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王弟殿下から特別扱いされていた私、なぜか悪女と体が入れ代わる  作者: 江本マシメサ
第四章 誰を信じようか

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体調が不良につき

 あんな酷い街があったなんて……。

 ヴェイマル侯爵は目先の利益を得るために、人の人生を、命を奪った。

 絶対に許されることではない。

 なんだか気持ち悪くなる。吐き気に襲われていた。

 もしかしたら壁を走る走行竜に騎乗していたからかもしれないけれど。


「ルル嬢、大丈夫ですか?」

「え、ええ。平気です」


 エルク殿下は少し休憩したほうがいいのではないか、と提案したもののとんでもない。

 こんな土地で休んでも、癒やされるわけがないのだ。


「先を進みましょう」

「そう、ですね」


 エルク殿下は走行竜のお腹を蹴り、次なる場所を目指して駆ける。

 小高い丘から見えるのは、巨大な農耕地。ここでは麦や野菜などを育てているようだ。

 それだけならばまだよかったのだが、畑には大勢の人達が働き、その周囲には鞭を握ったヴェイマル家の私兵がいる。

 もしも作業の手を止めて脱走しようものならば、激しく鞭を打っていた。


「ひ、酷い……!」

「誘拐した人達をこのようにこき使っていたとは」


 ここにいるのは先ほどの街で見かけた人達よりも意識がハッキリしていて、キビキビ動ける人達だ。


「ここで体に支障をきたすまで労働を強いて、動けなくなったら先ほどの街へ送り込むのでしょうか」

「なんてことを考えるのでしょう」


 エルク殿下は今すぐにでも彼らを助けたいようだが、私兵の数が多すぎるので犠牲が出てしまうという。


「人間相手に戦うのは難しいので」


 普段、エルク殿下は魔物相手に戦っているので、対人用の被害を最小限に抑える戦術は難しいと言う。

 エルク殿下にも苦手なことがあるのだな、と思ってしまった。


「ひとまずこの件は王都に戻ってから陛下に報告をして――」


 今日、この場では行動に起こさず、情報収集に努めるという。


「最後は人間の魔物化を研究する施設なのですが」


 話を聞いている途中で、視界がぐらりと歪む。

 がしっとエルク殿下が私の体を支えた瞬間、ハッと我に返った。


「ルル嬢、どうかしたのですか?」

「いえ、少し……その、車酔い、でしょうか?」


 ここにくるまでも、胃がムカムカして食べたものを吐いてしまいそうだったのだ。


「申し訳ありません。もっと早くに気付いていれば」

「いえいえ、悪いのは言わなかった私です」


 オプファーを出るときに、少し休みたいと正直に言えばよかったのだ。


「研究施設までは私一人で行きますので、ルル嬢は飛行竜のもとで待っていてくれますか?」

「いいえ、ここで大丈夫、です」


 戻ることになれば時間ロスになってしまうだろう。


「転移魔法で竜のもとへ戻るだけなので平気ですよ」


 エルク殿下は「失礼」と言ってから私を横抱きにし、魔法を展開させる。

 アンゼルム!! と思って振り返ったら、魔法陣の中にしっかり入っていた。

 次の瞬間、景色がくるりと入れ変わり、飛行竜が翼を休めていた場所に下り立つ。

 なんでも一度行き来した場所であれば、転移魔法で移動できるらしい。


「研究所の調査が終わったら、すぐに戻ってきますので。ここでゆっくり休んでいてください」

「はい、ありがとうございます」


 エルク殿下は再度転移魔法で元の農作地へ移動していった。

 飛行竜のもとに残された私は、はあ、とため息を吐く。


「私、足手まといだ」

『そんなことないわ。よく頑張っていたわよ』

「うう、アン!」


 アンゼルムに抱きつこうとした瞬間、背後にいた飛行竜の『フーーーーー』という吐息が聞こえる。

 じろり、と大きな瞳で睨まれてしまった。

 まるでうるさい、睡眠の邪魔だ、と訴えるようなものだった。


「ご、ごめんなさい。少し騒々しかったね」


 そういえばアンゼルムと普通に会話してしまった。飛行竜にしっかり聞かれてしまう。


「あの、アンの姿って、あの子に見えているの?」

『大丈夫だと思うわ』


 なんと、飛行竜よりもアンゼルムのほうが生き物としての格が上らしい。

 さすが私の大きな猫ちゃん! と思ってしまった。


『だからあの子には、あなたが誰もいないところで大きな独り言を言っているようにしか聞こえていないわ』

「そ、それはそれでちょっとショックかも」


 まあ、何はともあれ、帰るまでに体調をどうにかしなければならないだろう。

 ごろんと横になろうとしたら、アンゼルムがサッと長くて太い尻尾を差し出してくれる。


『枕にしたら?』

「ありがとう」


 お言葉に甘えてアンゼルムの尻尾を枕に横たわる。フワフワしていて、極上の寝心地だった。それだけでなく、アンゼルムは余った尻尾を布団のように私のお腹に被せ、ぽんぽんを優しく叩いてくれた。

 だんだんと睡魔に襲われる。昨日の睡眠時間が短かったのもあるのだろうが、アンゼルムの寝かしつけが上手すぎるのだ。


「そんなことをされたら、眠ってしまいそう」

『眠りなさいな』

「うん」


 少しだけ意識を手放す。具合が悪い状態がよくなった。

 三十分ほど眠っていただろうか。こんなところで眠れるなんて、アンゼルムの尻尾枕のおかげだろう。

 起き上がって背伸びをする。気持ち悪さもだいぶマシになっていた。


「ふーーーー」

『あなたも大変ね』

「私よりもアンのほうが大変だったとは思うけれど」


 竜の速さと運動神経についていくのは大変だっただろう。


「走行竜は特に走りと機動力に特化した子みたいだから」

『まあ、そうね。でもついていけたから』

「さすが!」

『ふふ、もっと言ってちょうだい』


 そんな会話をのんきにしていたのだが、突然飛行竜がもぞりと動く。


「え、何? どうかしたの?」


 起き上がってぐーーっと伸びをし、のっしのっしと歩き始める。


「どこにいくの?」

『お花摘みかしら?』


 それは用を足す、という淑女言葉だったか。

 なんて考えていたら、飛行竜が突然飛び立つ。


「え!?」


 この辺りはお花摘みの場所として相応しくないのか。それとも私の目があるから他の場所でしたかったのか。


『まずいわね。飛行竜が展開した姿隠しの魔法がなくなってしまったわ』

「わあ」


 アンゼルムは自身の姿を隠す魔法は得意のようだが、魔物避け効果のある結界のような姿消しの魔法は使えないようだ。


『もしも魔物と遭遇したときは、全力疾走で逃げて――』


 背後からどさ! と大きな物が落下してきた音が聞こえる。

 気配などいっさいなかったので驚きつつ振り返った。

 その場にいたのは、見知った顔。


「おい、なんでそこにいる?」


 ドスの利いた声で問いかけてくる。

 不機嫌そうな様子でその場に佇んでいたのは、黒髪に深紅の瞳を持つ青年――ギルベルトだった。

 

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