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王弟殿下から特別扱いされていた私、なぜか悪女と体が入れ代わる  作者: 江本マシメサ
六章 誰が犯人なのか!?

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まさかまさかのお誘い

 それからというもの、私は婚約パーティーの準備に追われる。

 楽団の手配や使用人の配置、花瓶に活ける花の用意などなど、準備しなければならないことは山のようにある。

 さらに軽食の一品一品までも考えなければならないようだ。

 この仕事は女性側のホストの重要な仕事らしい。

 いったい何をご提供すればいいものなのか。

 社交界デビューのときに軽食をいただいたものの、エルク殿下とのダンスの印象が強すぎるからか、どんな料理があったのか覚えていない。

 困り果てた挙げ句、ギルベルトに相談することにした。


「パーティーの料理? そんなのなんでもいいんだよ」


 どうせ招待客は社交に夢中で、料理を気にする者なんていないと断言される。


「その辺でちぎった雑草を並べていても、誰も見向きもしないだろうよ」

「ええ……」


 でもたしかに、社交界デビューのときに軽食ルームを利用している人なんていなかった。


「なんでもいいって、ルネ村の田舎料理しか知らないのに」

「いいんじゃないか?」

「適当に言ってない?」

「いいや。逆に新鮮でウケるかもしれないじゃないか」

「田舎臭い料理とか言われない?」

「その田舎臭さを知らないはずだから、貶めようもないと思うがな」


 言われてみればそうかもしれない。


「貴族の奴らは狩猟をするために地方にいって、休日を楽しむくらいだから、田舎に嫌悪感は抱いていないはずだ」


 料理名にカントリー風などとつけてから提供すれば、喜んで食べるだろうと助言してくれる。


「そういうのは料理長にお任せもできるんだよ」

「お任せでもいいの?」

「たいていの貴族はそうしていると思う」


 あまり気に病まないように、とギルベルトは優しく肩を叩いてくれた。

 夜は相も変わらずヴェイマル侯爵と食卓を囲んでいる。食後の紅茶の時間には庭に咲いていた花について話したり、三時のおやつがおいしかったり、街で見かけた犬がかわいかった話だったり。ヴェイマル侯爵は私のたわいもない話題を静かに聞いてくれる。


「あの、私の話、つまらなくないですか?」

「そのように思ったことなど一度もない。続けろ」


 つまらないと言われたらそそくさと退室する予定だったが、話をしてもいいと言われてしまった。

 仕方がないので、ギルベルトが私が焼いたケーキを三切れ食べた話をお披露目することとなった。


 ◇◇◇


 ついに、招待状を送ったエルク殿下から返事があった。

 恐ろしいので、夜、ギルベルトと一緒に開封することとなる。


「うう、緊張する」

「おい貸せ。俺が確認するから」

「それはだめ~~」

「なんでだよ」


 ドキドキしつつ手紙を開封する。

 封筒を出す手が震えてしまう。見かねたアンゼルムが、代読してくれることとなった。


『いいわね? 読むわよ?』

「アン、お願い!」


 アンゼルムは肉球に手紙を貼り付けた状態で読んでくれた。


『前略――この度はギルベルト・フォン・ヴェイマル、ルル・フォン・カステル、両名の婚約パーティーにご招待いただき、ありがとうございます。喜んで参加させていただく所存です』


 それを聞いた途端、頭を抱える。

 どうやらエルク殿下は婚約パーティーに参加してくださるらしい。

 断ってもいいのに律儀なお方だ。

 と、私はそう思ったのだが、ギルベルトは違ったらしい。


「あいつ、のこのこ婚約パーティーにやってきて、悲劇の人間にでもなるつもりなんだろう。まったく性格が悪い!」


 それは招待したほうが悪いのでは……? と思ったものの黙っておく。

 エルク殿下がやってくるので、覚悟を決めておいたほうがいいだろう。

 嫌な感じに高鳴る心臓を押さえていたら、アンゼルムがまだ続きがあると言う。


「なんだよ、恨み言でも書いてあるのか?」

『違うわ。いい? 読むわよ――』


 ごくん、と生唾を飲み込みつつ、アンゼルムが読む手紙に耳を傾けた。


『よろしければ婚約パーティーの前に、お祝いをさせてください。ぜひ、我が屋敷にいらして、お二人と一緒に食事をしたいです』


 ヒーーーーーーーー!!!! と悲鳴を上げそうになる。

 まさかエルク殿下のお屋敷にギルベルトと揃って招待されるなんて。


「どどどど、どうして?」

「おい、落ち着け」

「だって、普通、招待する!?」

「しない」

「でしょう!?」


 そこがエルク殿下の性格の悪いところなんだ、とギルベルトは吐き捨てるように言った。


「まあ、ちょうどいいんじゃないのか? 盗まれたチョーカーについても探りを入れることができるだろうから」

「あ――!」


 そうだった。ツィツェリエル嬢のハートのチョーカーが、いつの間にか盗まれていたのだ。

 私の魔力を感知しないと開かない金庫にしまっていたのに、もぬけの殻だったのである。


「で、でも、大丈夫かな? ハートのチョーカー、エルク殿下から盗んだルビーで作っていて」


 さらにそれはツィツェリエル嬢が夜会でいつも身につけていた物なのだ。


「探りを入れたら逆にこっちが責められない?」

「まあでも、盗んだのは向こうの使用人だし」

「いえ、まだ屋敷の人達が盗んだとはわからないから」


 ハートのチョーカーを盗み出した犯人は不明なのだ。なんて言うと、ギルベルトが呆れた表情で私を見ながら言った。


「お前、まだあの屋敷の奴らを信用しているのかよ」

「信用していないよ。でも、犯行現場を見たわけではないから、断言はできないって思っているだけ」

「あれだけの犯行を見たら、使用人の誰かが犯人で間違いないだろうが。お前はあいつらが悪人だって、わかっていないんだよ」


 指摘されて気付く。

 私は心のどこかで、使用人のみんなを信じたかったのかもしれない。


「とにかく、この誘いは断れない」

「そうなの?」

「ああ。エルクの野郎が婚約パーティーに参加するのにこちらが応じないとなると、使用人達の反感を買うだろうからな」


 また記事にされたら面倒だというので、招待に応じるという。


「それにお前が親父に依頼した使用人も、引き取らなければならないからな」

「あ――!」


 テア達をヴェイマル家が引き抜く交渉について、ヴェイマル侯爵が進めてくれていたようだ。


「あとは直接交渉にきてくれって話だったから、ちょうどいいだろう」


 そこまで話が進んでいたとは。

 テア達にまた会えることを考えたら、エルク殿下の屋敷へ招待される日が楽しみになった。

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