真実
いつもツィツェリエル嬢が着けていた、真っ赤なハートのルビーがあしらわれたチョーカーだ、と説明してもポカンとしている。
「夜会でいつも身につけていたと思うんだけれど」
「あの女の格好なんぞ覚えているわけないだろうが」
ギルベルトはしらばっくれているようには見えない。本当にルビーのチョーカーについて把握していないのだ。
ならばエルク殿下のルビーを持ち出し、ボースハイトを効率よく集める魔技巧品を作るように指示したのはヴェイマル侯爵だったのか。
「別にルビーのチョーカーなんぞいくらでも作れるだろうが。慌ててエルクの野郎の屋敷に取り戻しにいくような品でもないんじゃないのか?」
「違うの。あれは――」
話してもいいのかわからないのでアンゼルムのほうを見ると、こくりと頷いていた。問題ないというので、具体的に説明する。
「ツィツェリエル嬢がエルク殿下のもとから盗んだルビーで作った、ボースハイトを集める魔技巧品みたいで」
「は!?」
「純度の高いボースハイトのみ、集められるような加工がされているんだけれど」
「待て待て待て」
ギルベルトは眉間に深い皺を寄せ、理解できないとばかりの視線で私を見つめる。
「情報が多すぎる。一つずつ詳しく聞かせろ。ルビーがなんだって? エルクの野郎から、ツィツェリエル嬢が盗んだと?」
「ええ。そのルビーはエルク殿下が花嫁に贈るために準備していた品で、証拠はないけれど、エルク殿下のお屋敷で働く使用人達がそう話していたの」
それを聞いたエルク殿下は盗まれたことを把握していなかったが、ツィツェリエル嬢にあげるつもりだった、と言って咎めることはなかったということも伝える。
「いや、つーかどうしてツィツェリエルがエルクの野郎の屋敷を出入りできたんだ?」
「花嫁修業としていっていたみたいで」
「初めて聞いた」
彼の把握していない任務だったらしい。というか、普段から関わり合いがないからか、お互いにどんな任務についているかの興味さえなかったという。
「エルク殿下とツィツェリエル嬢は恋仲で、結婚前提だった、なんて噂話もあったようで」
「なんだそりゃ。貴族の血筋ではないあいつが、王族となんか結婚できるわけがないのに」
反対を押し切って婚約しようとしていた矢先の事件で、周囲の者達が動いて二人の仲は引き裂かれてしまった――。
「その後、ツィツェリエル嬢はエルク殿下のルビーを、ボースハイトを集めることができる魔技巧品に加工して任務に当たっていたみたいなんだけれど」
「そんなの知らねえ。つーかそもそも、そのボースハイトを集める任務ってなんだ?」
「え?」
「は?」
何か言い方を間違ったのだろうか?
改めて確認してみる。
「えーっと、ヴェイマル家はボースハイトを集めて、この地を汚染させて人間を魔物化させているんだよね?」
「待て待て待て待て! どうしてそうなる!」
「だってこの領地はそういうところでしょう?」
「違う。ここはそうではなくて――」
ギルベルトはこれ以上深くならない眉間の皺を解しつつ、何やら唸っている。
「この情報は一族以外開示できないんだが……」
ここでアンゼルムがハッとなる。何かに気付いたようだ。
『もしかしてあなた達、ボースハイトを集めているんじゃなくって、ボースハイトをため込んだ人達を浄化して回っていたの?』
ギルベルトは「あ!」と言わんばかりの表情でこちらを見る。
どうやらアンゼルムの予想は正解らしい。
『やっぱりそうなのね』
ギルベルトは「はーーーーーー」と盛大なため息を吐いたのちに、言葉を返す。
「どこで気付いた?」
『兵士達の視察にいく、って話していた辺りかしら?』
たしかにこの領地が魔物を造る施設であったら、兵士でなく収容している人を見て回るだろう。
「だったら街にいる人達はなんなの?」
「あれは、ボースハイトに取り込まれて犯罪行為を繰り返し、どうにもならない者達を収容している場所だ」
週に一度、住んでいる人達を隔離して街の清掃をしたり家を片付けたりしていたようだが、数日で荒れ果ててしまうらしい。
「農作業をしている人達は?」
「あれはボースハイトを多く貯めているが、問題行動が少ない保有者だ」
軽犯罪をしているものの、自分は悪くないという自覚があるようなので兵士達に見張らせているという。
最後に、人間を魔物化させる施設について聞いてみた。
「あそこは魔物を造る施設じゃなくって、魔物になった人間を元の姿に戻れるかどうか研究する施設だ」
「そうだったんだ」
すべては誤解だった、というわけである。
「エルク殿下がご存じないということは、国王陛下も把握されていない、ということなんだよね?」
「ああ、そうだ」
「それはどうしてなの?」
またしてもギルベルトは「う~~~~~」と唸っている。
『ここまで話したんだから、もうすべて言っちゃいなさいよ』
「いや、でも、ヴェイマル家の秘密が」
『あたし達は口が堅いから平気よ』
「信じらんねえ」
『失礼ね!』
私もギルベルトをまっすぐ見つめ、絶対に喋らないことを約束する。
するとギルベルトは「は~~~~~」と盛大なため息を吐いてから打ち明けてくれた。
「もう何百年も昔のことなんだが、ボースハイトに取り憑かれた者がとんでもない大事件を起こした」
多くの魔力を有し、次々と人を魔物化させ、率いるような者がいたようだ。
「いつしかその者は魔王と呼ばれ、討伐を名乗りでた王太子が勇者と呼ばれるようになった」
何度も舞台化したかの有名な魔王と勇者の歴史が、ボースハイトが原因だったなんて。
「なんとか魔王は倒せたものの、王家は同じように魔王が出てくることを恐れた。その結果、ボースハイトに取り憑かれた者をすべての悪とし、次々と処刑していったんだ」
そのような状況の中で、異議を唱える者がいた。それがギルベルト達の祖先である、ヴェイマル侯爵だったらしい。
「当時のヴェイマル侯爵は、魔王を討伐したパーティーメンバーの一員だった」
ボースハイトを浄化できれば何も殺す必要はない。かつての勇者であり、国王となった者に訴えるも、聞く耳などなかったという。
「次々と処刑される者達を見捨てることができなかったかつてのヴェイマル侯爵は、こっそりとその者達を連れ出し、集落を作った――」
それがこの領地だという。
つまりヴェイマル家の人々は長年、いわれなき悪評を被っていた、ということになる。




