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拝謁式にて

 それからというもの、私とリナベルはエルク殿下に助けてもらった幸運の人として大勢の人達に囲まれ、ちやほやされる。

 拝謁式の列に並んでいても、見知らぬご令嬢達との会話は尽きなかった。

 エルク殿下のおかげで、付添人がいなくてもなんとかなったようだ。

 いちゃもんをつけてきたギルベルトのことは忘れよう。そんな思いで拝謁式に挑む。

 途中、背後に並んでいたご令嬢に質問された。


「結婚相手については何かご予定などございますの?」


 これは初対面だからこそ聞けるものだろう。リナベルは気まずげな表情を浮かべていた。

 というのも、私はこのあとにあるダンスパーティーで誰からも誘われていないから。

 こういった夜会では、受付でダンスカードなるものが配られ、ダンスに誘われたらその人の名前を書いて予約を取る、という文化がある。

 リナベルは数名声をかけられ、ダンスを予約するカードはいっぱいになっていた。

 私は空欄でしかないので、ただの記念品として持ち帰ることになりそうだ。

 まあ、想像通りの展開である。

 貴族同士の結婚は互いに利益がないといけない。実家はたくさんの持参金など用意できないし、支援も期待できない。リナベルのように器量がよくて明るければまた話は別だが、私は都会の人を前にすると何を話していいのかわからなくなる。それゆえ、話しかけられても愛想よく言葉を返せなかったのだ。そんなわけで、私はダンスパーティーが始まったら料理を食べて時間を潰すつもりである。

 その辺は覚悟していたので、自分なりに楽しむ予定だった。


「えー、いいえ、予定は特に」

「そうでしたの。その、ご迷惑でなければ、私の兄と踊りません?」

「いえいえ! どうかお気になさらずに!」


 付添人がいないと聞いて、ご令嬢は私を気の毒がっていたのだ。

 そんなことはない。社交界デビュー用のドレスを用意してもらい、こうしてきらびやかな場に参加しているだけでも幸せだと思っている。


 結婚については……まあ、領地に残っている男性の誰かを父が見繕ってくれるだろう。

 今後は父の良心を信じるほかない。


 三時間ほど並んでやっと私達の番が回ってきた。先にリナベルがいった。頑張れと心の中で応援するも、次は私の番だ。緊張でドキドキしてしまう。

 前は衝立があって背後の人達には見えないようになっている。恥をかかないような配慮がなされているわけだ。

 三分と経たずに私の番となった。促されるがまま、衝立の向こう側へと進んでいく。

 拝謁式が執り行われる空間には、先ほどお目にかかったエルク殿下が座っている。

 穏やかな表情で私を見つめていた。

 このお方は全員にこのような眼差しを向けているのか。だとしたら、あのようにご令嬢方から人気が高いのも頷ける。

 白い杖を持った宮内長官が私の名であるルル・フォン・カステルと呼び上げ、返事をしたのちに膝を折って最敬礼を行う。 

 許す、と声がかかった瞬間、内心ホッと胸をなでおろす。

 無事、私は社交界のレディとして認められたのだ。

 あとは背後を見せないようにゆっくり後退るだけ。そう習っていたのに、声をかけられてしまう。


「ルル嬢の故郷は、西の果てにあるルネ村なんですね」

「は、はい!」


 驚いた。エルク殿下ともあろうお方が、私の故郷をご存じだなんて。


「知識でしか把握していなくて、どんな土地なのですか?」

「それは酷く痩せた土地で、冬は寒さが厳しく、夏は猛暑に襲われるような過酷な場所でして」


 いやいや、悪いところを言ってどうする! 

 弁解したかったのだが、宮内長官がゴホンゴホン! と咳払いした。

 私とのんびり語り合う暇などないのだろう。私は深々と頭を下げる。すると、思いがけない言葉がかけられた。


「ルル嬢、またのちほど」


 のちほどとは? などと思ったものの、宮内長官がさらに大きな咳払いをしたため、急いで下がった。

 心臓がばくばく鳴っている。先に終わっていたリナベルが私を迎えてくれた。


「ルル、どうだった?」

「緊張した!」

「私もよ」


 リナベルと抱き合い、無事に拝謁式を終わらせたことを喜び合う。

 興奮冷めやらぬ中、私は彼女に質問をなげかけた。


「ねえ、リナベルはエルク殿下と何をお話ししたの?」

「お話しですって? 会話なんてできるわけがないでしょう? エルク殿下から許す、って言われたあと、一瞬間が空いてしまったけれど、宮内長官が早く下がれとばかりに咳払いをしたから、急いで後退したわ」

「そ、そうだったのね」

「さすがのお喋りな私も、拝謁式中のエルク殿下に話しかけられるほどの度胸はなかったわ」


 あとからやってきたご令嬢も、許すと言われたあと下がったらしい。

 もしかして、私だけ話しかけられた!?

 まさか! そうだとしても、珍しい出身地に興味が刺激されただけなのだろう。

 そんなふうに決めつけていた私だったが、拝謁式のあとのダンスパーティーで思いがけない出来事が起こったのだ。


 王都最先端のお菓子を眺めつつどれを食べようか迷う私の前に、手が差し伸べられる。


「レディ、よろしければ最初の一曲を踊ってくれませんか?」


 あろうことか、私の目の前でにっこり微笑むエルク殿下の姿があった。

 私はお菓子に夢中になるあまり、周囲にいた人々が接近するエルク殿下を遠巻きにしていたのに気づいていなかったのだ。

 

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