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王弟殿下から特別扱いされていた私、なぜか悪女と体が入れ代わる  作者: 江本マシメサ
第四章 誰を信じようか

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瘴気と共に、生きように死んでいる街

 街を見て回るも、まるで生きているのに死んでいるような、そんな人々ばかりだった。

 洗濯物を干している家などなく、窓から家の中を覗くも荒れ放題。

 食事は道ばたに野菜やカビたパンなどが落ちているのだが、まさかこれがそうなのか?

 こんなの人の営みとは言えない。廃墟に人が住んでいると表現したほうが相応しいだろう。


「あの、ここにいる人って、助けることはできないのですか?」

「これほどまでに瘴気に体が毒されている者達は、元の状態まで戻すのはとても難しいものだと思います」

「そんな!」


 ふと、メエメエという鳴き声が聞こえて振り返る。

 ガリガリに痩せた山羊がこちらへ接近していた。

 人間だけでなく、山羊までも捕まえて放っているというのか。

 お腹が空いているのか、ふらつきながらこちらへやってきていた。

 街中に緑なんかなく、山羊の食料がないのだろう。

 どうしたものか、と思っていたら突然アンゼルムが叫んだ。


『危ない!!』


 その声が聞こえたのと同時に、エルク殿下は腰の剣を引き抜く。

 山羊は突然豹変ひょうへんし、瞳を真っ赤に染めながら突進してきたのだ。


「えっ、きゃあ!」


 目を閉じて奥歯をぐっと噛みしめたものの、衝撃は襲ってこない。

 アンゼルムは私の耳元で『もう大丈夫みたい』と囁く。

 そっと瞼を開くと、山羊は首をねられて息絶えていた。


「あ――」

「ルル嬢、大丈夫ですか?」

「!?」


 エルク殿下の顔が血で染まっていたのでギョッとする。


「け、けがを!?」

「ああ、これは返り血です。無傷ですのでご心配なく」


 急いでハンカチを取りだして、エルク殿下の血を拭うとしたが、待ったがかかる。


「瘴気に汚染された生き物の血に触れないほうがいいかもしれません」


 エルク殿下は普段から魔物の討伐をしていて、耐性があるという。

 ハンカチだけ受け取ってくれるようだ。


「ありがとうございます」

「いえ、こちらのほうこそ、助けてくださり、ありがとうございました」


 まさか山羊があのように突然襲ってくるなんて。思い出しただけでもゾッとする。


「どうして突然襲ってきたのか……」

「魔物化が進んでいた山羊だったのでしょう」


 ああ、そうだった。魔物化の対象は人だけでなく、生きとし生けるものなのだろう。


「あのまま放っていたら、街の人を襲っていたのでしょうか?」

「どうでしょう? もしかしたら瘴気に支配されている者達は仲間意識か何かがあって、襲撃の対象にはなっていないのかもしれません」


 それは魔物同士が古来より戦う姿を見たことがない、という話に似ていた。


「先を急ぎましょう」

「あの、この子を埋めてからでもいいでしょうか?」

「瘴気に汚染された山羊ですので、直接触れないほうがいいでしょう」

「でしたら私は穴を掘るので、中に埋めていただけますか?」

「それは――」

「待っていてくださいね」


 ちょうど近くの家の壁にスコップが立てかけてあったのだ。

 家主に声をかけてから借りたかったが、残念ながら中には誰もいないようだった。


「少し借ります!」


 スコップを手に取って、比較的土が柔らかそうなところを掘り返す。

 その間、エルク殿下は外套を脱いで山羊の亡骸を包んでいた。


『ルル、あたしも穴掘りを手伝うわ』

「アン、ありがとう」


 アンゼルムが手伝ってくれたおかげで、山羊が一頭入れそうな穴を掘ることができた。

 本来ならばもっと深く掘らないと臭うのだが、今回ばかりは許してほしい。

 エルク殿下は外套に包んだ山羊の亡骸を穴にそっと運び、布団をかけるように優しく土を被せる。

 手向ける花などなかったので、リボンを結んだ枝を刺しておいた。

 どうか安らかに眠れますように。

 山羊が眠るお墓の前で祈りを捧げた。


「急がないといけないのに、申し訳ありませんでした」

「いいえ。本来ならばしなければならないことを、長年戦いの場に身を置いていたからか、失念しておりました」


 ごくごく普通の山羊だったのに、ヴェイマル家の都合で魔物になりかけていたのだ。

 失うはずでなかった命の大切さをエルク殿下は思い出したという。


「ルル嬢のおかげです。ありがとうございました」


 当たり前のことをしただけだったのでお礼を言われてしまうと戸惑ってしまうのだが、エルク殿下にとっては大切なことだったのだろう。


「エルク殿下、今度こそ急ぎましょう!」

「そうですね」


 その後も調査を続ける。

 ここの街では山羊だけでなく、人も時として私達を襲撃してきた。

 人は山羊ほど凶暴化していなかったものの、襲われたら厄介な存在であることに変わりはない。


 街には管理棟のようなものがあって、そこは街の住人が出入りできないように高い壁で遮られていた。

 時間になると人が建物の外に集まってくる。

 何があるのかと思って見ていたら、食事の時間だったようだ。

 けれども食事は壁の外から地面に投げ込まれ、それを人々が拾うというものだった。


「あんなのまるで――」

「家畜ですね」


 私が言いよどんだ言葉を、エルク殿下がはっきり言ってしまった。


「そろそろ撤退しましょう」

「ええ」


 開けた場所から走行竜に騎乗し、街の外へ脱出したのだった。 

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