ハティの調査
翌日、私とギルベルトの婚約は大々的に報じられた。
新聞社のうち七紙が報じ、国内でもっとも歴史あるメイト紙では二面記事で大きく扱われている。私とアンゼルムが望んでいたドリス紙にも三面だったが比較的大きく記事が掲載されていた。
『ヴェイマル侯爵、ずいぶんと頑張ったのねえ』
「略奪記事は醜聞をメインに扱う一紙しか報じてなかったのに、婚約記事はこんなにたくさん出るなんて」
『貴族の結婚は政治的な意味合いが強いから、各紙も世間が注目するであろう大きなニュースとして扱ったのね』
逆に浮気や略奪などは特別社会に影響がないため扱いも小さいという。一般的な新聞は基本的に扱うことはしないらしい。
『今回のヴェイマル侯爵の手回しも早かったけれど、エルク殿下側の略奪記事が出るのも早かったわね』
「そ、そうだね」
ヴェイマル家の領地から戻ってきた翌日には出ていたので、きっと私がいない事情を聞いた使用人が新聞社に密告したに違いない。
『今回の婚約発表のほうが大きく報じられたから、ギルベルトの略奪イメージも薄くなったはず!』
「それを聞いて安心した」
私のせいでさらなる悪評が増えるというのは心が痛む。
『大丈夫よ、心配しないで。もともとギルベルトの評判なんて地に落ちていたようなものなんだから』
「それでも悪いから」
コツコツコツ、と窓を叩く音が聞こえ、視線を移すとハティが翼をバタバタ動かしてアピールしていた。
「ハティ!」
急いで窓を広げると、ハティが『ただいま~~!』と言って部屋に入ってくる。
「おかえりなさい。大変だったでしょう?」
『こんなの楽勝だよ』
ハティは昨日の晩からエルク殿下の屋敷に潜入していたのだ。
いったいどういう状況になるか、調査してもらったのである。
ハティの首に提げてあった、サファイアの粒があしらわれた銀のチェーンを外す。
これはハティが見てきたものを記録する魔技巧品なのだ。
さっそく見てみることに。
桶に張った水に落とすと、エルク殿下の屋敷の様子が映し出された。
メイド達の様子が見える。何やらリネン室で噂話をしているようだ。
『エルク殿下、また逃げられたのですって』
『今度はヴェイマル公子に略奪されたとか!』
『エルク殿下、お人柄もよくて精悍でお優しいのに、女運だけはないわねえ』
ここでメイド長であるカーリンに見つかり、お喋りしている暇があったら働くように、と怒られていた。
カーリンが深いため息をついていると、ヨルダンがやってきた。
何か深い話でもするのか、きっちりリネン室を施錠していた。
『カーリン、カリカリするな。疲れるぞ』
『でも……』
『またターゲットは見つかるさ』
『今度はいい人だと思っていたんだけれど』
思いのほか、エルク殿下のお相手として受け入れられたのか。
申し訳ないという思いに駆られていたのだが……。
『あのまぬけな女を利用できたら、こちらも動きやすかったのに』
『銀器室を狙った計画は中止ね』
『ああ。まあ、いいさ。次もすぐに見つかるだろうから』
この会話はいったい? と思った次の瞬間、カーリンとヨルダンは熱烈に見つめ合う。
そして抱き合うと、濃厚な口づけを交わしている。
「わーお」
『この二人、できていたのね』
ここで記録は途絶えた。続きもあるようだが、ひとまず止めておく。
「さっきのカーリンとヨルダンの話、もしかしてだけれど、銀を盗もうとしていたのかな?」
『間違いないと思うわ』
下級使用人の上に立つ者達が盗みを計画するなんて、あってはならないことである。
『ああいうことがあるから、使用人の交際はきつく禁じられているのよね』
基本的に屋敷で働く使用人は独身者である。家族がいればそれを理由に休まれたり、家族が第一になったりする者も出てくるから。
そして交際が禁じられているのは、仕事の合間に逢瀬を繰り返したり、浮かれるあまり仕事がおろそかになったり、先ほどのカーリンとヨルダンのように結託して悪いことを企んだりする者が出てくるからだ。
『もしかしたら、ツィツェリエルのルビー盗難事件も、あの二人が絡んでいるかもしれないわね』
「ツィツェリエル嬢は罪を被せられた、ってこと?」
『その可能性があると思うわ』
ただルビーはツィツェリエル嬢の手にあった。その辺については謎である。
「ルビーを盗んだことが見つかりそうになって、ツィツェリエル嬢の私物に紛れ込ませたのかな?」
『ありうるわね。犯人はあの二人以外にいるかもしれないけれど』
あの屋敷にいる人達は誠心誠意、エルク殿下にお仕えしているものだと思っていた。
「あんなに雰囲気がいいお屋敷だったのに」
『皆、各々私腹を肥やしているから、バレないように愛想よくしていたのかもしれないわね』
「そ、そんな~~」
なんというか、人間不信になりそうな話である。
『早めにエルク殿下のお屋敷から撤退できてよかったわ。もしかしたらあなたにも盗難の罪が押しつけられたかもしれなかったから』
「あ……」
そういえばまぬけな女だとか、ターゲットだったとか、利用がどうこうとか言っていた。間違いなく彼らは私を利用し、盗みを働こうとしていたのだろう。
「その辺、自白茶葉を使って話を聞き出したときは、まったく気付けなかった」
『まあ、自分の財産をよく把握していないエルク殿下のもとで働くことへの忠誠心は本物なのかもしれないわね』
なんてこった、と思わず頭を抱えてしまった。




