ああ見えて、ヴェイマル侯爵家の跡取りだから、あの場を上手く脱出する術は知っているはずよ』


 きっとテア達のことも連れてきてくれるだろう。そうアンゼルムは言ってくれる。


「テア達、思っていた以上に酷い状況だった……」


 もしかしたら盗難事件の罪のすべてを、テア達に押しつけるつもりだったのかもしれない。


「あの子達だけはエルク殿下を心から慕って、日々働いていたのに」

『本当、えげつない状況だったわねえ』


 テア達の何もかも諦めたような表情を思い出すと、胸がぎゅっと苦しくなる。

 作戦実行前に、ギルベルトは約束してくれた。必ずテア達を連れて帰ってくる、と。

 今はギルベルトを信じて待つしかない。

 ツィツェリエル嬢の派手なドレスを脱いで、化粧魔法も元に戻す。見慣れた私の顔が鏡に映ったので安堵できた。

 ギルベルトやテア達はお腹を空かせているかもしれない。

 そう思ってドロップスコーンを焼いてみた。

 ドロップスコーンというのはパンケーキみたいな、クラペットみたいな、王道のスコーンとは異なる食べ物で、生地にふくらし粉を入れて作るのが特徴である。

 深型のお皿に小麦粉とふくらし粉、砂糖、塩をふるい入れてよく混ぜる。卵と牛乳、溶かしバターを加えて攪拌し、少し生地を休ませたら焼いていくのだ。

 小さめに焼いて、お皿に重ねた状態で置くのが定番である。

 トッピングは先日アンゼルムと作った薔薇のジャムに、蜂蜜、カリカリベーコン、ソーセージにバターなどなど、好きなものと一緒に食べてもらおう。

 そうこうしているうちに、ギルベルトが帰ったとメイドが知らせてくれた。

 すぐさま私は全力疾走で玄関に向かう。

 ギルベルトと一緒に、テアとチェルシー、クララにアビーがいた。


「み、みんな~~~!」


 涙を浮かべる彼女達を抱きしめる。辛かったのだろう。皆、声をあげて泣き出した。


「もう大丈夫だから!」


 私も一緒になって泣いてしまった。

 その後、瞼を腫らした私達は一緒にドロップスコーンをいただく。

 ギルベルトがいると萎縮すると思って、彼は別室で食べてもらうことにした。

 お腹いっぱいドロップスコーンを食べて、温かい紅茶を飲んで、しばし静かな時間を過ごす。

 ようやく彼女達は落ち着いたようで、ぽつりぽつりと話し始めた。


「ルル様、本当にありがとうございました」

「私達、突然呼びだされて」

「手を縛られて」

「罪人みたいに連行されたんです」


 保身のために彼女達に罪をなすりつけるなんて、許せるものではない。

 火山が爆発するような憤怒を覚えるも、きちんと仕返しはしてきたのだ。落ち着け、落ち着けと怒りをなんとか鎮める。


「ツィツェリエル様までいらっしゃるなんて」

「驚きました」

「救世主かと」

「敵に回したら恐ろしいのに、味方になったら頼もしかったです」


 ツィツェリエル嬢の存在が彼女達を怖がらせることなどなく、逆に安心できたと聞いてよかったと思う。


「盗難については、みんなやっているんだって、薄々気付いていました」

「食料とか、備品とか、よくなくなっていて」

「一つくらい盗んでもバレやしないって、悪びれもなくする人もいて、びっくりしたことも一回や二回どころではなく」

「誘われたこともあったけれど、盗みはよくないって思って、断っていたら顰蹙ひんしゅくを買ってしまい……」


 大変な状況の中、彼女達は健気に働いていたようだ。

 あのあとギルベルトは上手く立ち回っていたようで、テア達には荷造りをするように言い、エルク殿下にも退職金をたんまり用意するように言ったという。

 今回の騒動について口外しない代わりに、かなりの大金を渡すよう交渉を持ちかけたようだ。


「退職金、給金三年分もいただいて」


 なかなかやるなギルベルト、と心の中で思ったのだった。

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