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名探偵ギルベルト

「ここにはバカしかいないのか?」

「ヴェイマル侯子、そのような発言は控えていただきたい!」

「だって茶番じゃないか」


 ギルベルトは前に立ちはだかるエルク殿下を手で避け、ミセス・ケーラーのほうへずんずんと接近する。

 ミセス・ケーラーは強面のギルベルトが恐ろしいからか、二、三歩後ずさっていた。


「おいお前、それ以上動くな」

「な、なんの権限があって――」

「まず、確認させてもらう。その宝飾品を銀盆に載せたのは誰だ?」

「発見したメイド達です」

「お前はいっさい触れていないんだな?」

「あ、当たり前よ!」

「わかった。そのメイドをここに連れてこい」

「なっ、どうしてあなたの言うことを聞く必要が」

「ミセス・ケーラー、ヴェイマル侯子の言う通りにしてください」


 エルク殿下がそう言うと、ミセス・ケーラーは傍にいたメイドに命じる。

 五分後、テアの部屋から宝飾品を発見したというメイドがやってきた。

 ふと、メイドの顔に見覚えがあることに気付く。彼女はたしか以前、第二休憩室で私に絡んできた気が強そうなメイドだ。そういえば彼女はミセス・ケーラーの右腕と名高く、次代の家政婦長候補だ、なんて話を聞いていた。

 目が合うと、じろりと睨まれる。そういえば恨みを買うようなことをしていたな、と当時の騒動を遠い日のように思い出してしまった。

 それにしても、テアの部屋から宝飾品を発見したメイドを連れてきて、ギルベルトは何をするつもりなのか。


「今から犯人を明らかにさせようか」


 ギルベルトは腕組みし、瞳をきらんと輝かせる。

 そして、決め台詞を口にした。


「犯人はこの中にいる!!」


 おお! と手を叩きたくなったが、空気を読んで我慢した。

 それよりもギルベルトはようやく名探偵らしいことをするようだ。

 話を聞く中で、何か気付きでもあったのか。ドキドキしながら話に耳を傾ける。


「ヴェイマル侯子、どうやって犯人であると証明するのですか?」


 エルク殿下の疑問に、ギルベルトは簡潔に答えた。


「俺は物に残った魔力を見ることができるんだ」


 それを聞いて「あ!!」と声をあげそうになる。そういえばそうだった。

 ギルベルトは残留した魔力痕を調べる能力があった。

 推理をしたのでもなんでもない。彼は独自の能力で犯人を調査できるのだ。


「誰もそこから動くなよ。つーか、動けないか!」


 ギルベルトは楽しげに言い、拳を突き上げる。

 かと思えば、集まった人々の魔力糸をまとめて握っていたのだ。


「なっ、動けない!?」

「なんなのだ、この糸は?」

「魔力糸だ。それぞれに色があって、触れた物に痕が残るんだ」


 話を聞いていたテア達はキョトンとしていたが、ミセス・ケーラーだけは顔面蒼白となる。


「全員、目を最大限に開いて見てろ。この盗品に犯人の魔力痕がべったりついている筈だから」


 ギルベルトはミセス・ケーラーが持つ銀盆のほうへ手をかざす。

 すると、鈍色の魔力痕が浮かび上がる。私ともう一人、ツィツェリエル嬢と思われる魔力痕もあったが、それよりも鈍色の主張が激しかった。

 ギルベルトはニイ、と笑い、ミセス・ケーラーから銀盆を取り上げる。

 ミセス・ケーラーは抵抗せずにぶるぶると震えていた。


「この鈍色の魔力痕が犯人だな」


 ギルベルトは手の中にあった魔力糸から、鈍色に輝くものを手に取る。


「さて、犯人は誰か――」


 ギルベルトが鈍色の魔力糸を力いっぱい引っ張ると、ミセス・ケーラーが前に躍り出る。勢いのまま転倒してしまった。

 鈍色の魔力糸はミセス・ケーラーと繋がっており、ハートのチョーカーとエメラルドの耳飾り、首飾りに同色の魔力痕がべったり付着している。


「こっちが犯人の疑いがあったメイド達の魔力糸か」


 テアは水色、チェルシーは赤、クララは薄紫、アビーは黄緑の魔力糸を持っていた。

 当然ながら、これらの色の魔力痕は宝飾品に付着していない。


「こいつらは犯人じゃないみたいだな」


 ギルベルトはナイフを取りだし、縄を切ってやる。

 すると彼女達はワッ! と声をあげて泣き出した。四人で抱き合う様子を見ていたら、胸が締め付けられる。


「さて、と。エルク殿下、犯人は自慢の使用人だったようだが、どう落とし前をつけるんだ?」


 エルク殿下は拳をぎゅっと握り、悲痛な表情でミセス・ケーラーを見つめる。


「ミセス・ケーラー、あなただったのですね」

「ち、違うんです! 私はルルさんに、宝飾品の管理を任されていて!」

「これを前にしても、同じことを言えるのか?」


 ギルベルトは懐に入れていた書類を、ミセス・ケーラーの前に振らせる。

 エルク殿下がしゃがみ込んで確認した。


「これは――質屋の個人情報!?」

「そうだ」


 ミセス・ケーラーは何度も王都にある質屋に通い、屋敷から盗み出したものをお金に換えていたらしい。


「絹の手袋、金の万年筆、懐中時計、銀のラペルピン――ああ、すべて紛失したと思っていた品物です。しかし、どうしてこの情報を?」

「この質屋、ヴェイマル家が経営する店なんだよ」


 王都一の高価買い取りで有名な質屋だが、買い取るには身分証が必要になる。


「バカだったな。身分証が必要な店で盗品を売るなんて。少しでも高く売ろうと思って、うちの店を選んだんだろうが」

「――っ!!」


 ここで罪を認めると思いきや、ミセス・ケーラーはとんでもないことを叫んだ。


「先にハートのチョーカーを盗んだのは、ルルさんなんです!!」


 あれはツィツェリエル嬢の私物だ、はっきり記憶していると訴える。


「私はツィツェリエル嬢に返そうとして、持ち出しただけなんです! エルク殿下、信じてください!」

「エメラルドのほうは? あれはルル嬢に贈った品ですよ」

「あ、あれは――て、手入れをしようかと思って、持ち出したんです!」


 エルク殿下は私のほうを見て問いかける。


「ルル嬢、本当なのですか?」

「いいえ、頼んでいません。それどころか、ハートのチョーカーを金庫に保管していること自体、誰にも言ってなかったので、最初からわかっているような発言に驚いたくらいで」

「う、裏切り者!!」


 ミセス・ケーラーは私を責めるように叫んだが、そもそも私は仲間ではない。

 追い詰められたミセス・ケーラーは、エルク殿下に助けを求める。


「信じて、ください」


 エルク殿下は首を横に振る。こういう状況になれば、誰も信じてくれないだろう。

 これで解決! と思いきや、ギルベルトは私に問いかけてくる。


「おい、ハートのチョーカーとやらは、どうしてお前が持っていたんだ?」


 今回の盗難事件については無事、解決した。

 けれどもツィツェリエル嬢の私物であるハートのチョーカーを私が持ち出していた件に関しては、何も解決していない。

 エルク殿下は顔色を悪くしながら、私に問いかけてくる。


「ルル嬢、ハートのチョーカーについて、教えていただけますか?」

「そ、それは――」 

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