手紙の仕分けをしよう!
婚約パーティーを私が主催しなければならないなんて……!
手紙を前に絶望してしまう。
『でも、いい機会かもしれないわ。事件の犯人がいたら、ルル・フォン・カステルとしてのあなたが生き残って、ギルベルトと婚約しているなんて驚くと思うから』
何かしらの行動を起こしてくるかもしれない、とアンゼルムは推測しているらしい。
「でも、魂の入れ替わりができるような魔法使い相手に、対抗できるのか……」
『大丈夫よ。ギルベルトは強いし――って、エルク殿下にやられたのを見たばかりだったわね』
「あ……うん」
『ま、まあ、エルク殿下レベルに強い相手なんていないと思うから!』
それにパーティーの会場はヴェイマル侯爵家の屋敷である。強力な結界があるため、悪さはできないようだ。安心するようにアンゼルムは言ってくれた。
『それにしても、あなたのヴェイマル侯爵の乗せ方を聞いて、笑いそうになったわ』
「テア達のこと?」
『そう! ヴェイマル侯爵相手にあんな大胆な交渉ができるの、あなたくらいよ』
「必死だったんだよ~~」
結果的にヴェイマル侯爵がなんとかしてくれるというので、あとは安心してお任せしておく。
それよりもこれから手紙の振り分けと参加者の精査をしなければならない。
「誰と付き合ったほうがいいとか、誰を招待したほうがいいとかわからないのに、どうしよう!」
『ルル、任せて。このあたしがここ百年分の貴族の醜聞はきちんと記憶しているから』
なんと、アンゼルムはゴシップ新聞や雑誌など、ツィツェリエル嬢が収集したものを読みあさっていたらしい。
『あたしの記憶力を頼りに、付き合ってはいけない貴族を振り落とすわよ!』
「さ、さすが、アン!!」
アンゼルムのおかげで、招待及び付き合ってはいけない貴族についてはどうにかなりそうだ。
『たぶん、今日届いた中で半分以上は脱落するんじゃないかしら?』
「そうなの?」
『ええ。こういう貴族社会でフットワークが軽過ぎるのは、たいてい後先考えないお調子者が多いから』
もちろん、情報収集を怠らずに素早く祝福の手紙を送った者もいるようなので、用心に用心を重ねて精査する必要がありそうだ。
そんなわけで、作業を開始する。
『ボーレンダー男爵はメイドに手を出しまくって、認知していない子どもがわらわらいるみたいよ! そっちのプレイル子爵家は汚職で一度逮捕されているの! ああ、ドレーアー伯爵は血統主義で伯爵家以下の人達を虫けらみたいに扱うみたい』
出るわ出るわ、問題児が。
手紙は全部で百五十通ほど届いており、そのうちの百四十通ほどが祝福のものだった。
そのうち、六十通ほどが付き合う価値のない者達である。
中には田舎貴族の私ですら知っている名家の当主からも届いていたが、皆揃って招待できないような醜聞を過去にしていたようだ。
なんというか、名の知れた貴族も自分が持つ富や名声で満足せずに、悪行に手を染めてしまうんだな、と思ってしまった。
残った八十通の中で誰を誘おうか。頭を抱えていたら、アンゼルムが解決策を教えてくれた。
『その中で誰を招待するのか、ギルベルトに決めさせたらいいわ』
「え、ギルベルトの手を借りてもいいの?」
『もちろんよ。というか、一人で準備するなんて絶対無理だから、どんどんあの子も使いなさいな』
ヴェイマル侯爵も言わなかっただけで、主催はギルベルトと私のはずだとアンゼルムは教えてくれた。
ひとまず招待客は保留にして、ロホスさんがお茶を持ってきてくれたタイミングでヴェイマル侯爵宛てに届いた手紙を託す。
「こちらが急いで対応しなければならない分で、こちらはさほど急がない分です」
「もう仕分けされたのですね!?」
「ええ、まあ」
アンゼルムが手伝ってくれた、というのは黙っておく。
契約関係にあるということは、ギルベルト以外には言わないほうがいい、と言われていたのだ。
「たしかに預かりました。あとからメイドがやってきて、お部屋に案内しますので」
どうやら私の本拠地は離れから本邸へ移ってくるらしい。
娘であるツィツェリエル嬢が離れで私が本邸だなんておかしな話でしかないが、これも家庭の事情なのだろう。
三十分後にメイドがやってくる。案内された先は、同じく一階にあるお部屋。
寝台にテーブル、椅子に姿見にチェスト、本棚など、生活に必要な家具が揃えられただけの質素な部屋だ。
当然ながら、チェストにドレスなんぞは用意されていない。
メイドも「必要なお品があればおっしゃってください」と言うばかりでいなくなる。
ハティも鳥かごごとやってきていて、元気に翼を広げていた。
『お引っ越し、楽しかったー!』
ハティはメイド達にかわいがってもらったようで、庭で拾った木の実を与えられたらしい。ハティはどこにいっても愛されるようだ。
『なんていうか、エルク殿下の待遇とは大きな違いね』
「でも、こっちのほうが落ち着く」
『だったらよかったわ』
その後、夕食はヴェイマル侯爵と囲むことになってしまう。ギルベルトは帰りが遅く、共に食事を取ることはほぼないようだ。私の食事マナーにヴェイマル侯爵が目を光らせているような気がして、あまり味がしなかったように思える。
終始、無言というわけにもいかず、食後の紅茶の時間に話しかけてみる。
「その、夕食はいつもお一人で召し上がっているのですか?」
「そうだが?」
会話が一瞬で終了する。どうやらギルベルトは夜の帰りは遅いらしい。
「明日から、ご一緒しないほうがよろしいでしょうか?」
これだけ気まずいのだ。別々に食べたほうがいいだろう。そう思ったのだが――。
「いや、別にいても構わない」
「ワア、ウレシイデス」
想定外の返答に、棒読みになってしまう。
どうやら今後もヴェイマル侯爵と一緒に夕食を囲むことになりそうだ。
なんだかいろいろありすぎて疲れてしまった。まだいろいろとやりたいことがあるのに、瞼が重たくなっていく。
寝台で少しだけ仮眠を取ろう。
なんて思っていたのに、意識は深く沈んでいったのだった。




