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王弟殿下から特別扱いされていた私、なぜか悪女と体が入れ代わる  作者: 江本マシメサ
第三章 謎が謎を呼ぶ!?

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プレッシャー

 生まれて初めて、家族以外の男性から慰めてもらった。

 しかも、優しく肩を支えてくれたのだ。

 びっくりしすぎて涙が引っ込んでしまう。


「一度、故郷に帰りますか?」

「い、いいえ、大丈夫です」


 優しく手を握られ、硬直してしまう。

 ミセス・ケーラーに「もうこれ以上無理です!」と目線で訴えたら、晩餐室から連れ出してくれた。

 よくやった! と褒められるかと思いきや、彼女は私を心配している。


「ルルさん、故郷に帰りたくなったときはいつでも言ってね。休暇を入れてあげるから」

「故郷まで……片道馬車で十日ほどかかるのですが」

「十日……」


 馬車で数時間の距離にあるとか思っていたのだろう。思いのほか日数がかかるとわかったからか、ミセス・ケーラーはしょんぼりしていた。けれどもそれは一瞬で、何か思いついたのかぽん! と手を打つ。


「そうだわ! エルク殿下の竜に乗ったら、もっと短い日数で行けるはずよ! ご両親にも挨拶できるし、いい案だと思わない?」


 思わないです……。

 そうだった。エルク殿下は竜の使い魔を使役しているのだ。

 私が往復日数を気にして帰らないと言えば、竜で送り迎えをしてくれる可能性がある。

 発言には気をつけよう、と心の奥底から思った。


 最後に、ミセス・ケーラーは部屋の前で謝罪した。


「ごめんなさいね。私があまりにもエルク殿下との関係に期待しちゃったから、追い詰めてしまっていたわね」


 お気づきでしたか……と言いたくなったが、ぐっと我慢した。

 ミセス・ケーラーは今後も味方として傍にいてほしいので、このまま良好な関係を続けたいのだ。


「これからいろいろなことがあるかもしれないけれど、なんでも相談してね」

「はい、ありがとうございます」


 これから起こるいろいろなことってなんだよ、と思ったものの、こちらの疑問も呑み込んだ。

 ミセス・ケーラーと笑顔で別れ、部屋に戻る。

 すると、バルコニーに続く窓に人影があったのでギョッとした。

 さらにその人影は、ハティと何やら言い合いをしている。


「おい、鳩! ここを開けろ!」

『不審者は入れたらだめって、言われているから無理~~』

「なんだと、この鳩! いやお前、喋ることができたのか?」


 ここでハティは左右の翼で嘴を隠す。

 普通の鳩の振りをしていたようで、初めて私以外の人前で喋ったようだ。


「つーかおい! お前、帰ってきているじゃないか! 早くここを開けろ!」


 アンゼルムが姿を現し、人影もといギルベルトのもとへ歩いて行く。


『物を頼む態度ではないわねえ』

「お前、生意気な野良猫め!」

『相変わらずお口が悪いのねえ』

「うるさい!」


 見回りの使用人に発見される前に、ギルベルトを中に入れてあげる。


「まったく、遅いんだよ!」

「夕食の時間だったの」

「いいご身分だな。俺は食事も食べずに仕事をしてきたというのに」


 空腹なので余計にイライラしているのか。可哀想に思ったので、お菓子を入れた籠の中からマシュマロを取り、ギルベルトへ差し出す。


「どうぞ」

「こんなもんで腹が膨れるわけがないだろうが!」

『それ、どんな味!? ハティも食べたい!』


 ギルベルトではなく、ハティが食いついてきた。瞳をキラキラ輝かせ、マシュマロを見つめている。


「おい、嘴でこんなもんを食ったら、喉に詰まるんじゃないか?」

『ハティは平気! 精霊だから!』

「お前、精霊だったのかよ!」


 ギルベルトは喋り始めたハティのことを、少し賢い鳩だと思っていたらしい。


『あなた、気付いていなかったのねえ』

「精霊の魔力糸は目視しにくいんだよ」

『そうなの』


 妖精、精霊、幻獣の魔力糸は透明で見えなくもないが、見ようと意識し、集中しないと捉えることができないらしい。

 逆に魔物の魔力糸は禍々しい色合いなのでわかりやすいようだ。


 そんな話を聞きながら、私はフォークにマシュマロを刺す。

 持ち手に布を巻いて、暖炉の炎でマシュマロを炙った。


「おい、何をしているんだよ」

「マシュマロはこうやると、世界一おいしくなるの」

「はあ、火で炙っただけのマシュマロが世界一おいしくなるのかよ」

「食べてみて」


 ほどよく焼き色がついたマシュマロを、ギルベルトへ差し出す。 

 食べないかも、と思ったが彼は挑むように受け取った。


「熱いから気をつけて。フォークも熱してあるから、外して食べたほうがいいかも。頬張る前にも、ふーふーしてね」

「ふーふーって」


 ギルベルトは私の忠告を無視し、そのまま食べようとした。けれども唇に触れた途端、熱くて悲鳴をあげる。


「だから言ったでしょう!」

「う、うるさい」


 よほど熱かったのか、ギルベルトはきちんとふーふーしてからマシュマロを頬張る。

 真っ赤な瞳が、ハッと見開かれた。


「おいしいでしょう?」

「まあ、悪くない」


 おいしかったらそう言えばいいのに、素直ではないのだろう。


『次はハティのマシュマロ炙って!』


 ハティはいつの間にか外で枝を拾ってきたようで、そこにマシュマロを指して炙ってくれと頼んでくる。

 お安いごようだ、とばかりにマシュマロを枝に刺し、炙ってあげた。


『まだ? まだ?』

「もうすぐだから」

『わあ、甘くていい匂い~~』


 ほどよい焼き色が付いたマシュマロを、ふーふーしてあげる。


「鳩にはふーふーしてやるのかよ」

「あなたもしてほしかったの?」

「は!? なんでそうなる!? 別にしなくてもいい!」


 そう言ってギルベルトは二個目のマシュマロを手に取り、フォークに刺す。そして暖炉の前に座って炙り始めた。

 耳の端っこが少し赤く見えるのは、暖炉の炎のせいなのか。

 まあ、今は放っておこう。

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