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王弟殿下から特別扱いされていた私、なぜか悪女と体が入れ代わる  作者: 江本マシメサ
第四章 誰を信じようか

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虫の息の青年

 どちらが善でどちらが悪なのか、会話や行動からわかっていた。

 それなのに、エルク殿下に身を委ねず、ギルベルトのほうへと走ってしまったのだ。

 アンゼルムも私のあとに続いていた。

 エルク殿下の転移魔法は途中で止まらず、そのまま発現されたようだ。


「ルル嬢――!!」


 そんな言葉を残し、気配がなくなる。

 エルク殿下がこの場にいなくなったからか、黒竜が展開させたと思われる杭の魔法が消えてなくなる。

 けれどもギルベルトが腹部に受けた傷はなくならない。

 彼は自らの血溜まりの中に膝を突く。ぐっと手で傷口を押さえているが、血は止まることなく流れ続けていた。


「ギルベルト!!」

『あんた、大丈夫なの!?』

「大丈夫そうに、見えるのかよ」


 こんな状況でも、軽口を叩く元気はあるらしい。さらにギルベルトは私を見て、嘲笑いながら言った。


「お前、やっぱりバカだ」


 もっと他に言うこともあるだろうに。いいや、今は彼の言葉を気にしている場合ではない。


「おい、聞こえていたのか?」


  会話なんかする余裕なんてないだろうに……なんて思ったら咳き込んで吐血していた。


『ちょっ! ギルベルト、あなた』


 体を支えようとしたら、ギルベルトはそのまま倒れ込んでしまう。

 この出血量だ。近くの街まで運んで治療を受けても助かるかどうか。いいや、あの街にまともな病院ばかりあるはずがない。

 こうなったら――。

 私がぐっと拳を握るのと同時に、アンゼルムがハッとなる。


『あなたまさか、この子にあの力を使うつもり!?』

「この出血量では、お医者様の手でもきっと助からないだろうから」


 あれは何年前の話だったか。王都で馬車にひかれた人を目撃したのは。

 とてつもない出血だったのでエナジー・ヒールを施したほうがいいのでは、と母と叔母に聞いたものの、許してくれなかった。

 あの出血量を治すためにエナジーヒールとしたとしたら、大量の魔力を消費する。おそらく命を脅かすくらいのものだろう、と母は言い切った。

 このまま見ていることしかできないのか、ともどかしくなる。

 幸いにも事故に遭った人はすぐに近くの病院に運ばれた。よかった、とホッとしたのもつかの間だった。翌日の新聞で医者が処置をするも命を散らした、と報じられていたのだ。

 通常、事故は大きく報道されないものの、その人は名のある舞台俳優だったらしい。そのため、一面で大きく掲載されていたという。


 ギルベルトの出血量はあの当時に見たものよりも多い。


『危険よ! あなたの命を脅かすような状況になるのよ!』

「平気」

『平気なわけ――』

「ここはボースハイトが漂うヴェイマル家の土地だから」


 ツィツェリエル嬢はボースハイトを自らの体に取り込み、魔力にできる能力を持つ。

 それを源にギルベルトの傷を回復できるのだ。

 ツィツェリエル嬢について何もわからないはずだったのに、今はどうしてかボースハイトを魔力に変換する方法がわかる。

 どうしてかとか、そういうのを考えるのはあとだ。

 集中し、周囲のボースハイトを自らに取り込む。


「集え、この世の悪意よボースハイト


 ボースハイトは黒い靄と化し、目視できるようになった。

 そんなボースハイトが体に集まってくる。


「――ッ!」


 ボースハイトを取り込んだ瞬間、苦しみと悲しみ、痛みに恨み、憎悪、怒りなどなど、ありとあらゆる悪感情に襲われる。

 辛い。あまりにも辛い。

 息苦しくて、頭はガンガンと金槌で打たれるように痛み、自然と涙が零れる。

 もういっそ、死んでしまったほうがマシ。

 そんな思いに襲われるも、次なる呪文を口にする。


「我が力となれ、この世の悪意よボースハイト


 その呪文を口にした瞬間、体がスッと軽くなる。

 けれどもそれは一瞬のことで、息苦しさと体の倦怠感が体を支配する。それだけでなく、吐き気も催す。


「う、うぷ!」

『ルル、大丈夫!?』

「うう、大丈夫じゃないけれど……」


 これは魔力を多く体内に抱えたことによるものだろう。

 早くエナジー・ヒールを使わなければ。

 ギルベルトの傷口に手をかざし、呪文を唱える。


「傷つきし存在の痛手を癒やし賜え――エナジー・ヒール!」


 魔法陣が浮かんでギルベルトの傷口が光り輝く。

 大きな傷を回復させているからか、魔力の反動で手がガタガタ震える。このままでは体ごと吹き飛んでしまいそうだ。

 いったいどうすればいいのか、と思った瞬間、アンゼルムが大きな手を重ねてくれた。

 すると、驚くほど魔法が安定する。きっとなんらかの魔法で支えてくれているのだろう。


「アン、ありがとう!」

『いいから、エナジー・ヒールに集中なさい』

「わかった!」


 ありったけの魔力をエナジー・ヒールに注いで、ギルベルトの傷が治りますようにと祈りを捧げる。

 魔法陣が消え、光が収まると、ギルベルトの傷がきれいさっぱりなくなっているのに気付いた。


「ああ、よかった――」


 ホッと安堵したら、集中の糸がぶつりと切れたような感覚を味わう。


「あら?」


 ギルベルトの様子を確認したいのに、どんどん視界がぼやけていく。

 目をごしごし擦ったら、視界は真っ暗になってしまった。  

 

明日より1日1回更新(0時公開)になります。

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