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王弟殿下から特別扱いされていた私、なぜか悪女と体が入れ代わる  作者: 江本マシメサ
六章 誰が犯人なのか!?

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家族からの手紙

 叔母のほうの消印は三日前、両親のほうは五日前となっている。

 おそらく同じようなタイミングで送ってきたのだろう。


「ちょっと待てよ」


 手紙に触れる前に、魔力痕を見るらしい。

 魔力痕というのは魔力の痕跡で、最低でも数年ほどは残るようだ。


「手紙自体が罠の可能性があるからな」

「罠?」

「犯人がお前を騙すために送ってきたかもしれないだろうが」

「!」


 犯人が両親や叔母の名を騙って手紙を出してきたと考えたらゾッとする。


「待ってろ。今、魔力痕を調べているから」


 魔力糸を見ることができるギルベルトは、魔力痕の解析もできるらしい。


「こっちが両親だな。お前と似たような、緑色の魔力痕が見えた」


 母は明るい緑、父は深い緑色らしい。それを聞いてなんだか嬉しくなる。


「叔母のほうは、黄色に近い緑だ」


 天真爛漫な叔母らしい色合いだ。

 そしてそれ以外にも魔力痕は残っているという。


「茶色に水色、紫に紺……これらは手紙を仕分ける職員や配達人のものだろう」


 一色だけ、叔母の魔力痕と同じ紺色のものが共通しているという。


「紺色の魔力痕は王都の配達人だな」


 他の住人の手紙受けにも、紺色の魔力痕が残っているという。


「紺の魔力痕は特別濃く残っている。毎日、しかも長い期間をかけて通っていないと、ここまで強い色は出ない」


 紺色の魔力痕の持ち主は犯人ではなく、配達人で間違いないという。


「まあつまり、この手紙は正真正銘、お前の両親と叔母からのもので間違いないわけだ」

「よかった!」


 ギルベルトが手渡してくれた手紙をぎゅーーっと抱きしめる。


「よし。確認できたからずらかるぞ」

「ずらかるって、悪人しか使わないような言葉をよく知っているね」

「うるさい!」


 ギルベルトは再度私を抱き上げた状態で屋根から屋根へと移動し、レストランに入店した。勝手知ったる他人の家みたいに、店員の案内もないのにギルベルトはずんずん進んでいく。


「あの、いいの?」

「いい。予約しているからな」


 なんでもここは無人のレストランだという。なんでも入店から退店まで、誰とも会わずに食事ができるようだ。密会などに皆利用しているらしい。

 行き着いた先は個室で、料理はすでに卓上に用意されていた。


「ひとまず手紙を確認しろよ」

「料理が冷めない?」

「ここの料理は冷めない皿に盛り付けられているから、気にしなくてもいい。ただお腹が減っているようなら先に食べてもいいが?」

「いいえ、大丈夫!」


 お腹は空いているような気がするものの、そこまで食欲が湧いてこないのだ。お言葉に甘えて、先に開封させていただく。

 両親からの手紙を読む。中には社交界デビューを済ませたか? というものや、王都で困ったことはないか、いい出会いはあったかなど、平和な内容しか書かれていない。

 二枚目にはエルク殿下のお屋敷で働くことになったと聞いた、とある。なんと、エルク殿下が直々に両親へ手紙を書いてくれたらしい。

 私が事件に巻き込まれて殺されたことなど、把握していないような手紙だった。

 手紙の最後には、ゆっくりできるようになったら手紙を送ってほしいとある。

 読み終えた瞬間、安堵感に全身が包まれるような思いとなった。


「よ、よかった~~~~~~!!!!」


 手紙を胸に抱き、神に……いいや、エルク殿下に感謝する。

 まさか両親に手紙を送っていたなんて、誰が想像できようか。


「ご両親、事件について知らなかったのか?」

「ええ、そうみたい」


 叔母の手紙も読んでみるように勧められる。

 ドキドキしながら開封すると、叔母の手紙も両親からの内容と変わらないものが書かれてあった。


「叔母様のほうにも、エルク殿下からお手紙が届いていたみたい」

「凄まじい念の入れようだな」

「ええ、びっくり」


 私の死を知って悲しんでいる家族はいない。

 いつか知ることになるだろうが、今はそれでいい。


「ギルベルトがアパートメントに連れていってくれたから、家族の近況を知ることができた。本当にありがとう!」


 ギルベルトはなんとも言えない表情を浮かべる。

 私の事情を知っている彼にとって、今の状況はよかったとは言えない。

 なんて言葉を返していいのかわからなかったのだろう。 


「こんなにたくさんよくしてもらって、私から返せるものは何もないのに」

「気にすんなよ。今は親父や親族からの結婚しろの圧を回避できて、助かっているから。それだけでもまあまあありがたいことだ」


 きっと私が気にしないように、そういうふうに言ってくれたのだろう。

 彼の優しさに感謝した。


「さて、手紙の確認も終わったから食べるか」


 両親や叔母の近況を知ることができたからか、先ほどよりも食欲が湧いているような気がする。

 さっそくいただこう。

 旬の芽キャベツのオーブン焼きに、カリフラワーのスフレ、白インゲンと温野菜サラダ、ジャガイモと鶏肉のグラタン、マッシュルームのパイポタージュに鹿肉の赤ワイン煮、鮭のパン粉焼きなどなど、種類豊富な料理が用意されていた。

 どれもおいしくって、幸せな気持ちで満たされる。

 一人では食べきれないので、ハティにも分けてあげた。

 肉や魚を食べるハティを見て、ギルベルトが「お前、鶏肉も食うのかよ! 共食いじゃないか」と指摘すると、ハティは平然と『鶏肉は別腹なんですう』なんて言葉を返す。ギルベルトは呆れた様子で「デザートみたいに言うな!」と返していた。

 そんな二人のやりとりを聞いて、アンゼルムと一緒に笑ってしまったのは言うまでもない。


 食後にギルベルトは王都名物のベリーパイのお店に連れていってくれた。

 けれども残念ながら定休日だった。


「あー、間が悪かったな」

「不定休って書いてあるから、仕方がないよね」


 大人気店なので、開店前から行列にも並ばないといけない。どちらにせよ、今日は無理だったのだ。


「というか、ベリーパイについて覚えてくれていたんだね」

「怨霊みたいに食べたかったー! とか言っていたからな」

「ひ、酷い!」


 ギルベルトは軽口を叩いていたものの、どこか残念そうだった。

 チョコレートを持ち歩くくらいなので、甘い物好きなのかもしれない。


「まあ、事件が解決してからのご褒美でもいいのかもしれないな」

「え?」

「また来ればいい」


 ギルベルトの言う〝また〟なんて、私にはあるのだろうか?

 わからないけれど、彼の心遣いが嬉しいと思ってしまった。

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