王都にてお買い物を
ヴェイマル家のタウンハウスは王都から馬車で一時間ほど離れた場所にあるらしい。
ただそれも空を飛んでいったら話は別である。馬車は鬱蒼と生えた木々を迂回するように走らなければならないが、空路はまっすぐ王都を目指せる利点がある。
「わあー、すごい!」
風圧や気温はアンゼルムが魔法の結界を張って防いでくれる。そのため、快適な空の旅だった。
そんな中、前を飛んでいる鷹獅子に乗っているギルベルトが振り返り、ハティを挑発するようなことを言ってきた。
「おい、鳩! ちんたらとしか飛べないのか?」
『ハティ、早く飛べるもん!』
そんな言葉を返し、ハティは速度を速める。
「ちょっ、ハティ、挑発に乗ったらダメ!」
『安全飛行なさいな!』
私達の制止は遅かったようで、ハティはすでに加速してしまった。
のんびり飛んでいたのに、ヒュン! と音を立てて飛んでいく。
あっという間に鷹獅子と距離を詰めるどころか、追い越してしまった。
「ちょっ、鳩! 俺達を追い越すな!」
『鳩じゃなくて、かわいいハティですよーだ!』
「勝手に名前にかわいいを入れるな!」
抗議内容はそれでいいのか。なんて思っている間に王都へたどり着く。
ギルベルトと鷹獅子が追いつき、着地する場所があるからついてくるように指示があった。
初めて王都を上空から見下ろす。
昼間の社交期はどこもかしこも人が多く、まともに身動きが取れなかったのだが、空を飛んでいたら関係ない。
叔母や母と通っていた劇場も空から発見できた。今日は人気演目だからか、いつもより人が多い。周囲に出店している露店も賑わっているように見えた。
『わあ、なんだかいい匂いがするう!』
「人形焼きが焼ける匂いだと思う」
生地はふかふかで、中には濃厚なカスタードクリームがたっぷり入っているのだ。
人気の演目のキャラクターを模していて、なかなか食べ応えがある。安価なのも嬉しいポイントだった。
「あの人形焼きを食べながら、行列に並んでいたんだよねえ」
いつもは食べ歩きは行儀が悪いからと怒られるのに、ここでは行列中に何か食べるのが作法だと言って許されていたのである。懐かしい気持ちがこみ上げてきた。
あっという間に貴族街のほうに到着した。目的地についたようで、お店の屋上に鷹獅子、続いてハティも屋上に着地する。巨大化を解いて私の肩に止まった。
「ハティ、お疲れ様」
『楽しかった?』
「ええ、とっても」
偉い、偉いと褒めると嬉しそうに目を細める。
視界の端で鷹獅子が私をじっと見つめていた。なんだろうと思っていたら、アンゼルムが解説してくれる。
『あの子もあなたに褒めてほしいみたい』
「そうだったんだ。任せて」
ハティにしてあげたように鷹獅子の嘴を撫でてあげると、嬉しそうにきゅるきゅる鳴いてくれた。
『ルル、ギルベルトも見ているわ! きっとあなたに褒めてほしいのよ!』
「何を言っているんだ! 俺はいい!」
「そんなに激しく拒否しなくても」
ハティはいつの間にか鷹獅子の頭に乗っていて、甘えるコツなどを伝授していた。
なぜ、あのような自分の何十倍も大きな鷹獅子相手に先輩ぶれるのか。
まあ、そういうところも愛らしいのだけれど。
「だらだら喋っていないで、いくぞ!」
「はーい」
お店に繋がる扉は魔法仕掛けのようで、ギルベルトが手をかざすと扉が開く。
二階部分になったフロアには紳士服が展開されていた。
出迎えたのは白髪頭をきれいに結い上げた、六十代くらいの品のある女性である。
「いらっしゃいませ、ヴェイマル公子! ご来店されると思っていました!」
なんでも婚約発表の記事を読んだらしく、盛大に祝福される。
「婚約者様のドレスを購入されにいらっしゃったのですよね?」
「まあ、そうだな」
「わかっておりましたよ。どうぞ一階へ!」
一階に下りると、美しいドレスがトルソーに着せられた状態で陳列されていた。
「二十着くらいいけるか?」
「もちろんでございます!」
「俺は二階を見て時間を潰すから」
「んまあ!! この愛らしい婚約者さんの試着をご覧にならないのですか!?」
「いや、別に」
「遠慮せずに!!」
なんというか、圧がすごい。ギルベルトも圧倒され、用意された椅子に座らされている。
さすが商売人、なんて考えていたら、店主さんが私の肩をぽん! と力強く叩いてきた。
「さあ、お似合いのドレスを選びましょうねえ」
「は、はあ」
あれこれ試着して、結局三時間ほどかけてドレスを選んだ。
私とギルベルトはげっそりしている。
選んだドレスはヴェイマル家の屋敷まで配達してくれるらしい。
解放されるように私達はお店の外に出たのだった。
「あ~~~~、大変だった!」
「女って、ああいうドレス選びが好きなんじゃないのか?」
「好きだけど、限度があるよ」
一着や二着であれば、わくわくしながらたくさんのドレスの中から選んでいただろう。
二十着も選ばないといけないなんて、誰が想像していただろうか。
あれもこれもと試着させてくれるので、楽しいことは楽しいのだが、終わったあとの疲労感がすごかった。
「それはそうと、あんなにたくさんドレスを買って大丈夫なの?」
「大丈夫だろ。あの店は特殊で、ドレスの在庫はたくさんあるようだから」
「いえいえ、そうではなくって。あんなに買ってお金は大丈夫なのかな、って思ったから」
「お前、俺を誰だと思っているんだよ」
「ヴェイマル侯爵のご子息、ギルベルト君!」
「いや、だからなんで君呼びなんだ」
とにかくドレス代は心配しなくてもいい、と言ってくれた。
私がみすぼらしい格好をしていたら、ギルベルトが恥を掻いてしまう。これは必要経費なのだ、と言い聞かせておいた。
昼食をご馳走してくれるらしい。
「その前に立ち寄りたい場所がある」
歩いて行くようだが、彼は私が想定していなかった移動法を取る。
「今日は特に人が多いから、上を歩くか」
「上?」
「ああ」
あろうことかギルベルトは私に断りもせずに突然横抱きにして持ち上げる。
「は!?」
「歯を食いしばっておけ。ケガするからな」
そう言って、一気に屋根裏まで飛び上がる。
「~~~~~~!?」
そして、曲芸師みたいにぴょんぴょん跳んで屋根から屋根へと飛び移っていた。
これらの動きは走る、飛ぶ、登るを意味する〝移動行動〟と呼ばれるものらしい。魔法のようだと思ったが、すべて自分自身の筋力を用いて行うものなのだとか。
すごーい! なんて思うわけがなく、きちんと説明してから行動に移してほしいと訴えたのだった。




