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王弟殿下から特別扱いされていた私、なぜか悪女と体が入れ代わる  作者: 江本マシメサ
六章 誰が犯人なのか!?

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久しぶりのお屋敷

 途中、エルク殿下のお屋敷行きの馬車に乗り換える。

 大貴族ヴェイマル家であれど、エルク殿下のお屋敷の場所は教えられないようだ。

 姿を隠した状態で同行するアンゼルムは、私のあとをぴったりくっついて乗車する。

 御者がすぐに扉を閉めたので、『せっかちねえ』と呆れた様子を見せていた。

 車内は薄暗い。窓が分厚いカーテンで遮られているからだろう。

 しかもこのカーテン、開かないようにピンで固定されている。お屋敷の場所がバレないようにする対策は完璧というわけである。

 さすがにヴェイマル家の侯子が相手だからか、目隠しをするようにとは言われなかった。

 それでもギルベルトはご立腹だったのである。


「馬車を乗り換えないといけないとか、いちいちめんどくさいな!」

「まあまあ、そんなことは言わずに」

「こんなことをしなくても、屋敷の位置はわかっているのに」


 ギルベルトはお屋敷にこっそり忍び込んでいました! などということをエルク殿下が知ったらどう思うのか。ひとまず墓場まで持って行ってほしい事実である。


 ギルベルトはくわ~~っと欠伸をしていた。


「昨日、眠れなかった?」

「いつもと同じだ」


 ギルベルトを寝かしつけたあと、私は自室に戻って眠っている。

 いつもと同じというのは、私がいなくなったあと起きてしまい、そのあと眠りが浅い状態で朝を迎えたという意味だろう。

 気の毒だがさすがに一緒に寝るまではしていない。

 どうしても翌日に大事な仕事があるときだけは、一緒に眠ってあげるとは言っているのだが。

 今日のエルク殿下への面会は大事な仕事のように思っていたのだが、ギルベルトはそんなことない! と言って認めなかったのである。

 その結果がこれだ。寝不足状態でエルク殿下と冷静に話せるのだろうか。

 心配でしかないのだが……。

 馬車の窓は黒いカーテンで閉ざされ、車内は暗い。到着まで一時間ほどかかるので、仮眠するのにはうってつけの状況である。そう思ってギルベルトにご提案してみた。


「ねえ、ギルベルト、少し眠ってみたら?」

「こんなガタガタ揺れる中で眠れるわけないだろうが」

「膝枕を貸してあげるから」

「はあ、膝枕だあ?」


 膝枕を信用していないような発言である。


「いいから、少し眠ってみてよ。目を閉じるだけでいいから」


 ギルベルトのほうに座り、太ももをぽんぽん叩いてみる。

 薄暗いのでギルベルトの表情はわからないが、きっと疑惑の視線を向けているだろう。


「眠れなかったら謝罪するから」

「まあ、そこまで言うのであれば」


 ギルベルトはゆっくりとした身動きで姿勢を低くし、私の太ももを枕に横になった。

 まるで人慣れしていない野良猫が、初めて人間の膝の上に座ったときのよう。

 頭をよしよしと撫でてあげたら、ビクッと反応した。

 しかしながら文句を言ってこなかったので続ける。

 本当に猫ちゃんみたいだと思った。

 ここまで心を許してくれるようになったんだ、と思うと感慨深い。

 ギルベルトとは今日までいろいろあった。少しは信用してくれているのだろうか?

 わからないが、こうして彼に膝枕をしてあげられたことを嬉しく思う。

 しばらく頭を撫でてあげていると、スースーという寝息が聞こえた。

 本当に寝た!

 思わずアンゼルムのほうを見ると、瞳がキラリと光った気がした。

 あんなに眠れないだの馬車が揺れるだの言っていたのに、あっさり眠ってしまうなんて。

 笑いそうになるのを必死になって堪える。アンゼルムも同じだったようで、二人で我慢大会となった。

 一時間――ギルベルトは深く寝入っていたようだ。馬車が停まったタイミングで目覚める。


「うう、到着したのか?」

「そうみたい」


 のっそり起き上がったギルベルトは、猫みたいに欠伸をしたあと背伸びしていた。


「どれくらい眠っていた?」

「一時間くらい」

「すっきりしたわけだ」


 どうやら眠気が覚めたようなので、仮眠作戦は大成功だったわけだ。

 馬車が開かれ、御者が手を差し伸べてくれるも、ギルベルトが先に下りて制する。

 代わりに彼が私の手を握ってエスコートしてくれた。

 こんな貴公子みたいなこともできるんだ! と内心感激してしまう。

 久しぶりにエルク殿下のお屋敷にやってきた。初めて目にする建物は、派手さはないが古典的な優美さがある佇まいである。

 以前は目隠しされたままお屋敷に入ったが、今回は免除されるらしい。あれは使用人の立場でやってきた者だけすることなのだろう。

 中へと案内される。やってきたのは執事のフィリップ・デュッケ。

 下級従僕を従え、高級ワインやチーズ、生ハムなどを横領していた男である。

 私を毛嫌いするような表情を浮かべながら、エルク殿下のもとへ案内していた。

 廊下の脇に避けて頭を下げる使用人達も、ギスギスしたような非難めいたような、そんな空気を感じる。

 普段の私であればショックを受けているのだが、彼らがエルク殿下のお屋敷にある備品をこっそり盗んでいたのを知っていた。

 そんな彼らに毛嫌いされる筋合いはないのである。

 客間に通されると、メイドを従えたミセス・ケーラーがやってくる。メイドの中にテアの姿はなかった。

 ミセス・ケーラーはにこやかに私達を迎える。変わった様子などは見られない。

 メイド達を下がらせたあと、彼女は想定外の行動に出た。

 なんと私達の前に膝を突き、頭を下げたのである。


「お願い! ルルさん! ここに戻ってきて!」


 いったい何を言っているのか。ギョッとしてしまう。


「ミセス・ケーラー、頭を下げないで、立ってください!」


 腕をぐいぐい引っ張るも、ミセス・ケーラーはびくともしない。

 ギルベルトは腕組みし、凄み顔でミセス・ケーラーを見下ろす。まるで悪人のようだと思ってしまった。そんなギルベルトは尊大な様子でミセス・ケーラーに問いかける。


「戻ってこいって、何があったんだ?」

「それは――ルルさんがいなくなってからというもの、エルク殿下は意気消沈し、食事も喉を通らないみたいで」


 まさかそんな状態になっているなんて。

 以前、ツィツェリエル嬢と婚約が破談となったときも、そんな様子を見せていたという話は聞いていたが……。


「ルルさん、ヴェイマル侯子よりも、エルク殿下と結婚したほうが幸せになれると思うの!」


 ギルベルト本人を前に、大胆なことを言ってくれる。ギルベルトは額に青筋を浮かべ、今にもミセス・ケーラーに危害を与えそうな雰囲気だった。

 危ないと思って、ギルベルトの前に立ってミセス・ケーラーを守る。


「ミセス・ケーラー、私は彼との結婚を決意したんです。ですので、エルク殿下と結婚は考えておりません」


 はっきり宣言すると、ミセス・ケーラーはショックを受けた表情を浮かべた。


「ルルさんが結婚してくれたほうがいいのに……」


 いいというのは、ミセス・ケーラーの都合の話に違いない。

 私みたいに無欲で鈍感な女が主人であれば、着服もしやすいのだろう。


「失せろ」


 ギルベルトの言葉を聞いたミセス・ケーラーは、小さく「ひっ!」と悲鳴を上げ、逃げるように客間から去って行った。

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